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第三章

117『シュトピア到着』

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 ジリジリとその距離を縮めながら、見えない結界内のアンナリーナたちを取り巻いている盗賊たちを尻目に、中では初めて食べるコロッケの味と食感に盛り上がっていた。

『これはヒットだったね~』

『主人様、ではあと同じものを3台購入なさるのですか?』

 今、アンナリーナはナビと念話で遣り取りをしている。
 最近は安心して統括を任せているナビは、もはや片腕と言って過言ではない。

『うん、宿屋に落ち着いたらね。
 あと、ネロはどうしてる?』

『ずいぶん動きも滑らかになってきました。言葉こそ話せませんが意思の疎通は完璧ですね。
 生きていた頃の記憶が残っているのか読み書きが出来ますので』

『それは凄い!
 次に供与するときには体力、魔力共に100を超えそうだから、何か変化があるかもしれない』

 宿のある町に着くのが楽しみである。


「忘れてたけど、盗賊さんたちはまだやって来ないのかしら?」

 忘れてたのかとテオドールが突っ込む前に、アンナリーナが【探査】している。

「ふうん、諦める気はないみたいね」

 翌朝、まだ襲ってきていなければ馬車で突っ切って、引き離してしまう手もあるのだが、ずっと追いかけられるのも鬱陶しい。

「やっぱり処分してしまった方がいいかな……ねえ熊さん、本当に誘拐屋じゃないんだよね?」

「違うな。
 それに本来、誘拐屋でも討伐は有りなんだぜ?」

 アンナリーナは【ベルネット・プルルス】との付き合いがあるため誘拐屋に忌避感はないが、本来盗賊も山賊も誘拐屋も討伐対象なのだ。

「じゃあ、向こうから襲ってきたら遠慮なくやらせていただくかな」

 実にのんびりとしたものである。



「うわぁ、凄く大きいね!
 王都の城壁より大きいんじゃない?」

 あれから2日、アンナリーナたちは今、ハルメトリア国最南端の町シュトピアの城壁を前にしていた。
 例の盗賊たちは付かず離れずと言ったところで、アンナリーナたちがこの町に入るのを窺っている。
 気持ち悪いが仕方ない。


「ようこそ、シュトピアへ。
 こんな季節によくたどり着けたな」

 門番は、半ば呆れている。

「どうしてもアグボンラオールに行かなくてはならなくてね」

 そう言ってダージェが、自分とボリスの身分証とアンナリーナとテオドールのギルドカードを差し出した。

「それと彼女の従魔がいるのだが、申請はギルドで良いのかね?」

 門番の兵士に肯定されて、馬車は動き出す。
 この後、いつも通りギルドに立ち寄った一行を、物陰から覗く者がいたのに気づく事はなかった。

「2人とも、ここでは2泊するのでそれぞれゆっくりしてくれ」

 今夜の、馬車と厩舎の夜番はイジに任せた。
 早々に夕食を済ませて、結界を張って部屋に戻る。

「明日は朝から市場を見て回りたい。
 熊さんは何か用事はあるの?」

「まぁ……リーナの護衛だな」

「ふふ、よろしくね。
 じゃあ、私はあっちに行くからおやすみ」

 宿屋の2人部屋の真ん中に、ドンとその存在を主張しているテントに、アンナリーナが入っていく。

「リーナ」

「ん?何?」

「もうこっちには戻って来ないのか?」

 置いていかれる子供のような、なんとも言えない寂しそうな表情のテオドールを見て、アンナリーナが微笑んだ。

「じゃあ、テントの方に戻ってくるから、大人しく待っててよ。
 お酒は自由に飲んでもいいけど、酔っ払いは追い出すよ」

 クスクス笑いながら、アンナリーナがツリーハウスに戻っていくと皆揃って出迎えてくれた。

「皆んなお疲れ様。そしていつもありがとうね。
 今夜はネロのステータスを供与します【体力値供与】【魔力値供与】【鑑定】」

 ネロ(スケルトン、雄)
 体力値 160
 魔力値 120

「ネロ、どんな感じ?」

 ギシギシと顎が鳴り、スケルトンの口が開いていく。

「ア、ルジサマ……」

「おめでとう、ネロ。
 話せるようになってよかったね。
 次はこれ、食べてみて?」

 アンナリーナが取り出したのは、サクサクのラングドシャだ。
 アラーニェがお茶の用意に立ち上がる。

 白い、骨だけの指がさりげなくラングドシャをつまみ上げ、口に運ぶ。
 シャクシャクと咀嚼し、ゴクンと嚥下して……それはどこ行った!?
 この後お茶も飲んだが、漏れ出した気配はなし。
 ネロが飲み食いできるのは確かだが、それがどこにいくのかは……謎だ。

「でもこれで一緒にご飯が食べられるね」

 ついにネロが、食事と会話の能力を得た瞬間だった。
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