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高校卒業までの話

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卒業まであとわずか。
2ヶ月切った1月の寒い日、ボクは人生で2度目の大きな転換期を迎えた。


「これで最後かな?」
「はい、あとは大丈夫です。」


伯父さんはボクに確認した後、最後の段ボールをよいしょと、トラックに積んだ。
伯父さんがどこからか調達してきてくれた小型のトラックには、少ないように思えたおばぁちゃんの荷物がぎっしり。段ボールだけで何箱あったんだろう…?運び込んだ数を思い出しながら数えて、やめた。とにかく、たくさんだった。
処分が苦手だと言っていた伯母さんが、あれもこれもと箱に詰めた結果、思った以上の荷物になったのだ。
「はー、けっこうあったなぁ。」
伯父さんも同じように思っていたみたいだ。
肩をごきごき鳴らし、軽く伸びをする。
「おばぁちゃん、着物好きだったんですね。桐の箪笥にいくつも入ってて驚きました。」
手伝いに来てくれたカナも、同じようにごきごき。良い音を立てながら初めの方に積んだ箪笥のことを口にした。
「母さん、お茶を習っていたからねぇ。私たちが小さい頃はよく着物を着ていたよ。」
「おばぁちゃんがお茶!」
伯父さんの言葉に、カナは驚いたように声を上げ、取ろうとしていた軍手をそのままに動きを止めた。
「お稽古自体は随分前に辞めてしまったけれどね。自宅でたまにお抹茶たててたみたいだし、飲んだりしなかったかい?」
伯父さんはおやって顔しながら、カナを見た。
カナが良くうちに来てることは、ボクもおばぁちゃんも話していた。おばぁちゃんなんて、カナちゃんカナちゃんってしょっちゅうカナの話をしてるから。
今日が初対面に思えないよって、最初から伯父さんはかなりフレンドリー。
カナはもともと人懐っこい性格だから、3人で和気藹々と作業を進められて。朝から始めた詰め込み作業もお昼前には終わりが見えた。捗った!

今までたくさんたくさんカナは話に出てたから、ボクのうちに数え切れないくらい遊びに来ていたこともご飯食べていたことも、泊まっていたことも親戚はみんな知ってる。
だからこそ、おばぁちゃんのお抹茶も当然飲んだことあるだろうと、そう思ったんだろう。
「飲んだことは、なかった、かなぁと思います。」
カナは伯父さんのそんな気持ちがわかったみたいで、どこか申し訳なさそうだ。


おばぁちゃんは、ボクの卒入学式にいつも着物で参加だった。
お正月にみんなが集まる時も着物で。以前は、機会があればみんなにお抹茶をたててくれていたし、お茶会に参加、なんてこともあった。
そんなわけでボクは知っていたけれど。
驚いたままのカナの顔を見ながらそう言えば…カナにそんな話をしたことはなかったかもしれない。ことに気づいた。

おばあちゃんが1度目の脳梗塞で病院に運ばれたのは高校入学前。その時は軽かったとはいえ、若干右手に後遺症が残ってしまった。それからお抹茶をたてなくなっていたから、高校からの友達であるカナには、振る舞ったこともなかったんだ。
おばぁちゃんが集めていたお茶道具は、ほとんどお仲間の人に譲ったか何かで家には残ってなくて。ほんとに最小限のものだけを手元に残していたし、それも今回は持っていかないことになっていたから、余計にカナの目に触れることもなかった。

「カナはお抹茶飲めたんだっけ?苦いって苦手な人もけっこういるみたいだけど。」
カナとは3年間いろんな話をして来たけど、この話題は初めてだった。なんだか新鮮。
ボクは目をきらめかせて、カナを見た。


ボクは小さい頃からおばぁちゃんのたててくれたお抹茶を飲んできたから、お抹茶が好きだ。
カナは、どうだろう。


ボクの期待を込めた視線を受けて、んーとって一声いれてから、
「わりと好きだよ。お抹茶味のお菓子とかしか食べたことないけど。」
少し宙を見ながらカナは続けた。
おばぁちゃんのお抹茶飲んでみたかったなぁ。
ちょっぴり、寂しそうに。眉毛下げて。


カナはボクのおばぁちゃんが大好きだ。
今まで無かったその機会は、この先も多分訪れない。そのことを知っているからこそ、寂しく感じちゃったんだろう。
見えない耳と尻尾が垂れてる…!!

(かっわ!ワンコがしょげてる!)

大型犬のしょんぼりしてるその可愛らしい姿に、非情にも慄いてしまったボク。
最近ワンコカナが可愛く見えてしまって困る。 


「そうか。じゃぁ、アオにたててもらうといいよ。」
しょげるカナと目をきらめかせるボクを見比べた後、伯父さんは妙案だとばかりに笑った。

「アオ?」
「ボク?」

2人の声が被る。
それにまた、笑みを深くした伯父さん。
「茶筅と茶碗は残してあるだろうし、母さんとよく一緒にたてただろう?」
にこやかにそう言われ、ボクは素直に頷く。
「おばぁちゃんが、置いていくって言ってたので茶箪笥にしまってあります。お抹茶は多分、無いですけど。」
冷凍保存していたお抹茶は随分前に処分してしまった。
「そしたらお茶屋さんで買うと良いよ、っと。もうこんな時間か。」
伯父さんは言いながら腕の時計に目をやった。
「さて、もうお昼になるしそろそろ出発しようかな。荷下ろしは妻とやるから安心しなさい。」
「はい。よろしくお願いします。」
ボクはぺこりと頭を下げた。

何かあればすぐ連絡する様に。
何度も念を押しながら、伯父さんはトラックに乗って帰って行った。



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