上 下
140 / 577
第三章

33『デラガルサ入街』

しおりを挟む
 森猪も最初に通過していった個体を除いてかなりの量を確保する事が出来た。
 しかし、いくら夜行性とはいえかなりの集団にアンナリーナは首を傾げる。
 これは真夜中まで続き、翌朝は自然と寝坊する事になった。


 翌日、昼近くになって出発したアンナリーナが、ボソリと呟く。

「これって、絶対おかしいよ」

 彼女の前には今、林の木立の向こうにだが、オークの集落が広がっている。
 出来上がって間もないのだろう、簡単に建てられた小屋は、その使われている木も真新しい。
 ちなみに、探索した結果マップは真っ赤だ。
 そして今回は群れが大きく、オークキングだけでなく、オークジェネラルやオークマジシャン、オークアドミナルなどがいるようだ。
 だが問題はそれではない。

「ナビ……これはもう完全にダンジョンの影響でしょ?
 まさか、スタンピード?」

「確かに魔力が溢れて活性化していますね。
 スタンピード、とまでは言えませんが……魔獣の数は増えています」

 トサカ鳥がたくさん獲れた、と浮かれていた気分は完全に吹き飛んでいる。
 特にこちらはモロッタイヤに近いのだ。冗談ではない。

「主人様、このオークの集落を消滅させればとりあえずのところは大丈夫では?」

「そうだね、サクッといっちゃおうか……【魔法範囲拡大】【血抜き】」

 アンデッド以外の生き物は人であろうと獣であろうと、魔獣であろうとも血液を抜かれて生きていけるものはいない。
 刃ひとつ振るわず、わずか数秒……
 それだけでこの場のオークは全滅した。あとはひたすらインベントリに収納していくだけだ。

「確かに効率はいいわよね」

 オークはソーセージの原材料に最適だ。今回は上位種もゲット出来た。
 これで異常発生でなければ万々歳なのに。

「とりあえず、このままデラガルサに向かいながら目についた魔獣を狩って行きましょうか」

 マチルダやマリアに会うのが楽しみだ。


 デラガルサ鉱山街の入り口は厳重な造りの門だった。
 ここも、領都と同じように、ひとりひとりの身分証を確認している。

「お嬢さんはひとりなのかな?」

 アンナリーナの父親と言っても良いくらいの歳の兵士が腰を屈めて聞いてくる。

「はい、これが身分証です」

 冒険者ギルドのカードはしっかりとした身分証となる。
 兵士がそれを確認して、顔を強張らせる。

「薬師殿?
 ……はい、確認しました。お通り下さい」

 やっと門を通り抜け、街に入ったアンナリーナはまずはギルドに向かう。
 そして、今朝までの事を思い出していた。

『オークの集落のあと、群れではないけど殺戮熊に出くわして回収、森の奥には結構反応があったけどキリがないし放って来たけど……』

『主人様、まずはギルドに行ってマチルダさんたちの居場所を探しましょう。彼女は元々ここの住人です。
 そして、ジャマーたち経由で報告してもらいましょう』

 アンナリーナのようなか弱い少女が報告するなど不信感しか抱かせない。
 アンナリーナは歩みを早めた。



「リーナさん!」

 ギルドに行くまでもなく、あっさりと見つかったマチルダたちの商会。
 ジャマーは、わずか3月足らずの間にしっかりと足元を固めていたようだ。

「マチルダさん! マリアさんは?
 具合はどうですか?」

「洞窟を出てから上々よ。
 最近はお庭を散歩することもあるの」

 この後3人は、和気藹々と再会を喜び、ジャマーとの話し合いも終え、アンナリーナは今、ダンジョンに向かっている。

『主人様、沢山の注文を受けて大丈夫ですか?』

『原材料も十分あるし、どうせ今からダンジョンに入るのだもの。
 夜にゆっくり作っていくよ』

 ついでに【疾風の凶刃】の分も製作するつもりでいる。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生先が同類ばっかりです!

羽田ソラ
ファンタジー
水元統吾、”元”日本人。 35歳で日本における生涯を閉じた彼を待っていたのは、テンプレ通りの異世界転生。 彼は生産のエキスパートになることを希望し、順風満帆の異世界ライフを送るべく旅立ったのだった。 ……でも世の中そううまくはいかない。 この世界、問題がとんでもなく深刻です。

農民の少年は混沌竜と契約しました

アルセクト
ファンタジー
極々普通で特にこれといった長所もない少年は、魔法の存在する世界に住む小さな国の小さな村の小さな家の農家の跡取りとして過ごしていた 少年は15の者が皆行う『従魔召喚の儀』で生活に便利な虹亀を願ったはずがなんの間違えか世界最強の生物『竜』、更にその頂点である『混沌竜』が召喚された これはそんな極々普通の少年と最強の生物である混沌竜が送るノンビリハチャメチャな物語

偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう
ファンタジー
 ・渓谷の翼竜  竜に転生した。  最強種に生まれ変わった俺は、他を蹂躙して好きなように生きていく。    ・渡り鳥と竜使い  異世界転生した僕は、凡人だった。  膨大な魔力とか、チートスキルもない──  そんなモブキャラの僕が天才少女に懐かれて、ファンタジー世界を成り上がっていく。  ・一番最初の反逆者  悪徳貴族のおっさんに転生した俺は、スキルを駆使して死を回避する。  前世の記憶を思い出した。  どうやら俺は、異世界に転生していたらしい。  だが、なんということだ。  俺が転生していたのは、デリル・グレイゴールという名の悪徳貴族だった。  しかも年齢は、四十六歳──  才能に恵まれずに、努力もせず、人望もない。    俺には転生特典の、スキルポイント以外何もない。

これがあたしの王道ファンタジー!〜愛と勇気と装備変更〜

プリティナスコ
ファンタジー
しばらく休みます 割と普通の女子高生の時浦刹那は、深夜にDVDを返しにいった帰り道に空から降ってきた流星によって死亡、消滅する 胡散臭い天使に騙され、異世界に転生するも転生によって得たいろいろな特典をメイドに殺されかけたり、殺されたりなどで次々失う展開になり、挙げ句の果てに 唯一のこったスキル"ウエポンチェンジ"も発動条件がみたせなくって!?なかなか無双できない主人公が頑張ったり、頑張らなかったり、勝ったり、負けたり、笑ったり、泣いたり、喜んだり、悲しんだり、傷つけたり、傷ついたり、怒ったり、謝ったり、手に入れたり、手放したり、誰かの為だったり、自分のためだったり、躓いたり、転んだりしながらも。 それでも頑張ってハッピーエンドを目指す王道ファンタジーです。   男もそこそこでてきます。ご注意を 最低、1日1話更新します。かける日はいっぱい書きます 初めて書いた作品です、少しづつ成長していくので、最新話までお付き合いいただけると嬉しいです。

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...