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第三章
9『氷瀑の貴公子と炎焔姫』
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【疾風の凶刃】の面々は今日もギルドを訪れていたが、皆渋い顔だ。
以前から予約で請け負っていた護衛任務がドタキャンされて今、酒場でたむろっていた。
魔法職の2人、アーネストとエメラルダは皆と少し距離を置いている。
「今回の保証はどうなるのかしら?」
「依頼者の方からのキャンセルなんだ、いい加減にして欲しいよ」
「でもスケジュールに穴が空いてしまったわね……何か依頼でも受ける?」
「依頼ねえ……」
アーネストが、少し離れたところで朝から盛り上がっている脳筋たちに視線を向ける。
「受けるとしても我々2人だけになりそうだけど……んっ?!」
その時、ドアが開いて濃厚な魔力が流れ込んできた。
そして視線を巡らせた2人の先には、今日はクリーム色のローブを着たあの少女がいる。
アンナリーナがギルドに登録して1日。昨日の今日だというのにもう情報はギルド内を駆け巡り、目敏いものの注目を集めていた。
「ほら、あの子」
「納品に来たのかな?
しかしすごい魔力だな……惚れ惚れする」
「本当ね、どの位あるのかしら」
ちなみに鑑定持ちのアーネストが試みてみても名前しか読み取れない。
魔力値10000近くあるアーネストが読み取れない、という事はそれだけアンナリーナの魔力が高いのだという事だ。
そのアンナリーナがドミニクスに先導されて鑑定室に入っていく。
その姿が見えなくなって、アーネストは溜め息をつき、エメラルダに向き直った。
「声かけてみたいな。怖がられるだろうか?」
ソワソワと、まるで初心な少年のように、目の前のアーネストが少女の消えたドアを見つめている。
「戻ってくるのを待って、かけてみたらいいじゃない、声」
どうせ時間はたっぷり、たっぷり過ぎるくらいあるんだから……と笑われてアーネストは耳を赤くする。
数代前にエルフの血が入っている彼の耳は敏感だ。
「あらぁ……本気?
ひょっとして一目惚れ?
【氷瀑の貴公子】と呼ばれるあなたが?」
「君は心揺さぶられないのかい?
あの心地よい魔力に?」
「確かにね、抱きしめられたみたいにドキドキする……」
炎焔姫と呼ばれるエメラルダが艶めいた貌で目を伏せた。
彼女にその貌をさせるためなら男たちはどれだけでも貢ぐだろう。
「彼女は恐らく、ただの薬師ではないね。一体どこから出て来たんだろう」
ドミニクスが情報を小出しにしている中で想像でしかないが、隠遁した賢者の弟子……と言ったところだろうか。
身につけているものもすべて一級品であるし、その物腰、話し方から見るとひょっとしたら、見かけ通りの歳ではないのかもしれない。
「あ……」
鑑定室のドアが開いて魔力が溢れ出てきた。
小動物のようなアンナリーナが会計でカードを処理してもらい、ホールの方にやって来る。
暖かな眼差しで彼女を見つめていたアーネストが突然立ち上がった。
その視線の先では受付嬢のミルシュカが少女に絡んでいる。
アーネストも、この2人の昨日の遣り取りを知っていた。
ミルシュカとしては、逃した魚が大きすぎて、諦められないのだろう。
そのミルシュカが事もあろうに少女、いや薬師の腕を掴んで……振り払われて、ぶっ飛ばされた。
周りの、ミルシュカファンの冒険者たちが剣呑な様子で近づいていき、もうすでに助け起こしているものもいる。
「!!」
素早く、2人の魔法職が間に割って入る。
「今のはあんたが悪いわ、ミルシュカ」
そう言ったエメラルダの背に庇われたアンナリーナの方がきょとん、としている。
「なんで私が悪いのよ!
私は何もしていないのに、そいつが突き飛ばしたんじゃないの!!」
そうだ、そうだと気炎をあげる冒険者たち。
だが、魔法職2人や高レベルの冒険者たちは呆れた様子でミルシュカを見た。
「あいつ、知らねえの?」
「馬鹿だから知らないんじゃ、ね?」
アーネストとエメラルダの同僚、剣士や重剣士の2人が囁きあっていた。
2つのパーティのリーダー、テオドールは目を眇めて事の成り行きを見つめている。
「ミルシュカ、君はまさか……彼女が薬師だと知らない訳ではないだろう?」
「馬鹿にしないで!
ギルド員なんだから、もちろん知ってるわよ!」
「じゃあ、あなたが今、彼女にした事が何故駄目なのかわかるわよね?」
炎焔姫エメラルダの黒い瞳が紅く変わる。こうなった彼女は激怒しているのだ。
「な、何よ……」
「薬師という方々はとても精密な作業を強いられるものだ。
そのレシピの配分が少しでも狂うと、効果に歴然な差が出る。
薬師殿たちは、特に右腕の状態に気を遣う事を、君は知らないのか?
今君は彼女の、薬師殿の二の腕を掴んだ。
……筋が痛んだから突き飛ばされた、と思いつかないのか?」
アーネストの口調が段々と厳しくなっていく。
「はっきり言って、薬師殿の価値と比べると君など価値すらない。
受付嬢など簡単にすげ替えがきくが彼女はこの領都で2人目の薬師だ」
アーネストの薄水色の髪が怒りのあまり魔力を帯びて、さわさわと蠢いている。
その様子と今の説明で、ミルシュカに付いていた男たちが離れていく。
当事者のアンナリーナは、まったく反射的に突き飛ばしたのだが、この世界で薬師がそのように認識されていると知って、実は一番びっくりしているのだ。
「一体、なんの騒ぎです?」
そこに、鑑定室での片付けが終わったドミニクスが現れた。
以前から予約で請け負っていた護衛任務がドタキャンされて今、酒場でたむろっていた。
魔法職の2人、アーネストとエメラルダは皆と少し距離を置いている。
「今回の保証はどうなるのかしら?」
「依頼者の方からのキャンセルなんだ、いい加減にして欲しいよ」
「でもスケジュールに穴が空いてしまったわね……何か依頼でも受ける?」
「依頼ねえ……」
アーネストが、少し離れたところで朝から盛り上がっている脳筋たちに視線を向ける。
「受けるとしても我々2人だけになりそうだけど……んっ?!」
その時、ドアが開いて濃厚な魔力が流れ込んできた。
そして視線を巡らせた2人の先には、今日はクリーム色のローブを着たあの少女がいる。
アンナリーナがギルドに登録して1日。昨日の今日だというのにもう情報はギルド内を駆け巡り、目敏いものの注目を集めていた。
「ほら、あの子」
「納品に来たのかな?
しかしすごい魔力だな……惚れ惚れする」
「本当ね、どの位あるのかしら」
ちなみに鑑定持ちのアーネストが試みてみても名前しか読み取れない。
魔力値10000近くあるアーネストが読み取れない、という事はそれだけアンナリーナの魔力が高いのだという事だ。
そのアンナリーナがドミニクスに先導されて鑑定室に入っていく。
その姿が見えなくなって、アーネストは溜め息をつき、エメラルダに向き直った。
「声かけてみたいな。怖がられるだろうか?」
ソワソワと、まるで初心な少年のように、目の前のアーネストが少女の消えたドアを見つめている。
「戻ってくるのを待って、かけてみたらいいじゃない、声」
どうせ時間はたっぷり、たっぷり過ぎるくらいあるんだから……と笑われてアーネストは耳を赤くする。
数代前にエルフの血が入っている彼の耳は敏感だ。
「あらぁ……本気?
ひょっとして一目惚れ?
【氷瀑の貴公子】と呼ばれるあなたが?」
「君は心揺さぶられないのかい?
あの心地よい魔力に?」
「確かにね、抱きしめられたみたいにドキドキする……」
炎焔姫と呼ばれるエメラルダが艶めいた貌で目を伏せた。
彼女にその貌をさせるためなら男たちはどれだけでも貢ぐだろう。
「彼女は恐らく、ただの薬師ではないね。一体どこから出て来たんだろう」
ドミニクスが情報を小出しにしている中で想像でしかないが、隠遁した賢者の弟子……と言ったところだろうか。
身につけているものもすべて一級品であるし、その物腰、話し方から見るとひょっとしたら、見かけ通りの歳ではないのかもしれない。
「あ……」
鑑定室のドアが開いて魔力が溢れ出てきた。
小動物のようなアンナリーナが会計でカードを処理してもらい、ホールの方にやって来る。
暖かな眼差しで彼女を見つめていたアーネストが突然立ち上がった。
その視線の先では受付嬢のミルシュカが少女に絡んでいる。
アーネストも、この2人の昨日の遣り取りを知っていた。
ミルシュカとしては、逃した魚が大きすぎて、諦められないのだろう。
そのミルシュカが事もあろうに少女、いや薬師の腕を掴んで……振り払われて、ぶっ飛ばされた。
周りの、ミルシュカファンの冒険者たちが剣呑な様子で近づいていき、もうすでに助け起こしているものもいる。
「!!」
素早く、2人の魔法職が間に割って入る。
「今のはあんたが悪いわ、ミルシュカ」
そう言ったエメラルダの背に庇われたアンナリーナの方がきょとん、としている。
「なんで私が悪いのよ!
私は何もしていないのに、そいつが突き飛ばしたんじゃないの!!」
そうだ、そうだと気炎をあげる冒険者たち。
だが、魔法職2人や高レベルの冒険者たちは呆れた様子でミルシュカを見た。
「あいつ、知らねえの?」
「馬鹿だから知らないんじゃ、ね?」
アーネストとエメラルダの同僚、剣士や重剣士の2人が囁きあっていた。
2つのパーティのリーダー、テオドールは目を眇めて事の成り行きを見つめている。
「ミルシュカ、君はまさか……彼女が薬師だと知らない訳ではないだろう?」
「馬鹿にしないで!
ギルド員なんだから、もちろん知ってるわよ!」
「じゃあ、あなたが今、彼女にした事が何故駄目なのかわかるわよね?」
炎焔姫エメラルダの黒い瞳が紅く変わる。こうなった彼女は激怒しているのだ。
「な、何よ……」
「薬師という方々はとても精密な作業を強いられるものだ。
そのレシピの配分が少しでも狂うと、効果に歴然な差が出る。
薬師殿たちは、特に右腕の状態に気を遣う事を、君は知らないのか?
今君は彼女の、薬師殿の二の腕を掴んだ。
……筋が痛んだから突き飛ばされた、と思いつかないのか?」
アーネストの口調が段々と厳しくなっていく。
「はっきり言って、薬師殿の価値と比べると君など価値すらない。
受付嬢など簡単にすげ替えがきくが彼女はこの領都で2人目の薬師だ」
アーネストの薄水色の髪が怒りのあまり魔力を帯びて、さわさわと蠢いている。
その様子と今の説明で、ミルシュカに付いていた男たちが離れていく。
当事者のアンナリーナは、まったく反射的に突き飛ばしたのだが、この世界で薬師がそのように認識されていると知って、実は一番びっくりしているのだ。
「一体、なんの騒ぎです?」
そこに、鑑定室での片付けが終わったドミニクスが現れた。
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