上 下
94 / 577
第二章

73『はじめての……フライドポテト』

しおりを挟む
フランクが、未知なる調理パン【ホットドッグ】を食している間、アンナリーナはきゅうりを薄切りにし、塩を振っておく。
 大量のハムを刻んでいると、魂を飛ばしていたフランクがこちら側に戻ってきた。

「リーナ、あ、あれ、あれは」

「うんうん、また後で好きなだけ作ってあげるから、じゃがいも剥いてね」

 皮を剥かれたじゃがいもをポテトマッシャーで潰していく。
 このとき【加圧】を使ってズルをする。アンナリーナの料理はできる限り魔法を使って労力を軽減していた。

「リーナ、終わった、次は?」

 フランクが、アンナリーナの手元を見てそわそわしている。
 本当に芋が好きなんだな、と笑っていて、ふと思いついた。

「次もじゃがいもなんだけど皮を剥いておいてくれる?」

 渡されたじゃがいもを器用に剥いている横で、アンナリーナはポテトサラダの仕上げにかかった。
 マッシュポテトに塩胡椒してよく混ぜる。そして大量のマヨネーズを搾り出し、混ぜ合わせる前にほんの少しの砂糖を加える。こうすると出来上がりがまろやかになるのだ。
 そこに塩もみしたきゅうり、風魔法を使って水を切った玉ねぎのスライス、ハムを投入していく。
 後は味を見ながら、塩胡椒で味を調えていくだけ。
 アンナリーナは玉ねぎの食感が大好きなのだが、果たしてフランクの舌に合うのだろうか。

「はい、味見」

 顔だけこちらを向けて口を開けて待つフランクに、フォークでひとすくいして口に運んでやる。

「……」

 手で口を覆い、黙って咀嚼している姿を見て、失敗したかな~ などとアンナリーナがたそがれていると。

「リーナ!
 これ、すごいよ!!
 このポテトサラダ、生の玉ねぎなんて入れるからどうなるかとハラハラしてたんだけど、めちゃ美味い!」

 アンナリーナの手からフォークを奪い取って、ボウルから直接食べる行儀の悪さだが、それだけ美味しく思ってくれたのだろう。
 今日は許す事にした。
 それよりも次の料理だ。

 ちゃんとすべての仕事をやり終えていたフランクからジャガイモを受け取り、アンナリーナは新たな鍋を出した。
 中華鍋をさらに深めにしたそれは、特注の揚げ物用鍋だ。
 それに油……【異世界買物】で購入した植物油をトクトクと注ぎ込んでいく。
 この世界では植物油は高価だ。
 料理には主にバターが使われ、バターの焦げやすい性質から揚げ物文化が発達しなかったようだ。
 王都の王族や貴族なら食しているのかもしれないが、フランクなどは見た事も聞いた事もないだろう。

 油を温めている間にジャガイモをお馴染みのステック状に切り【加温】で軽く加熱しておく。
 そして油が適温になるとジャガイモを入れていった。

 木の大皿にキッチンペーパーを敷き、ちょうど良く揚がったポテトを上げていく。
 あとは適量の塩をふりかけて出来上がり。言わずと知れた、フライドポテトだ。

「フランク、フランク。
 ちょっと、これ食べてみ?」

 指でつまんで2本、口に近づけると、口の中のものを飲み込み、水を一口飲んでフライドポテトを食べた。

 サクッとした食感に続いて芋自体の甘みに塩味。
 何よりも油で揚げることによって、今まで食べたことのないものに変身しているのだ。
 カッと目を見開いたフランクがアンナリーナの手首を掴み、その手に持っていた残りを口にする。
 そして最後にアンナリーナの指までを口にした。
 ねっとりと舐めあげる、最早愛撫としか言いようのない、その行動にアンナリーナはたじろいだ。
 そんな彼女を、フランクは真摯な目で見つめている。

「リーナ、改めて申し込む。
 俺と結婚してくれ」

 胃袋を掴んで、結婚を申し込まれてもあまり嬉しくはないのだが。

「私が成人を迎えたとき、その時にまだ想いが変わらなかったら考えてあげる。ほら、冷めないうちに食べて?」

 ジャガイモ5個分のフライドポテトはすべてフランクの腹に収まった。
 そして今はボウルを抱えてポテトサラダを食べている。

「なあ、あれ、あの料理は何て言うんだ?」

「料理……料理ってほどのものじゃないけどあれは【フライドポテト】って言うのよ」

「俺、あんな美味いもの、初めて食った」

 何度目かになる言葉にアンナリーナは笑った。
 確かに、高価な油で芋を揚げようなどと考えるものはいないだろう。

「あれ、湯じゃないよな?
 あれにくぐらせて何してたんだ?」

 確かに揚げ物を知らない者からしたらけったいな料理方法だっただろう。

「あれは油……植物油油を熱して “ 揚げて ”あるのよ。やっぱり知らない?」

「あ、油? 植物油っ?!
 あんな高価なものドバドバっと?!
 何て恐ろしい……一体いくらすると思ってるんだ? 信じられない……」

 植物油の値段、アンナリーナの使った量約1.5ℓ、ちなみに最低でも金貨5枚はする。

「美味しかったんだからいいじゃない」

 どこまでも、一般常識からズレているアンナリーナだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...