25 / 26
高校卒業までの話
1
しおりを挟む卒業まであとわずか。
2ヶ月切った1月の寒い日、ボクは人生で2度目の大きな転換期を迎えた。
「これで最後かな?」
「はい、あとは大丈夫です。」
伯父さんはボクに確認した後、最後の段ボールをよいしょと、トラックに積んだ。
伯父さんがどこからか調達してきてくれた小型のトラックには、少ないように思えたおばぁちゃんの荷物がぎっしり。段ボールだけで何箱あったんだろう…?運び込んだ数を思い出しながら数えて、やめた。とにかく、たくさんだった。
処分が苦手だと言っていた伯母さんが、あれもこれもと箱に詰めた結果、思った以上の荷物になったのだ。
「はー、けっこうあったなぁ。」
伯父さんも同じように思っていたみたいだ。
肩をごきごき鳴らし、軽く伸びをする。
「おばぁちゃん、着物好きだったんですね。桐の箪笥にいくつも入ってて驚きました。」
手伝いに来てくれたカナも、同じようにごきごき。良い音を立てながら初めの方に積んだ箪笥のことを口にした。
「母さん、お茶を習っていたからねぇ。私たちが小さい頃はよく着物を着ていたよ。」
「おばぁちゃんがお茶!」
伯父さんの言葉に、カナは驚いたように声を上げ、取ろうとしていた軍手をそのままに動きを止めた。
「お稽古自体は随分前に辞めてしまったけれどね。自宅でたまにお抹茶たててたみたいだし、飲んだりしなかったかい?」
伯父さんはおやって顔しながら、カナを見た。
カナが良くうちに来てることは、ボクもおばぁちゃんも話していた。おばぁちゃんなんて、カナちゃんカナちゃんってしょっちゅうカナの話をしてるから。
今日が初対面に思えないよって、最初から伯父さんはかなりフレンドリー。
カナはもともと人懐っこい性格だから、3人で和気藹々と作業を進められて。朝から始めた詰め込み作業もお昼前には終わりが見えた。捗った!
今までたくさんたくさんカナは話に出てたから、ボクのうちに数え切れないくらい遊びに来ていたこともご飯食べていたことも、泊まっていたことも親戚はみんな知ってる。
だからこそ、おばぁちゃんのお抹茶も当然飲んだことあるだろうと、そう思ったんだろう。
「飲んだことは、なかった、かなぁと思います。」
カナは伯父さんのそんな気持ちがわかったみたいで、どこか申し訳なさそうだ。
おばぁちゃんは、ボクの卒入学式にいつも着物で参加だった。
お正月にみんなが集まる時も着物で。以前は、機会があればみんなにお抹茶をたててくれていたし、お茶会に参加、なんてこともあった。
そんなわけでボクは知っていたけれど。
驚いたままのカナの顔を見ながらそう言えば…カナにそんな話をしたことはなかったかもしれない。ことに気づいた。
おばあちゃんが1度目の脳梗塞で病院に運ばれたのは高校入学前。その時は軽かったとはいえ、若干右手に後遺症が残ってしまった。それからお抹茶をたてなくなっていたから、高校からの友達であるカナには、振る舞ったこともなかったんだ。
おばぁちゃんが集めていたお茶道具は、ほとんどお仲間の人に譲ったか何かで家には残ってなくて。ほんとに最小限のものだけを手元に残していたし、それも今回は持っていかないことになっていたから、余計にカナの目に触れることもなかった。
「カナはお抹茶飲めたんだっけ?苦いって苦手な人もけっこういるみたいだけど。」
カナとは3年間いろんな話をして来たけど、この話題は初めてだった。なんだか新鮮。
ボクは目をきらめかせて、カナを見た。
ボクは小さい頃からおばぁちゃんのたててくれたお抹茶を飲んできたから、お抹茶が好きだ。
カナは、どうだろう。
ボクの期待を込めた視線を受けて、んーとって一声いれてから、
「わりと好きだよ。お抹茶味のお菓子とかしか食べたことないけど。」
少し宙を見ながらカナは続けた。
おばぁちゃんのお抹茶飲んでみたかったなぁ。
ちょっぴり、寂しそうに。眉毛下げて。
カナはボクのおばぁちゃんが大好きだ。
今まで無かったその機会は、この先も多分訪れない。そのことを知っているからこそ、寂しく感じちゃったんだろう。
見えない耳と尻尾が垂れてる…!!
(かっわ!ワンコがしょげてる!)
大型犬のしょんぼりしてるその可愛らしい姿に、非情にも慄いてしまったボク。
最近ワンコカナが可愛く見えてしまって困る。
「そうか。じゃぁ、アオにたててもらうといいよ。」
しょげるカナと目をきらめかせるボクを見比べた後、伯父さんは妙案だとばかりに笑った。
「アオ?」
「ボク?」
2人の声が被る。
それにまた、笑みを深くした伯父さん。
「茶筅と茶碗は残してあるだろうし、母さんとよく一緒にたてただろう?」
にこやかにそう言われ、ボクは素直に頷く。
「おばぁちゃんが、置いていくって言ってたので茶箪笥にしまってあります。お抹茶は多分、無いですけど。」
冷凍保存していたお抹茶は随分前に処分してしまった。
「そしたらお茶屋さんで買うと良いよ、っと。もうこんな時間か。」
伯父さんは言いながら腕の時計に目をやった。
「さて、もうお昼になるしそろそろ出発しようかな。荷下ろしは妻とやるから安心しなさい。」
「はい。よろしくお願いします。」
ボクはぺこりと頭を下げた。
何かあればすぐ連絡する様に。
何度も念を押しながら、伯父さんはトラックに乗って帰って行った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
無縁坂
かかし
BL
夜中に唐突に目が覚めて唐突に思いついたので下書き無しでババっと書いた、とある大好きな曲ネタ
浮気美形α×平凡健気Ω
……の、息子視点
この設定ならオメガバースじゃなくてイイじゃんって思ったんですが、思いついたなら仕方ない
寝惚けてたってことで、一つ
※10/15 完全な蛇足追加
どうも俺の新生活が始まるらしい
氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。
翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。
え? 誰この美中年!?
金持ち美中年×社会人青年
某サイトのコンテスト用に書いた話です
文字数縛りがあったので、エロはないです
ごめんなさい
魂なんて要らない
かかし
BL
※皆様の地雷や不快感に対応しておりません
※少しでも不快に感じたらブラウザバックor戻るボタンで記憶ごと抹消しましょう
理解のゆっくりな平凡顔の子がお世話係で幼馴染の美形に恋をしながらも報われない不憫な話。
或いは、ブラコンの姉と拗らせまくった幼馴染からの好意に気付かずに、それでも一生懸命に生きようとする不憫な子の話。
着地点分からなくなったので一旦あげましたが、消して書き直すかもしれないし、続きを書くかもしれないし、そのまま放置するかもしれないし、そのまま消すかもしれない。
当たって砕けていたら彼氏ができました
ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。
学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。
教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。
諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。
寺田絋
自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子
×
三倉莉緒
クールイケメン男子と思われているただの陰キャ
そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。
お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。
お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる