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第三章

42『冒険者、個々の思い』

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 ぐったりとしている盗賊以外の者が唖然と、その姿を見ていた。

 テントから出て、自分たちに声をかけて来たのは “ 少女 ”いや “ 女の子 ”と言っても良いほどの歳で、これほどこの場にそぐわない者はいない。

「あんたは……」

 仕立ての良さそうなチュニックにレギンス、柔らかそうな皮のフラットシューズ。
 手入れの行き届いた髪に白い肌……
 どこを取ってみても、こんなダンジョンにいる存在ではない。
 ここはもう8階層なのだ。
 ただ、彼女が連れている魔獣を見て魔術師が真っ青になって震えだす。
 魔法騎士や治癒師も顔色を変えた。
 3mを超えるブラック・リザード。
 6人パーティ全員が束になってかかっても歯が立たない存在の魔獣。

「あんた、どうやってこんな所まで……いや、そのブラック・リザードがいたら軽いものか」

 アンナリーナは否定も肯定もしない。

「そんな事より、その人怪我してますよね?」

 次の瞬間、魔術師が目を見開いてあたりを見回した。
 見るからに、今までとは空気が違う。

「私の結界の外側にもう一つ、結界を張りました。
 これで今夜はゆっくり眠れるでしょう?」

 アンナリーナはにっこりと笑った。

「すぐそこにまでミノタウロスが来ています。このままでは危ないですからね……明朝10刻くらいまで保ちますけど、一度外に出るともう入れないですから気をつけて下さいね」

「済まない、感謝する」

 リーダーが頭を下げる。
 その様子に重戦士などは眉をひそめたが、頭を下げるだけで命が保証されるなら安いものだ。

「この結界の中で火を焚いても大丈夫ですよ。
 あ、そうそう……よかったらこれ、召し上がって下さい」

 フワフワとテントから出てきたジェリーフィッシュが、寸胴鍋を持っている。

「2食分くらいはあるでしょう。
 お鍋は返して下さいね」

 柔らかな物言いと愛想の良い物腰、だがその目が笑っていない事にリーダーは気づいていた。
 見た目は少女ながら中身は達観した老女のような、言い知れない恐ろしさを感じる。
 決して侮ってはならない相手だ。

「ああ、本当にありがとう」

「いいえ、どういたしまして。
 じゃ、おやすみなさい」

 アンナリーナは踵を返し、セトとアマルを引き連れテントに戻っていった。


 アンナリーナの姿が見えなくなって、長い長い溜め息を吐き出したのは魔術師の男だった。

「いつもは浅慮なあなたが黙っていたのを褒めて差し上げますよ」

 重戦士の男に対しての言葉も辛辣だ。

「何言ってるんだよ。
 あんなガキ、身ぐるみ剥いじまおうぜ」

「しぃっ、何言ってるんですか。
 きっと聞かれていますよ。
 いい加減にして下さい」

 重戦士の男はアンナリーナのテントを睥睨した。

「とにかく、好意はいただこう。
 サフラの様子はどうだ?
 それからロビン、回復系の備品の在庫はどうなってる?」

 ロビンと呼ばれた治癒師の男が腰のポシェットに手を差し入れた。
 実は彼、ロビンは治癒師としては壊滅的に魔力値が低い。
 だが貴重な治癒師の為、大手クランに加入を許された。
 現在はポーションと併用してパーティで活躍している。

「ポーションがあと10本しかありません。そろそろ引き返した方がいいと思います」

「待てよ! このもやし野郎!!
 お前がしっかりすればもっと下まで潜れるんだ」

「しかしサフラさんだってまだ回復してない」

「それもお前が役立たずだからじゃないか」


 外で始まった醜い諍いに、アンナリーナは顔を歪めた。

「……今夜は不測の事態に備えて、こっちで寝るかな。
 しかし最低だね……」
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