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第二章

40『乗り合い馬車の構造と農家の押売り』

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椅子に深く腰掛け、背もたれにもたれたザルバがいびきをかきはじめた。

「なあ嬢ちゃん、あんた何か入れただろ?」

 ゲルトが怖い目で睨んでくる。
 アンナリーナは大男の睨みに臆する事なく睨み返した。

「食事中の紅茶にお酒をちょっと、ね。
 ザルバさんには少しでも休息を取ってもらわないと、困るもの」

 明日から7日間、御者はザルバ1人だ。ゲルトとフランクでも手綱を持つくらいは出来るだろうがそうなると探索がお留守になる。
 そう言うとゲルトは眼差しを和らげた。

「楽な姿勢で寝られるように馬車の中に運んであげて。
 さっき掃除してたようだから綺麗でしょ?」

 アンナリーナが調理中、ザルバとゲルトが掃除していたのを知っていたアンナリーナは、2人掛りでザルバを運んでいくのについてきた。

「ふーん、こんな風になってるんだ」

 ふつうの箱馬車よりも長く、荷馬車のように幌掛けではない。
 まるで地球の電車のように、ひょっとしたら景色が見れるようにか御者台の後ろ以外は窓が連なっている。これは落とし戸になっていて、緊急時にはすぐに閉められるようになっているようだ。ちなみに御者台側にはスライド式の小さな窓が付いていて、これで遣り取りをするらしい。
 座席は、これも通勤電車を思い出させる、窓際に沿って一直線、それが左右で2本。
 大柄なこの世界の人間でも10人は軽く座れる広さだ。

 そこの空いた場所に敷物を敷き、この世界のクッションを出して枕にしてやる。
 ザルバを寝かせ、毛布を掛けて3人は外に出た。

「5~6時間したら起きてくると思うよ。
 どうせ、もう今日はザルバさんがいなくても大丈夫なんでしょ?
 ……あれ?」

「どうした?嬢ちゃん」

 急に一点を見つめて思案しているアンナリーナを見て、2人は剣に手をかけて警戒する。

「ん~? 大丈夫みたい……
 お客さんみたいだけど」

 薄暮の中、村道から奥まったこの空き地に向かってくるという事は、ここにいるアンナリーナたちに用事があるという事なのだろう。
 ゲルトが目を凝らしていると、見るからに農民といった出で立ちの男女が数人現れた。

「おい、そこで止まってくれ。
 何用だろうか?」

 顔がわかるほど近づいてきたところで、ゲルトが問いかける。
 代表と思わしき男が答えを返してきた。

「私たちはこの村に住む、農家のものです。実はこちらの方がイゴルのところで買い物なさったとの事で、もしよければ私たちのところでもお願いしたくて、やって参りました」

 皆で揃ってぺこりと頭を下げる。

「どんなものを扱ってらっしゃるの?」

 関心を示して対応してくれたのが、年端もいかぬ少女だったのに驚きながらも、ひとりひとりが説明を始める。

「わかりました。
 フランク、一緒に来て!
 ゲルトさんはザルバさんをよろしくね。
 私はもう少し、野菜類を仕入れてくるわ」

 相変わらず、食材に対しては見境のないアンナリーナだった。



「私ね、ここの前にモロッタイヤ村に行って来たんだけど」

 共に歩みを進めていたものに、問いかけるようでもなく話しだした。

「ぶっちゃけ、後ひと月も経てば新しく収穫出来るんですよね?
 だから、もし買わせていただくとしたら、それまでの分を引いたそれなりの量、いただけると?」

 もちろんだ、と言わんばかりに皆頷いている。

「まあ、楽しみ!さ、早く行きましょう。フランク、ぐずぐずしないで!」


 結局、数種類の豆、ポロ葱、甘藷、チビきゅうりのピクルス、自家製チーズなどが手に入った。
 大収穫である。
 ついでにイゴルのところにも寄り、出来上がっているものを回収してきた。
 その時に渡した金貨5枚を多すぎると騒いでいたがアンナリーナは気にしない。

「その代わり……朝まであとどのくらい出来る?
 出来れば燻煙しない、生のままのものも欲しいのだけど」

「どのくらいだ?」

「いくらでも」

 無精髭が浮いてきた体格のよい大男と小柄な少女が見つめ合った。

「任してくれ。もし、まだ肉があるならまた出してくれないか?」

「肉? いっぱいあるよ!
 オークでいいよね?」

【解体】のスキルでバラした肉をバッグから取り出し、渡す。
 横では職人が挽肉にするために控えている。

「羊の腸がなくなるまで、作って、作って、作りまくるぞ!」

 最早、疲労からか、やたらハイテンションである。


 アンナリーナたちがそれぞれの夜を過ごしていた頃、村の門にようやく、一台の馬車がたどり着いた。
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