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昔の話

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幼稚園
小学校中学校
それから高校
嫌だ嫌だって暴れたことも泣き叫んだこともあったし、大きくなってからはひたすら嫌いだって、出たくない無くなっちゃえって、文句ばかり言って。
なのに、当日は頑張る。
へんてこなボク。



体育祭はこれでもう、お終い。
ボクが参加することは、もうない。
そのお終いの体育祭で、ボクは嬉しい、なんて気持ち。胸に湧き上がって。
ボクはお終いの体育祭を楽しんだんだ。





その最後の最後に聞いた。





みんなで騒いだ。走って暴れて踊って。それこそ全力で体育祭をやり終えて。クラスみんなで燃え尽き、校庭に転がって青春を謳歌した、あのみんなとカナの輝く様な笑顔とともに。
今でも鮮やかに、ボクの中で。
響く。

言葉がある。






「アオって、ねこだよね」

おいっちにーさんしー。
あちらこちらから聞こえてくる、ストレッチのかけ声。
そこに混じって、別の単語が背中の方から聞こえてきた。

「ねこちゃん?」
「うん、そう。ねこ。」

絡ませた腕も意識しつつ、背中のアキの動きに合わせ、ぐーと思い切り背中をそらす。足がちょっと宙に浮いてしまったのは、アキとの身長差のせいだ。…カナほどじゃないけど。ボクの身長が低いせいでもないけれど!

「それって、ボクが孤高だってこと?」
「孤高!!」

ちょいと不満げに問い返したら、ぶほっと思い切りよく吹き出した。
そのままケタケタ笑う。ツボに入ったのかな?なぜだ?

「ふつーマイペースだから、とか言わね?なんで孤高。」
笑いながら。僕の背中を預けたアキは背筋を戻し、宙に浮いてた足が地に着く。
今度はボクが相手の足をあげる番だ。絡ませた腕に力を入れ、ボクはえいっと前に屈んだ。
「あんだけ嫌々言ってたわりに楽しんでただろ?仮装でシャーって威嚇してたってのに。そん時もねこみてーだなって。」
くくって、のどで笑ってるアキ。


(ん?つまりアキはボクがマイペースって言ってる??)
頭でそう思いつつ、ボクはアキに教えてあげる。
ボクの、ねこ持論。


「ねこちゃんて、飼い主に死に様見せないって言うだろ?死ぬって分かったら姿を消すって。孤高だ。」
アキの足を浮かせてやる!気合いは十分なはずなのに、なんでか足は地についたまま。1ミリも浮いてない。
なんでだ??もう少し背中まるめればいいのかな??
「孤高ねぇ。」
アキはボクのねこ持論にご不満のようだ。


「なんの話してるの?」
隣で別のクラスメートとペア組んでたカナが、ひょいっと会話に入ってきた。

「ねこはマイペースって話。」
「ねこは孤高だって話!」

アキとボクが同時に応える。
「ううん??」
カナは首を傾げながら、ちょっぴり心配そうにボクを見る。
眉毛も下げながら。

体育祭でそんな話して大丈夫なのか。
カナはそれを心配してる。
ーーこれが前日だったら、ボクは全力回避していたところだけど。
当日で。
いろいろ気持ちの変化もあったりで。
なによりもう、お終いだから。
ボクは大丈夫そうだなって、そう思っていたから。
心配不要!って、ボクは笑ってた。



ささっと簡単に話していた内容をアキがまとめてカナに話し、ボクはカナに聞いてみた。
「カナはどう思う?」
聞かれたカナはぱしぱし、何度か瞬きをする。
それから、うーんって考えるように空を見上げて。
「優しい、かなぁ。」
って。空を見ながら答えた。
「優しい?」
今度はボクが瞬きする番だ。

マイペースでも、孤高でもなく。優しい。

新たな単語。
いつの間にかストレッチは終わっていて、アキはボクから離れている。アキの乗っかってない、仰け反り伸ばした背中はとっても軽い。

軽くなったボクは、空を見上げるカナを見上げる。ふわふわ。1日校庭走り回っていたからか、いつもより髪の流れが乱雑。あっちこっちに跳ねてるみたいな、ふわふわのカナの髪の毛。
それをふわりと揺らして、カナは空からボクに視線を変えた。
「いなくなるなんて。優しい。」
おっきな目でボクを見ながら、カナは殊更ゆっくりと、話す。
「自分の、その…お終いに、飼い主付き合わせたらかわいそうでしょ?だからお終いがわかったら飼い主のいないところに行く、優しさ。」
「優しさ?」
「そ。」
鸚鵡返しのボクに、こくりとカナは頷いてみせる。
死に際、って単語をあえて避けるカナこそ優しいなぁ、って。
体育祭の最後を、お終いって頭で言い換えたボクとお揃いだぁ、なんて。
そんなことも思いながら。
ボクはカナの言葉を反芻する。



自分のお終いがわかったら飼い主のいないところにいく。
かわいそうだから。
お終いに付き合わせたら、飼い主が、かわいそうだから。


頭の中で何度も反芻。

かわいそう。だから、離れて、死ぬ。


うぅん。
今度はボクがご不満だ。
「優しさかなぁ、それって。」
「優しさだよー」
思わずこぼれたボクの言葉に、カナはうんと頷く。アキは会話に飽きたのか、何も言わない。


ボクはもう一度、言葉を頭の中で転がす。


かわいそうだから。
誰が。
残される、人が。
それで?


うーん。うーん…えーうーん…?

「いきなり消えちゃう方が、かわいそうじゃない?」
何度言葉を転がしても、ボクにはわからないし、そうは思えなくて。
ボクは見上げた先の、カナの大きくてちょっと垂れ気味の目を見る。少し困った様に、いつもより細められた、目を。
「いままでいっしょにいたのに突然いなくなるなんてさ。そっちの方が断然かわいそうだよ。」



突然両親揃って帰って来なくって。
ボクはひとりぽつんと残された。
あの時のボクの気持ち。


「ボクだったら、最後までずっと一緒がいいなぁ」
溢れた言葉は、あの時のボクの気持ちだ。
「でもいなくなってたら、飼い主はお終いだってわからないわけでしょ。」
清々しい晴れ渡る青空をバックに、カナの目は反比例してちょっぴり曇り空だ。
「知らなければ、飼い主の中でその子はずっと生きていける。だからやっぱり優しさだって思うんだ」


その時。カナがどんな顔していたかボクははっきり覚えてない。曇り空な目の色は覚えていても。



だけど。
すぐさま鳴り響いた集合のホイッスルと、アキのいこーぜの声にかき消されそうな一言だけは、それでも今もなお覚えてる。
お終いの体育祭。
青春を謳歌した、あのみんなとカナの輝く様な笑顔とともに。
今でも鮮やかに、ボクの中で。
響く。
言葉。

「オレは、そうしたい」
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