魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん

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第二章

66『ある女の……』

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女は何もかもが不満だった。

 初めは、年季が明けたら馴染みの客にパトロンとなってもらい、何か店の一軒でも開けたらと、別に後妻や妾に収まりたいわけでもなかった。
 だが、その時が来てみれば1人もパトロンがつかず、あれよあれよという間に、追い出されるようにデラガルサを後にしていた。

 いざ、馬車の旅が始まってみれば快適とは程遠い環境に魔獣の襲撃。
 従者と護衛を失って、逃げるようにエイケナールに駆け込んだ。
 それからの待遇の悪さに、女はかなり頭にきていた。
 そして、同行する事になった馬車の御者の態度の悪さ。
 それに加えて、どう見ても小間使いにしか見えない少女の剥き出しの悪意にこちらの不満も積み重なっていく。
 野営地のピットというものも酷くて、御者や護衛たちも気が利かない。
 そこを野盗に襲われ、彼らのアジトに連れて来られたのだが。


 アンナリーナは自由に行動しているというのに、自分への待遇が悪いと、また騒いでいるところに当の本人が通りかかって、女の不満が爆発した。

 騒ぎを聞きつけて駆けつけたジャマーの前で、アンナリーナに飛びつかんばかりに暴れる女。
 うんざりしたアンナリーナが彼を見つけて駆け寄ってくる。

「えーっと、ジャマーさん。
 ここに連れて来られた人たちは身代金と引き換えに解放されて、支払えない、もしくは支払ってもらえない者は奴隷商人に売られるんですよね?」

「ああ、そうだ」

「あの人……どう思います?」

 アンナリーナはチラリと女の方に眼差しを巡らせる。

「どうやら引き取り手はいないようだし、奴隷商人行きだな」

「ちなみに、どのくらいのお値段で?」

「せいぜい、金貨10枚ってところだろう」

 妙齢の女性の売値としてはかなり低い。やはりあの態度や性格がマイナスなのだろう。

「ふんふん、では金貨10枚出せば売って下さると?」

「何だ薬師殿、あんなの買ってどうするつもりだ?」

 生殺与奪を含めすべての権利が買ったものに移る。
 ジャマーは、アンナリーナが薬の実験にでも使うつもりなのかと首を捻った。

「じゃあ、これ」

 無造作にバッグに突っ込まれた手から金貨が10枚現れる。

「薬師殿本気なのか?」

「いい加減、我慢できないから」

 実はアンナリーナ、前世の頃から物静かな性質で賑やかな事は好きではない。
 ましてギャアギャアと喚かれるのは害毒でしかなかった。
 そして最初から人を見下すあの態度。
 薬師として敬えとは言わないが、せめて人並みに接する事は出来ないのか?
 14才のままのアンナリーナなら嫌悪感だけで済んだかもしれないが、アラサーの精神が融合した今のアンナリーナには、時折向けられる気持ちの悪い悪意に辟易としていた。
 そしてこうすることにより、本質的には盗賊な、ここにいる者たちへの牽制になる。

「本当にうるさいわねえ。
 いい加減、大人しく出来ないのかしら」

 アンナリーナの対応に興味津々なジャマーや、元々付き従っているザルバとフランクが、何事が起きるのかと警戒している。

「あなた、初日の野営地で何を嗅ぎまわっていたのかしら?
 私のテントの結界に触れたわね?」

 ピクリと身体を震わせた女は視線を逸らす。
 アンナリーナはさらにたたみかけた。

「こちらの馬車の護衛が、あなたの動きを監視していたのよ。
 一体何が欲しかったのでしょうねぇ」

 俯いた女を下から覗き込み、睨め付ける。

「これでしょ?」

 ローブの袷を開くと、黄色いアイテムバッグが姿を現わす。
 感情に正直な女はギラギラと目を輝かせ、一歩足を前に踏み出す。
 それを見て、周りにいたものたちが息を呑んだ。
 当たり前だろう。
 薬師は貴重な存在で、社会的にも護られている。
 そして今、皆の注目を集めているアイテムバッグ、普通これを狙う不埒者がいそうなものだが、あるメカニズムにより厳重に保護されていた。
 それは一種の付与魔法なのだが……

「そんなに欲しいのなら、どうぞ」

 女の手をむんずと掴み自分の方に引き寄せる。
 周りから、アッと声が声が上がったがアンナリーナはそのまま行動を続けた。

 アイテムバッグのなかに女の手が消えていく。そのまま肘のあたりまできた時、それは起きた。

「ギャアアアァァァーっ!」

 世にも恐ろしげな悲鳴が上がり、屈強な男たちが顔色を変える中、引き出された腕が指先から黒く染まっていく。

「アアアァァーーっ! アーっ!」

 自らの肘を掴んで叫ぶ女の、腕から肩まで広がった【黒】
 その指先が粉化し崩れていく。
 そしてそのまま首から下が黒く染まっていき、先端から崩れていって、腕一本肩先から崩れて無くなった時点で、女は動かなくなり、顔が黒くなった瞬間、すべてが崩れて粉と化した。

「アイテムバッグに触れると、こうなるわけ。外のツリーハウスにも同じ付与魔法がかけてあるから気をつけてね」

 まるで、今目の前で起きた出来事が気にならないような、そんな笑顔で説明されても恐ろしいだけだ。
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