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第二章
19『宿屋の食事と塩』
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部屋に上がる前に頼んでおいた夕食が届き、ノックの音に結界を解いて受け取り、また結界を張った。
「いただきます」
まず目に付いたのは、昨夜も絶賛した川海老だ。
昨日よりいささか大きいサイズの海老を、殻ごと茹でた熱々のまま皿に盛られている。
これは明らかにアンナリーナの好みに沿ったメニューだと思われる。
事実、彼女は感嘆の声をあげたのだから。
そしてスープは細かく刻まれた野菜たっぷりのもの。
中には見覚えのあるひよこ豆が使われていて、味は鶏ガラと野菜のエキスに塩、といったものだがことさら美味しそうに見える。
肉は今夜も薄切りにされ、炒められているだけだが、付け合せのほうれん草と一緒に食べると肉のクセも気にならずに頂けた。
バスケットには薄めに切られた黒パンが3枚。
信じられない事にアンナリーナはこの量を、肉はセトと分け合ったのだが、ペロリと平らげた。
「うんうん、今夜も美味しく頂けました。ごちそうさまです。
しかし調味料がお塩だけなのにこれだけの味を出すって……食材の旨みを活かしてるんだね……
ミハイルさんが言ってたこと。
お塩がなくなったら困るよね」
アンナリーナはこの場で強めに【探索】をかけてみた。
もちろん対象は『岩塩石』と『鉄鉱石』だ。
「ん~ やっぱり近場にはないか……
かと言って、在庫を吐き出すのは嫌だしな」
「ピュ」
セトが食べ終わって籠に戻っている。
「お腹いっぱいになって眠くなった?
明日は一緒に出掛けようか?
何?行きたかったの?」
籠から飛び出てきたセトが膝を駆け上がってくる。
手のひらに乗せて頭を撫でる。
そしてにっこりと微笑んだ。
昨夜は根を詰めた仕事をしていた割に、スッキリとした目覚めを迎えたアンナリーナは、部屋の洗面台で朝の支度を整えていた。
その肩にはセトが乗っていて、興味深そうに鏡を見ている。
「ふふ、そう言えばセトは、鏡は初めてだったね。どう?」
手のひらに移したセトを鏡の面ギリギリに近づけてやると、彼はおっかなびっくり、鼻先を鏡に付けて見ている。
「初めて会ったときに比べると、ちょっと大きくなったかな?
さ、下に降りようか」
朝食を摂る客はアンナリーナ1人だ。
彼女の姿を見た女将が、パンの入ったバスケットを持って近づいてくる。
「おはようございます」
「おはよう、嬢ちゃん。
今日はどうするんだい?」
水差しと杯。それにスプーンとフォークが置かれる。
すぐに取って返して、ポタージュスープが持ってこられた。
「これは、ここらあたりの特産のイメヒメ芋を使ったスープなんだよ。
ミルクもたっぷり使っているから美味しいよ。お代わりもできるからたくさん食べておくれ」
見た目はジャガイモのポタージュよりも白い。とろみも少なく、サラリとしている。
アンナリーナはスプーンですくって一口……
「美味しい!」
ジャガイモと里芋の中間の味と言えようか。これも味付けは塩だけなのだがミルクの甘みがたまらない。
「そうかい、よかった。
この芋はほとんど村から出ないから、知られてないんだよ。
よかったら後で見てみるかい?」
「是非!」
アンナリーナの顔が笑みでほころぶ。
こうしていると見た目通りの年齢なのだが。
『イメヒメ芋は買いだよね!
ここのミルクは濃厚だから、これも買い!
そうだ!このスープを大鍋に作ってもらってインベントリに保存するのもアリかもしれない……』
ムフムフと1人でにやけていると次の皿が運ばれてきてテーブルに置かれる。
サイコロ状に切られた人参や玉ねぎ、セロリとハムがバターで炒められている。
「このハムならそのチビちゃんも食べられるだろ?
たくさん……と言っても限度があるだろうけど、しっかり食べな」
女将の好意に包まれてその心地よさに、アンナリーナはある決心をしたのだった。
「採取に行くのかい?
1人で大丈夫なのかい」
女将は心配そうだが、今更だ。
「今までも1人だったんだもの。
それに今日はハンスさんやミハイルさんと約束しているから、ちゃんと帰って来ます」
「じゃあ、これを持って行っておくれ。あんたはちっこくてあまり食べないから、ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」
女将が渡してよこしたバスケットには黒パンのサンドイッチが入っていた。
「女将さん、ありがとう。
すごく美味しそうなお弁当!
行って来ます!」
バスケットをアイテムバッグにしまうふりをして、インベントリに入れて、宿屋を出る。
小走りで村の中を抜けて門に近づいた。
「お?嬢ちゃん、どこに行く?」
出立するとは聞いてないぞー、とジャージィが叫んでいる。
「ちょっと足りないものが出来たから採取に行って来ます。じゃあね」
パタパタと走りながら、数日前に通った道を戻って行くアンナリーナ。
ジャージィたちは不安そうにそれを見送っていた。
「いただきます」
まず目に付いたのは、昨夜も絶賛した川海老だ。
昨日よりいささか大きいサイズの海老を、殻ごと茹でた熱々のまま皿に盛られている。
これは明らかにアンナリーナの好みに沿ったメニューだと思われる。
事実、彼女は感嘆の声をあげたのだから。
そしてスープは細かく刻まれた野菜たっぷりのもの。
中には見覚えのあるひよこ豆が使われていて、味は鶏ガラと野菜のエキスに塩、といったものだがことさら美味しそうに見える。
肉は今夜も薄切りにされ、炒められているだけだが、付け合せのほうれん草と一緒に食べると肉のクセも気にならずに頂けた。
バスケットには薄めに切られた黒パンが3枚。
信じられない事にアンナリーナはこの量を、肉はセトと分け合ったのだが、ペロリと平らげた。
「うんうん、今夜も美味しく頂けました。ごちそうさまです。
しかし調味料がお塩だけなのにこれだけの味を出すって……食材の旨みを活かしてるんだね……
ミハイルさんが言ってたこと。
お塩がなくなったら困るよね」
アンナリーナはこの場で強めに【探索】をかけてみた。
もちろん対象は『岩塩石』と『鉄鉱石』だ。
「ん~ やっぱり近場にはないか……
かと言って、在庫を吐き出すのは嫌だしな」
「ピュ」
セトが食べ終わって籠に戻っている。
「お腹いっぱいになって眠くなった?
明日は一緒に出掛けようか?
何?行きたかったの?」
籠から飛び出てきたセトが膝を駆け上がってくる。
手のひらに乗せて頭を撫でる。
そしてにっこりと微笑んだ。
昨夜は根を詰めた仕事をしていた割に、スッキリとした目覚めを迎えたアンナリーナは、部屋の洗面台で朝の支度を整えていた。
その肩にはセトが乗っていて、興味深そうに鏡を見ている。
「ふふ、そう言えばセトは、鏡は初めてだったね。どう?」
手のひらに移したセトを鏡の面ギリギリに近づけてやると、彼はおっかなびっくり、鼻先を鏡に付けて見ている。
「初めて会ったときに比べると、ちょっと大きくなったかな?
さ、下に降りようか」
朝食を摂る客はアンナリーナ1人だ。
彼女の姿を見た女将が、パンの入ったバスケットを持って近づいてくる。
「おはようございます」
「おはよう、嬢ちゃん。
今日はどうするんだい?」
水差しと杯。それにスプーンとフォークが置かれる。
すぐに取って返して、ポタージュスープが持ってこられた。
「これは、ここらあたりの特産のイメヒメ芋を使ったスープなんだよ。
ミルクもたっぷり使っているから美味しいよ。お代わりもできるからたくさん食べておくれ」
見た目はジャガイモのポタージュよりも白い。とろみも少なく、サラリとしている。
アンナリーナはスプーンですくって一口……
「美味しい!」
ジャガイモと里芋の中間の味と言えようか。これも味付けは塩だけなのだがミルクの甘みがたまらない。
「そうかい、よかった。
この芋はほとんど村から出ないから、知られてないんだよ。
よかったら後で見てみるかい?」
「是非!」
アンナリーナの顔が笑みでほころぶ。
こうしていると見た目通りの年齢なのだが。
『イメヒメ芋は買いだよね!
ここのミルクは濃厚だから、これも買い!
そうだ!このスープを大鍋に作ってもらってインベントリに保存するのもアリかもしれない……』
ムフムフと1人でにやけていると次の皿が運ばれてきてテーブルに置かれる。
サイコロ状に切られた人参や玉ねぎ、セロリとハムがバターで炒められている。
「このハムならそのチビちゃんも食べられるだろ?
たくさん……と言っても限度があるだろうけど、しっかり食べな」
女将の好意に包まれてその心地よさに、アンナリーナはある決心をしたのだった。
「採取に行くのかい?
1人で大丈夫なのかい」
女将は心配そうだが、今更だ。
「今までも1人だったんだもの。
それに今日はハンスさんやミハイルさんと約束しているから、ちゃんと帰って来ます」
「じゃあ、これを持って行っておくれ。あんたはちっこくてあまり食べないから、ちゃんと食べなきゃ駄目だよ」
女将が渡してよこしたバスケットには黒パンのサンドイッチが入っていた。
「女将さん、ありがとう。
すごく美味しそうなお弁当!
行って来ます!」
バスケットをアイテムバッグにしまうふりをして、インベントリに入れて、宿屋を出る。
小走りで村の中を抜けて門に近づいた。
「お?嬢ちゃん、どこに行く?」
出立するとは聞いてないぞー、とジャージィが叫んでいる。
「ちょっと足りないものが出来たから採取に行って来ます。じゃあね」
パタパタと走りながら、数日前に通った道を戻って行くアンナリーナ。
ジャージィたちは不安そうにそれを見送っていた。
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