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一ヶ月前も
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取り分けた蒸し鶏は、お礼の気持ち。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
カナのやさしい言葉が甦る。
高校3年の、体育祭の朝。
おはよーって挨拶と同時に、背中に乗っかってきたいつもの重み。
ボクは挨拶よりまず先に、今日も誰も来ない、って伝えた。
きっとカナは気にしてる。
ボクに聞いてくることはなかったけれど、多分、きっと。
だからそれだけ伝えて、ボクは口をぎゅっと閉じた。
後ろからいつものように抱きつかれたから、カナの顔は見ずにすんで。
ボクの顔も、見せずにすんで。
見にくる?の一言が、どうしても言えなかったボクの、情けない顔を見せずにすんだんだ。
夕飯食べに来た日、カナはおばぁちゃんにいろんな話を聞かせてた。
1、2年生の時の、体育祭の話も。
障害物競走で、カナの髪が網に絡まって大変だったこと。次に走ったボクの、走り縄跳びがとにかく早くて歓声が上がったこと。
借り物競走でカナがボクを担いで走って、ボクに走りながら叩かれたこと。しかも指示された内容が『可愛い子』
係が確認したとたんボクが怒りだしたこと。
カナはそれら幾つものエピソードを、それはそれは楽しそうに話すものだから。
まだ元気だったおばぁちゃんは、声をあげて笑ったんだ。
『アオちゃんもカナちゃんも、とっても楽しそうね。』
その年の、仮装徒競走の話になった時も。今年はこんなのに出るんですよ!って話して。
おばぁちゃんはやっぱり楽しそうで。
でも、行かないのって。はっきり言ったんだ。
本当はきっと、行きたかっただろうに。
けれどとうとう、ボクには言えなかった。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
それは、ボクの頭を撫でながら、とてもやさしい声でカナがくれた言葉だ。
(みんなの分。みんなの分、だってさ。)
昇降口に着いて、ようやくカナはボクの背中から離れた。
お互いの下駄箱。靴を取り替えるボクたちに、次々とクラスメートが声かけて来て声を返して。
ボクは一歩、遅れて。
みんなに気づかれないようにそっと。
撫でられた頭にそっと手をやった。
ほんのりとまだ、カナの大きな手の感触が残ってそうで。
まだ、温もりややさしさが残っていそうで。
カナの言葉が心が。
嬉しかったんだ。
とてもボクは、嬉しかったんだ。
『アオー!』
校庭に鳴り響く、きぃーんと高い、マイクのハウリング。
放送担当のカナの、実況ガン無視。
大音量で叫ぶ、ボクへの声援。
『がんばれー!』
カナの声。
ボクは走った。
ひたすらに、走った。
肺が苦しくなるくらい全力で地面を蹴った。
頭の中も耳に届くもカナの声だけ。
カナの声だけが響き渡る。
キミの声だけが。
いつまでも。
「ありがとう。」
「?なにが?」
思わず口から溢れた僕の言葉に、アキの視線が皿からこちらに移る。
横から感じるそれに、まるで画面を切り替えるよう、ボクは一つ大きな瞬きをする。
あまりにも鮮やかだ。
カナと過ごした記憶の映像は何年経っても今もなお。
変わらず、鮮明すぎて。その時の空気や匂いや感触すら伴って、ボクの中に確かに存在している。
だというのに。
カナはもういない。
こちらに向けられたアキの視線に、
「あー。蒸し鶏、褒めてくれて?」
誤魔化すみたいに、笑った。
なんだそれって、アキはくるっと眼球を一回転。それから口の端をちょいっとあげて
「まぁ、どーも?」
やっぱり笑った。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
カナのやさしい言葉が甦る。
高校3年の、体育祭の朝。
おはよーって挨拶と同時に、背中に乗っかってきたいつもの重み。
ボクは挨拶よりまず先に、今日も誰も来ない、って伝えた。
きっとカナは気にしてる。
ボクに聞いてくることはなかったけれど、多分、きっと。
だからそれだけ伝えて、ボクは口をぎゅっと閉じた。
後ろからいつものように抱きつかれたから、カナの顔は見ずにすんで。
ボクの顔も、見せずにすんで。
見にくる?の一言が、どうしても言えなかったボクの、情けない顔を見せずにすんだんだ。
夕飯食べに来た日、カナはおばぁちゃんにいろんな話を聞かせてた。
1、2年生の時の、体育祭の話も。
障害物競走で、カナの髪が網に絡まって大変だったこと。次に走ったボクの、走り縄跳びがとにかく早くて歓声が上がったこと。
借り物競走でカナがボクを担いで走って、ボクに走りながら叩かれたこと。しかも指示された内容が『可愛い子』
係が確認したとたんボクが怒りだしたこと。
カナはそれら幾つものエピソードを、それはそれは楽しそうに話すものだから。
まだ元気だったおばぁちゃんは、声をあげて笑ったんだ。
『アオちゃんもカナちゃんも、とっても楽しそうね。』
その年の、仮装徒競走の話になった時も。今年はこんなのに出るんですよ!って話して。
おばぁちゃんはやっぱり楽しそうで。
でも、行かないのって。はっきり言ったんだ。
本当はきっと、行きたかっただろうに。
けれどとうとう、ボクには言えなかった。
『みんなの分、オレがたくさん応援するからね。』
それは、ボクの頭を撫でながら、とてもやさしい声でカナがくれた言葉だ。
(みんなの分。みんなの分、だってさ。)
昇降口に着いて、ようやくカナはボクの背中から離れた。
お互いの下駄箱。靴を取り替えるボクたちに、次々とクラスメートが声かけて来て声を返して。
ボクは一歩、遅れて。
みんなに気づかれないようにそっと。
撫でられた頭にそっと手をやった。
ほんのりとまだ、カナの大きな手の感触が残ってそうで。
まだ、温もりややさしさが残っていそうで。
カナの言葉が心が。
嬉しかったんだ。
とてもボクは、嬉しかったんだ。
『アオー!』
校庭に鳴り響く、きぃーんと高い、マイクのハウリング。
放送担当のカナの、実況ガン無視。
大音量で叫ぶ、ボクへの声援。
『がんばれー!』
カナの声。
ボクは走った。
ひたすらに、走った。
肺が苦しくなるくらい全力で地面を蹴った。
頭の中も耳に届くもカナの声だけ。
カナの声だけが響き渡る。
キミの声だけが。
いつまでも。
「ありがとう。」
「?なにが?」
思わず口から溢れた僕の言葉に、アキの視線が皿からこちらに移る。
横から感じるそれに、まるで画面を切り替えるよう、ボクは一つ大きな瞬きをする。
あまりにも鮮やかだ。
カナと過ごした記憶の映像は何年経っても今もなお。
変わらず、鮮明すぎて。その時の空気や匂いや感触すら伴って、ボクの中に確かに存在している。
だというのに。
カナはもういない。
こちらに向けられたアキの視線に、
「あー。蒸し鶏、褒めてくれて?」
誤魔化すみたいに、笑った。
なんだそれって、アキはくるっと眼球を一回転。それから口の端をちょいっとあげて
「まぁ、どーも?」
やっぱり笑った。
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