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高校卒業までの話

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遠ざかるトラック。
朝から伯父さんとは別の車でうちに来ていた伯母さんは、荷物を粗方まとめるとひと足先に自宅に戻って行った。自宅に残してきたおばぁちゃんが心配だからって。
残った伯父さんと、カナとボク。3人で荷物をどんどこ積んだ。

なんとはなしにトラックの行った先を見つめてしまうのは、やっぱりちょっと、寂しいからかもしれない。
…ほんのちょっと。ちょっぴりだけだけど。
おばぁちゃんの荷物が遠くなることが。
もうおばぁちゃんはここには帰ってこないってこと、再度突きつけられた様で。
寂しいのかもしれない。



「いっちゃったね。」
「ね。」 


隣で、同じ様に見送ったカナがぽつりと呟く。
それに短く答えて。
ボクは大きく息を吐いた。



「さてと。ご飯にしようか。」







家の中は、まぁそれなりにちらかってる。
おじぃちゃんが亡くなった時に、1度。遺品整理と同時に断捨離を決行。その際にだいぶ整理はしてあった、んだけど。
その時には整理できなかったあれこれがやっぱりたくさんあるわけで。それらを家中でひっくり返したわけだからそりゃあ散らかりもします。
正直、掃除しないうちはこの中でご飯作るのも食べるのもご遠慮したい。埃とかすごそうだしね。カナは平気だよーって笑ってるけど、平気?どこが?なんで!?
ボクが無理。

「アオの作ったご飯食べたいなぁ。」
ワンコでおねだりしても無理、嫌、駄目。
「アオ~」
後ろから名前を呼ばれつづけるけど構いはしない!ボクはさっさと家の中に鍵とお財布とスマホを取りに行く。ついでに窓の鍵を確認。

「だめ?」

玄関先で、ある意味イイコデマテしてたカナが、諦め悪くボクを見てくるけど、うん駄目です。
「夕飯は作るから今はやだ!」
渋るカナを引きずる様にして。ひとまず駅近のファミレスで済ますことにした。



夕飯は、カナリクエストのオムライス。
刻んだ玉ねぎと人参、彩りのインゲンをバターで炒め、豚挽きを加える。そこにビーフブイヨンとトマトケチャップを投入し、最後にご飯を加えてケチャップライスの出来上がり。それをお皿に盛り付けたら今度は卵作り。さっと軽く拭いたフライパンにバターを入れて。卵5つとチーズでスクランブルエッグ。それを盛り付けといたケチャップライスに乗せたら完成だ。
サイドメニューに、冷凍しておいた蒸し鶏でサラダ。同じく冷凍のカリフラワーにお手柄オーロラソースを和えて箸休めに。


「うん、なかなか良いね。」
我ながら手際よくできた。ひっそり自画自賛しながらそれらを機嫌良くテーブルに並べていく。
そこへ、先にお風呂に入らせたカナがタイミングよくあがってきた。よしよし、実にいいタイミングだよ!
「お風呂お先いただきましたー。アオも入っちゃう?って、あー!!」
タオルで髪の毛をガシガシ拭き拭き。
お風呂であったまったからか、気持ちよさそうな顔したカナは、テーブルに並んだ料理に目を輝かせた。
「すごい!美味しそう!!」
「ちょうど出来たとこ。座って!出来たて食べよう!」
きらっきらなカナの顔に、ボクまで嬉しくなってくる。
作ったご飯喜ばれるのって、ほんっとに嬉しい
ボクは作っておいた麦茶や、スプーンやらをとりにまた台所に戻る。







(良かった。)


お盆に必要なものを乗せていきながら、知らず詰めていた息を小さく吐く。
(カナが夕飯までいてくれて良かった。)



ボクが中学生の頃、おばぁちゃんが1回目の脳梗塞で入院した。といっても、倒れて救急車で運ばれたわけじゃない。
伯父さんの家に、たまたま遊びに行っていた時。
おばぁちゃんが何度もものを掴み損ねて落っことしたんだ。
いやねぇ、って笑ったおばぁちゃんと反比例にして、伯父さんは怖い顔してすぐさま病院へ連れて行った。
結果、脳梗塞。

『最近ちょっと、手が痺れるわぁって思ったの。』

早期発見でほっと胸を撫で下ろした面々を前に、おばぁちゃんはやっぱり笑った。

その時も、これからどうするか親族会議が開かれた。
どうしたらいいか。どうするのがいいか。
伯父さんも伯母さんも、おばぁちゃんのことはもちろん。ボクのことも心配してくれて、一緒に住もうと言ってくれた。
有り難い。本当に有り難いことだ。
両親が亡くなった時も、伯父さんたちは一緒に住もうと言ってくれた。伯父さんとこの子供たちはその頃もう高校生くらいだったし、逆にボクは幼稚園生。年が離れていたからか、おいでよってみんなが言ってくれた。
でも結局は、その頃まだ健在だったおじいちゃんが引き取ってくれて、3人住まいに。おじいちゃんが亡くなってからはおばぁちゃんと2人で住んできた。
そのおばぁちゃんが、病気。
伯父さんたちからの、今度こそ一緒に。
ボクもそれが1番いいと思ったから、すぐに頷いた。だから。
首を横に振ったのは、おばぁちゃんだけだった。
『もう少し、この家に住んでいたいの。』
おじぃちゃんとの思い出の詰まった家をまだ離れたくないのよって。おじぃちゃんのことをとにかく大好きなおばぁちゃんは、柔らかく笑いながら断固拒否したんだ。

伯父さんも伯母さんもボクも。
おばぁちゃんの気持ちを大事にしたかったから。
最後はわかった、って頷いた。


でも今回2度目の脳梗塞で、おばぁちゃんは諦めなきゃいけなくなった。







「わ!この白い鶏肉って、体育祭の時の?あれすごい美味しかったやつー!」
カナのはしゃいだ声がする。
…ボクは1つ、小さく息を吐いて。思考を取り止めようと頭をぶるって振った。
「それ、蒸し鶏。シンプルな味付けだから、ドレッシングとかかけるといいよ。」
「そうなんだ。ドレッシング取りにそっち行ってもいい?」
居間から、カナがこっちを見てくる。
「うん、助かる!」
両手に持ったお盆を少しかかげてみせれば、了解!って。すかさず立ち上がってこちらにやってくる。
居間と台所はすぐ側だ。わざわざ聞かなくてもいいのになぁ。)そんなカナの丁寧さだとか真面目さだとか、すごいなぁって思うんだ。
長い足で数歩の距離。
カナはボクのとこまで来ると、
「こっちを持ってくから、アオがドレッシング持ってきてくれる?」
そう言いながらボクの両手からスッとお盆を受け取るものだから。ボクは目を見開いた。
居間からここに来るまでとお盆を取る、流れるようなその動作がなんだかすごいスマートだ!
「すごい、なんかすごい。」
「?何が??」
言葉足らずに呟くボクに、カナは首を傾げる。
その姿までスマートすぎる!!
「王子め…!!」
「王子?よくわかんないけど、冷めないうちに食べたいなぁ。」
傾げたまま、紡ぐカナの言葉にボクはあっと声を上げる。
そうだ!冷めちゃう!!
「了解!それ持って座って!!」
慌ててボクは冷蔵庫を開けた。
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