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第三章

101『トンカツ商業化?』

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 見た目変わったものを食べ始めたアンナリーナに、テオドールは『またか』という目を向けたが、後の2人はそうでない。
 興味津々とばかりに見つめられて、しょうがなく聞いてみた。

「えーっと、召し上がります?」

 頷かれ、アマルを見るともう準備を始めている。
 アンナリーナは自分のカツとじ丼をアイテムバッグにしまうと、先ほどより少しだけ甘みを控えて丼を作った。
 ついでにミニソースかつ丼とミニ味噌カツ丼も作ってテーブルにのせる。
 あとは皆で味わった。

 特に、米を食べたことがなかったダージェたちの驚きは大きかった。

「リーナちゃん?
 この白い食べ物は何というものなんだい?」

「これは【米】と言って私の亡くなった師匠の出身国の主食なんです。
 今は師匠がアイテムバッグに備蓄していたものを食べているんですが……この近辺で【お米】を見かけた事はないんです」

「確かに。これほど美味いものなら出回っていてもおかしくないんだが、私も見た事がない」

「あの……」

 ダージェを見上げるアンナリーナは真剣だ。

「もしダージェさんが何か、情報だけでも手に入れたなら教えていただけませんか?」

【米】のためならどんなことでも助力を惜しまない自信がある。

「もちろんだよ。リーナちゃん。
 それと……」

「トンカツのレシピですか?」

「ぜひ、お願いしたい」

 ダージェが期待に満ちた顔をして、アンナリーナを見つめていたが、彼女はかぶりを振った。

「リーナちゃん……」

 途端に、絶望に捉われたダージェが視線を落とす。
 だが彼も伊達に商人を続けてきたわけでない。
 すぐにまた、食いついてきた。

「じゃあ……」

「ダージェさん、誤解しないで下さいね。何もレシピを出し渋っているわけではないんです」

「じゃあ、何故?」

「ダージェさん、私がトンカツを揚げるの……ご覧になってましたよね?
 このトンカツという料理は衣を付けて油で揚げるんですが、これは植物油なんです」

 ダージェはハッとする。

「揚げ油だけでも原価はかなりの価格になりますよ。それに油は一定量揚げると替えなければなりません。
 レシピや調理法云々より、そちらの方がネックになると思います。
 ……とても庶民の間に広められるものだとは思えませんね」

 王侯貴族や富裕層にターゲットを絞れば可能でしょうが、と言葉を続けた。

「レシピを売る事に関しては否やはありません。調理人に作りかたを教える事もです。
 でも、どちらにしても商品化は難しいと思いますよ」

 ダージェは一応は納得したようだ。
 アンナリーナは考える。動物性油脂……ラードやヘッドを使う事もできるのだが、これは温度管理が植物油よりも大変だ。
 前世の、業務用フライヤーなど自動で温度の管理が出来なければ難しいだろう。

「この旅は始まったばかりです。
 これからも美味しい料理、作りますね」



 その頃、王都では。

 王の執務の間に呼び出された宰相は、初めから渋い顔をしていた。
 実は先日のパーティの後、密命を受けてあの小さな【錬金薬師】の事を調べていた。
 今日はその報告に現れたのだ。

「待ちかねたぞ、マーシャル」

 王は腰を浮かせて宰相を迎える。

「で、どうだったのだ?
 あの【錬金薬師姫】は?」

 宰相の表情はいつまでたっても渋いままだ。

「在学中の学院は、ただ今冬季休暇中ですが、どうやらギルドの依頼を受けて護衛任務に出ているようです。
 王よ……リーナ殿は」

「どうにか後宮に呼ぶ事は出来ぬものか……」

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