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第二章
33『護衛たちと朝食』
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この乗り合い馬車の護衛のフランクとゲルトは昨夜、アンナリーナがテントに引っ込んでから見張りの交代に来ていたので、今朝が初顔合わせだ。
話には聞いていたが本当に少女だ。
「俺はフランク」
「俺はゲルトだ。これから7日間、よろしくな」
「リーナです。こちらこそ、よろしく……えっと、朝食召し上がりました?」
“ 召し上がる ”なんて言葉を久々に聞く2人は、目を白黒させている。
「嬢ちゃん……その、悪い。
またご馳走してもらえないか?」
ザルバが大きな身体をもじもじさせて見つめてくる。
アンナリーナはニッコリ笑った。
「よかった。すぐに用意するね。
フランクさんとゲルトさんのもね」
2人は、話でしか聞いたことのない、初めてその目で見た【薬師のアイテムバッグ】から、次々と出されていく鍋やバスケットを見て唖然とする。
「お口に合えばいいんだけど」
3人が出した木皿にスープを注いでいく。
今の今まで火にかけられていたようなスープは、とうもろこしの粉で作った即席風スープなのだが、溶けかけた玉ねぎやひよこ豆が入っている。
そしてサイコロ切りのハムがたくさん入っていた。
「本当は、ハム以外裏ごしするんだけど、これは噛んで食べたかったからこのままね。
細かいつぶつぶはキヌアって言って、とても栄養があるの」
バスケットには昨日と同じロールパンが山と積まれている。
「同じパンでごめんね。
でも量はたくさんあるから、好きなだけ食べて?」
そして大きめのフライパンを取り出し、焚き火の火で温め始めた。
玉子液も取り出す。
「もう一個、足すかな」
大きめの玉子……トサカ鳥の玉子を出して割り入れる。
塩、胡椒、ミルクを足して、フライパンにはバターをたっぷりと落とし揺り回しながら溶かしていく。
そこに玉子液を入れて、様子を見ながらかき回していく。
あっという間にスクランブルエッグが出来上がって、各自が出してきた皿に分配した。
「手抜きでごめんね。
形は悪いけど味は大丈夫だと思うよ」
大丈夫どころではない。
調味料を惜しげなく使ったスクランブルエッグは、少なくても護衛の2人にとって食べた事がないほど美味だった。
ガツガツと掻き込むスープも、あっという間に量を減らす。
「お嬢ちゃん、美味い、美味いよ」
フランクは最早、涙目だ。
「朝食は一日の始まりの大切な栄養なんだよ。お腹いっぱい食べてね」
にっこりと笑って首を傾ける仕草。
その途端、3人は年甲斐もなく惚れてしまった。
それを口に出さなかったのは、例の一件……グレイストが求婚して、嫌がるリーナを追いかけ回している事を知っているからだ。
そんな事を知るべくもなく、アンナリーナも食事を始めた。
その前で3人が目配せする。
そうして口を開いたのはザルバだった。
「嬢ちゃん、昨夜からこいつらと話し合ってたんだがなぁ」
ザルバの口調に不穏なものを感じ、アンナリーナは背筋を伸ばした。
「お嬢ちゃんと昨日の夜話し合った件、あれが少し拙いんじゃないか、って事になったんだわ」
アンナリーナは断られると思い身を硬くした。
「嬢ちゃん」
ゲルトが代わって話し出す。
「こいつが雇った……なんて事になってたら、乗客の連中もこぞって自分の分も作ってくれって言ってくる」
話を聞いていた時は半々といったところを想像していたが、食した今は確信している。
「だから、旅慣れない嬢ちゃんをこいつ(ザルバ)が預かったという事にして、その代わり食事の世話をしている……という事にした方がいいんじゃないか、と思うんだよ」
「おお、素晴らしい!」
アンナリーナではまったく思いつけなかった事を指摘され、さらに解決案まで示してくれる……この冒険者たちを尊敬した。
「それでお願いします」
またペコリと頭を下げて、そしてお礼を思いついた彼女は、早速バッグに手を入れて、作り置きしていたカッテージチーズと砕いたナッツとくるみ、それに蜂蜜を取り出した。
小さめの椀にカッテージチーズを入れ、ナッツ類を入れて蜂蜜を控えめにかけ、簡単デザートの出来上がり。
「甘さは控えてあるけど、蜂蜜はたくさんあるから、よかったら足してね」
塩味と、蜂蜜の甘みのバランスが絶妙なデザートを、文字通り涙を流して平らげたのは4人だけの秘密になった。
話には聞いていたが本当に少女だ。
「俺はフランク」
「俺はゲルトだ。これから7日間、よろしくな」
「リーナです。こちらこそ、よろしく……えっと、朝食召し上がりました?」
“ 召し上がる ”なんて言葉を久々に聞く2人は、目を白黒させている。
「嬢ちゃん……その、悪い。
またご馳走してもらえないか?」
ザルバが大きな身体をもじもじさせて見つめてくる。
アンナリーナはニッコリ笑った。
「よかった。すぐに用意するね。
フランクさんとゲルトさんのもね」
2人は、話でしか聞いたことのない、初めてその目で見た【薬師のアイテムバッグ】から、次々と出されていく鍋やバスケットを見て唖然とする。
「お口に合えばいいんだけど」
3人が出した木皿にスープを注いでいく。
今の今まで火にかけられていたようなスープは、とうもろこしの粉で作った即席風スープなのだが、溶けかけた玉ねぎやひよこ豆が入っている。
そしてサイコロ切りのハムがたくさん入っていた。
「本当は、ハム以外裏ごしするんだけど、これは噛んで食べたかったからこのままね。
細かいつぶつぶはキヌアって言って、とても栄養があるの」
バスケットには昨日と同じロールパンが山と積まれている。
「同じパンでごめんね。
でも量はたくさんあるから、好きなだけ食べて?」
そして大きめのフライパンを取り出し、焚き火の火で温め始めた。
玉子液も取り出す。
「もう一個、足すかな」
大きめの玉子……トサカ鳥の玉子を出して割り入れる。
塩、胡椒、ミルクを足して、フライパンにはバターをたっぷりと落とし揺り回しながら溶かしていく。
そこに玉子液を入れて、様子を見ながらかき回していく。
あっという間にスクランブルエッグが出来上がって、各自が出してきた皿に分配した。
「手抜きでごめんね。
形は悪いけど味は大丈夫だと思うよ」
大丈夫どころではない。
調味料を惜しげなく使ったスクランブルエッグは、少なくても護衛の2人にとって食べた事がないほど美味だった。
ガツガツと掻き込むスープも、あっという間に量を減らす。
「お嬢ちゃん、美味い、美味いよ」
フランクは最早、涙目だ。
「朝食は一日の始まりの大切な栄養なんだよ。お腹いっぱい食べてね」
にっこりと笑って首を傾ける仕草。
その途端、3人は年甲斐もなく惚れてしまった。
それを口に出さなかったのは、例の一件……グレイストが求婚して、嫌がるリーナを追いかけ回している事を知っているからだ。
そんな事を知るべくもなく、アンナリーナも食事を始めた。
その前で3人が目配せする。
そうして口を開いたのはザルバだった。
「嬢ちゃん、昨夜からこいつらと話し合ってたんだがなぁ」
ザルバの口調に不穏なものを感じ、アンナリーナは背筋を伸ばした。
「お嬢ちゃんと昨日の夜話し合った件、あれが少し拙いんじゃないか、って事になったんだわ」
アンナリーナは断られると思い身を硬くした。
「嬢ちゃん」
ゲルトが代わって話し出す。
「こいつが雇った……なんて事になってたら、乗客の連中もこぞって自分の分も作ってくれって言ってくる」
話を聞いていた時は半々といったところを想像していたが、食した今は確信している。
「だから、旅慣れない嬢ちゃんをこいつ(ザルバ)が預かったという事にして、その代わり食事の世話をしている……という事にした方がいいんじゃないか、と思うんだよ」
「おお、素晴らしい!」
アンナリーナではまったく思いつけなかった事を指摘され、さらに解決案まで示してくれる……この冒険者たちを尊敬した。
「それでお願いします」
またペコリと頭を下げて、そしてお礼を思いついた彼女は、早速バッグに手を入れて、作り置きしていたカッテージチーズと砕いたナッツとくるみ、それに蜂蜜を取り出した。
小さめの椀にカッテージチーズを入れ、ナッツ類を入れて蜂蜜を控えめにかけ、簡単デザートの出来上がり。
「甘さは控えてあるけど、蜂蜜はたくさんあるから、よかったら足してね」
塩味と、蜂蜜の甘みのバランスが絶妙なデザートを、文字通り涙を流して平らげたのは4人だけの秘密になった。
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