上 下
103 / 577
第二章

82『約束』

しおりを挟む
しばらくして戻ってきたアンナリーナが抱えていた木箱には大量の角砂糖が入っていた。
 この世界にはないビニール袋に入っているものは渡せない。
 なので紙箱に入っているものを選んで【異世界買物】で買ってきた。
 もちろん外装のフィルムははぎ取っている。

「ザルバさんとゲルトさん、これ持って行って?
 角砂糖はね、緊急の時の携帯食になるの。
 もしも食事が取れないときでもこれと水があれば一週間くらい持つから。
 それと」

 アイテムバッグから大人の男の握りこぶしくらいの大きさの皮袋を取り出す。

「これはにんにくと玉子の黄身を使って私が作ったの。
 とても滋養があるからこれも緊急食にして。
 ……フランクには後で渡すから残ってくれる?」

「リーナ、俺は」

「フランク」

 何もかも見通したようにフランクを見たアンナリーナがかぶりを振る。

「リーナ、聞いてくれ。
 俺はお前と離れたくない。一緒に行きたいんだ」

 ザルバもゲルトも驚いた様子はない。
 すでに折り込み済みだったという事なのか、それでもアンナリーナは言葉を選んで話し始めた。

「フランクの気持ちは嬉しい……
 私もフランクのこと、好きだから。
 でもね」

 一瞬喜びに輝いた目が、剣呑な光を宿している。

「私はこれから国境を越えて、もう一つ越えた国に行こうと思ってる。
 そこのギルドで冒険者登録するつもりなんだけど、私みたいに胡散臭い娘とそれなりの年で腕利きのフランクが一緒だったらどうおもわれるかな?
 私は、初めはなるべく目立たないようにやって行きたいの。
 それに今フランクは、ここで必要でしょう?」

 ザルバやゲルトが静観するなか、フランクは拳を握りしめている。

「私が……私たちが落ち着ける場所が出来るまで待っていてくれないかな?
 一年、いえ来年の春、迎えに来るから、お互いにしなければならない事を頑張ろう?」

「リーナ、お前はそれでいいのか?
 俺は……」

「もうそのへんにしとけ」

 ザルバが若いフランクの頭をポンポンと叩いた。

「お前よりずっと若い嬢ちゃんがこうまで言ってるんだ。
 春まで待ったっていいんじゃないか?」

「ちゃんと居場所を作っておくから、フランクも頑張って!」


 渋々頷いたフランクは今、アンナリーナとふたりきりでテントの中にいる。
 飲み会は、明日の出発の事もあり早々にお開きとなったがキンキとジンガは居残りだ。
 アンナリーナが提供したウイスキーでへべれけになった2人は、当然天幕に泊まり込んでいる。

「フランク、そこに座って」

 まだ、腹のなかでは納得しきれていないのだろう。
 憮然としている。

「リーナ、待てよ」

 テントからツリーハウスに移ろうと背を向けた途端、フランクに腕を掴まれ、抱き寄せられた。
 そのまま腕のなかに閉じ込められる。

「フランク……」

 自然と合わさった唇はすぐに動きを激しくして、フランクの舌がアンナリーナの口内に入ってくる。
 舌を絡め取られ、たじろぐアンナリーナを押さえつけ、彼女にとって初めての大人のキスは続く。

「あ……ん」

 ふたりの、混じり合った唾液が糸を引き、顔の距離が離れていくに従って消えていく。

「畜生……リーナがこんなに小さくなかったら契るのに。
 せめてもっと時間があれば……」

「フランク?」

「俺はリーナが欲しい」

 真剣な顔のフランクは迫力があって、アンナリーナは口を挟めない。

「でも、勢いに任せて抱くことはできない…そんなことをしたらおまえを壊しちまう」

 わずかに震える手でアンナリーナの背中を、腰を弄りバードキスを繰り返す。

「来春……
 再会したらもう、遠慮しない。
 その時は必ず抱く。だからおまえも十分に気をつけてくれ」

「うん、約束する。フランクもね」

「ああ、約束だ」


 そしてふたりはフランクが寝つくまで話を続け、その眠りを確かめてアンナリーナはテントからツリーハウスに移った。

 キッチンで、魔法を駆使して大量に作ったのはお馴染みのポテトサラダ。
 そのあと時間が許す限りサンドイッチなどすぐに食べられるものを用意し、テーブルに並べていく。
 その他、常備薬一式、紅茶などの入った水筒など。
 思いつく限り、手当たり次第。
 それを収めるために取り出したのは先日からフランク用に作っていたアイテムバッグだ。
 それは剣帯に付けられる本当に小さなもので、良くて薬入れにしか見えない。
 先ほどの角砂糖やクッキー、パンの類いも合わせてアイテムバッグに収めていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】嫌われている...母様の命を奪った私を

紫宛
ファンタジー
※素人作品です。ご都合主義。R15は保険です※ 3話構成、ネリス視点、父・兄視点、未亡人視点。 2話、おまけを追加します(ᴗ͈ˬᴗ͈⸝⸝) いつも無言で、私に一切の興味が無いお父様。 いつも無言で、私に一切の興味が無いお兄様。 いつも暴言と暴力で、私を嫌っているお義母様 いつも暴言と暴力で、私の物を奪っていく義妹。 私は、血の繋がった父と兄に嫌われている……そう思っていたのに、違ったの?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

処理中です...