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第三章

112『疲労』

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 アマルにも手伝ってもらって、アンナリーナを風呂に入れ、濡れた身体を拭き、髪を乾かしてベッドに寝かしつける。
 一度、ぼんやりと覚醒したアンナリーナにポーションを飲ませて、毛布を肩まで引き上げた。

 アマルを残し寝室を出ていく。
 居間には心配そうなセトとイジ、そしてネロがいた。

「お休みになったから、とりあえずは大丈夫。
 私は向こうに行って来るけど、イジには手伝って欲しいことがあるから残っていて」

 アラーニェがドレスの裾を揺らしながらテントとの “ 扉 ”に向かって、セトはネロの面倒を見る事になった。


「テオドール殿、ちょっとよろしいですか?」

 声をかけられるまで、気配一つさとらせなかったアラーニェが、すぐそばに立っている。
 テオドールには今更だが、ダージェとボリスは初めてまともに見たその美貌に言葉も出ない。

「申し訳ないのですが、あちらにお願いできますか?」

 他の2人の手前微笑んでいるが、その瞳の奥に宿る怒りの感情に気づいたテオドールは、瞬時に席を立った。


「テオドール殿、リーナ様が体調を崩されかけています」

 この洞窟でテオドールの寝床となっているテントに入ったアラーニェがそう言って睨みつけてきた。

「!! リーナの具合は?!」

 目隠しの為のタペストリーを跳ねあげて、テオドールが居間に現れた。
 そのまま部屋を突っ切って寝室に向かう。

「お熱などはありません。
 ただ、お疲れが酷くすでにお休みです」

「ああ、気づいてやればよかった……
 最近は調子が良かったからすっかり失念していたが、あいつは本当は繊細で虚弱な女の子だったんだ。
 すまなかった、アラーニェ」

「お休みの前にポーションを飲んで頂けましたので、明朝には回復なさるかと。でも出来れば明日一日はベッドでお休み頂きたいのです」

「ああ、もちろんだ。
 ……やはり俺が、こんな依頼を受けなかったらよかったんだ。
 リーナ、ごめんな。
 アラーニェ、リーナを王都に戻すべきだろうか」

 従魔たちにとって、仮に王都に戻るという事になったとしても、アンナリーナが此処にいる事には変わりない。
 それよりもアラーニェは、目の前の男が泣きそうな顔をして主人の髪を撫でている事が意外だった。
 もし、テオドールが主人の体調よりも先にこの先のスケジュールを持ち出していたら、遠慮なく自らの爪で引き裂いてやろうと思っていたのだ。

「テオドール殿、リーナ様はこのままお休み頂いて、明朝は私とアマルが食事の支度を致します。
 よろしいですか?」

「世話をかける。よろしく頼む」

 その場から離れ辛そうなテオドールが、それでも気持ちを振り切って洞窟内のテントへと戻っていく。
 そんな後ろ姿を、複雑な思いで見送ったアラーニェだった。


 ツリーハウスの中のアイテムボックスは自由に使えるが、アンナリーナのアイテムバッグから物を取り出すことは出来ない。
 だからアラーニェは今夜のうちに朝食の仕込みをする事にする。

 玉ねぎ、人参、蕪、蓮根。それらは荒いみじん切りにして鍋に入れる。
 水で戻さなくてもよい、ひよこ豆も加えてオリーブオイルでゆっくりと炒め始めた。
 玉ねぎに火が通る頃、水を入れて煮込み始める。
 その間にジャガイモと里芋を賽の目切りにし、水に浸す。
 アラーニェは【時短】のスキルを持っていないので、こうして時間と手間をかけてスープを作っていた。

 玉ねぎはほぼ蕩けて、後から投入した芋類はホクホク、最後にたっぷりと入れて煮込んだチョリソーはプリプリに仕上がった。
 このまま、保存用のアイテムボックスにしまい込む。

 パンは形成し、二次発酵も済ませて、あとは焼くばかりのものがアイテムボックスに保管してある。
 野菜は、トマトとチーズにオリーブオイルをかければよいだろう。
 あとは肉だが……ミノタウロスのモモ肉をサイコロ状に切り、塩胡椒、数種のハーブで味付けし、これは魔導冷蔵庫にしまった。


 前夜に、テオドールからリーナは先に休んだとしか聞いていなかったダージェたちは、朝食の用意をしているアラーニェを見て、びっくりしている。
 据え置かれたままになっている魔導コンロにスープをかけ、テーブルにトマトのサラダと焼きたてのロールパン、ツリーハウスの魔導オーブンで焼いてきたミノタウロスのサイコロステーキ・バーベキューソースを出した。

「リーナ様はまだお休みなので、こちらをお召し上がり下さい」

「ちょっと待ってくれ。
 リーナちゃん、寝てるって言うけど、この先の事、大丈夫なのかい」

 ダージェは顔色を変えた。
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