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第三章

13『アーネストとエメラルダへの提案』

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 アンナリーナがバッグから取り出した瓶を見た途端、アーネストは我が目を疑った。
『2700』としか書かれていないそれは、鑑定してみると【中級体力ポーションC】と出て回復値が2700ある。

「王都にだって2人しかいない錬金薬師……あなたの師匠は賢者殿だったのですね」

 感慨深げにアーネストが頷く。
 アンナリーナは目を伏せた。

「まだドミニクスさんには言ってません……ふつうの回復薬と状態異常解除薬だけで舞い上がっちゃって」

「その状態異常解除薬って何?」

 エメラルダは興味津々だ。

「麻痺、眠り、石化、毒、混乱の解除薬ですよ。ここでは……」

「それっ! それも売ってくれ!!」

 テオドールはすっかり酔いが醒めたようだ。
 ポーション瓶を握りしめ、鼻息荒くアンナリーナに迫ってくる。

「ドミニクスさんが仰っていたけれど、この薬って珍しいのですってね」

 珍しいどころではない。
 現に、この3人も初めて聞いた薬だ。
 いや、薬で解除出来るとは思ってもみなかった。

「先ほど10本づつ納品してきたんですけど、ポーションほど大量に作れるわけじゃないんですよ。
 素材も特殊なものを使いますしね。
 でもまあ、お譲りするのはやぶさかではありません」

 熊、いやテオドールがホッとした顔をする。

「ギルドを通さず、個人的に融通してもらうのは、可能か?」

「それがルール違反でないのなら。
 ……ぶっちゃけ、ポーションや解除薬に関しては、あまり重きを置いてないの。私がお願いしたいのは、こちらのおふたりにです」

 見た目の歳に見合わない黒い笑みを浮かべて、アンナリーナはバッグから先ほどとは見た目の違う瓶を一本取り出した。

「これ、何かお分かりですか?」

 アーネストが、ガッと瓶を掴み、食い入るように見つめている。

「そんな……まさか」

 鑑定してみて、あり得ないものを見て、今日一番の衝撃で最早アーネストは気絶寸前だ。

「魔力回復ポーション」

「大したものではないですけどね」

 回復量500を大した事がない、と言われてアーネストはかぶりを振る。
 今まで存在しなかった【魔力回復ポーション】なのだ。
 このポーションが出回れば全魔法職の立ち位置が変わるだろう、それほどの品だ。

「そんな事はない!
 今まで魔力は自然回復を待つしかなかった!
 こんな、こんな夢のようなものを……」

「自然回復? 今までなかった?
 ……ずいぶん前に失伝していたのかもしれないですね。
 それよりも。
 実は、アーネストさんとエメラルダさんにこれのモニターをお願いしたいのですよ」

「もにたー?」

「これを使ってもらって、その感想を聞かせていただきたいの。
 こんな事、それなりの魔法職の方にしかお願い出来ないし、おふたりならピッタリだと思ったのですよ。
 もちろん、モニター期間の間は無償で提供させていただきます」

 流通に乗せればそれなりの販売価格になるのだろうが、アンナリーナにとってはある意味あぶく銭。
 今のレベルなら大して貴重な素材も使っていないので、まったく損にならないのだが。

 貴重な品をタダで提供する。
 そのかわり感想を聞かせて、と言われてエメラルダなどは口を開いたまま、アホ面を晒している。

「いいの……?」

「はい、でもおふたりだけですよ。
 面倒臭いから」

 あっけらかんとしているアンナリーナを3人は信じられない目で見ている。

「私からのお話はそれだけです。
 ……じゃあ、飲み直しましょうか。
 アマル!」

 奥の部屋からフヨフヨと現れたジェリーフィッシュを見て、テオドールが立ち上がり剣を取る。

「この子はアマル、私の従魔です。
 もうひとりは、セト!」

 のっそりと現れたのは2mほどに体を縮めたブラックリザード。
 今度こそテオドールは剣を抜き、セトの前に立ちはだかった。

「この子はセト、いつもはもっと小さくなって私の肩に乗っているの。
 テオドールさん、剣を納めて下さい」

 冷や汗が流れるような威圧がかかって、鞘に納めると途端に身体が楽になる。
 この少女がどれだけの魔力を秘めているのか……決して敵に回したくない人物だと把握した。

 フヨフヨと浮いたジェリーフィッシュが盆を捧げ持ち杯を運んできた。
 アンナリーナは、バッグからデキャンタに移し替えた【異世界買物】で購入したウイスキー……4ℓペットボトル入りを机の上に出した。
 その途端、酒精の香りが漂って、最早テオドールなどは目の色を変えている。

「水で割って飲むのが一般的みたいだけど……ちょっとそのまま舐めてみます?」

 ワインとはまったく違う芳醇な香りと、まろやかな口当たり。
 だがすぐにこの酒の酒精の強さに、テオドールは歓喜し、エメラルダは眉をひそめた。

「強いお酒だから調子に乗って飲んだら酔っ払いますよ?」

「こ、これもリーナちゃんが作ったのか?!」

 熊、食いつきすぎである。

「まさかぁ、これは師匠が遺したものです。師匠の出身地の特産らしいですよ」

 そう言いながら、アンナリーナは自分用の蜂蜜檸檬ジュースを取り出した。

「リーナさん、それは?」

「ジュースです。私、お酒は飲めないから」

 完全に宝の持ち腐れだと、この場にいるあとの3人は認識を共通した。

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