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昔の話
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嫌な予感程、当たるものは無い、気がする。
「夕飯、アオのうちで食べたいなぁ。最近アオの家行けてなかったし、久しぶりにおばあちゃんにも会いたい。」
部活が休みだったカナと連れ立って帰宅途中、
カナからのめずらしくないおねだり。
「そうだっけ?」
ボクはきょとりとする。
「そうだよー。部活がやたら忙しくて、一緒に帰るのだって久しぶりでしょ?」
もうメインは2年なのにさー。
珍しく、ちょっとの不満顔。
新入生が入ってきて忙しい忙しいと走り回っていたのは知っている。頻繁に後輩が教室に来て連れ出され戻ってきてはボクにひっついてた。
放課後もそういえば…一緒じゃなかった?
途中まで帰ってても、後輩が追っかけて連れ戻され…てたなぁ。
「そう言えば…うーん?そうだったかも。」
ここしばらくの下校風景を思い出し、ボクはようやく気づく。
うん、来てないな。
どうりで食材の減りが遅いと思った!
日中べったりだから何だかずっと一緒にいる錯覚を起こしていた。
違った違った。
「ね。だから今日はよろしくお願いします。」
今朝用意してきた今晩のメニューを頭の中で並べ、まぁいっかなと安易に頷いたことをこの後、ボクは後悔することに。
「カナちゃん、ご飯足りてる?今日の炊き込みご飯美味しいでしょ。たくさんおかわりしてちょうだいね。」
カナのことが大好きなおばぁちゃんは、さっきからずっとにこにこだ。
「ありがとうございます!もう1杯おかわりしちゃおうかなぁ。アオ、いい?3杯目だけどいい?」
いい?って聞いてきながら、お茶碗が差し出される。良くご飯を食べにくるカナ用に、おばぁちゃんと選んだお茶碗だ。
白磁に藍色の模様の砥部焼。厚みのあるそれは、カナの大きな手に良く馴染んでる。
「どーぞ。まだあるからお好きなだけ。」
差し出された米粒1つ残ってないお茶碗に、ついにまっとしてしまう。
(美味しいんだ。)
素直に嬉しくて、ご飯はおかわり毎に山が増すのはいた仕方ない。
「ほんとこのご飯美味しい!鶏肉がいいのかなぁ。」
おばぁちゃんのことが大好きなカナもずっとにこにこだ。
カナのおばぁちゃんは、2人とも御存命で。
1人は遠方に。もう1人は近いけど、まだ現役で仕事をしているらしく。いわゆるおばぁちゃん、なイメージでは全くないらしい。
うちのおばぁちゃんはおとっとりした、小柄で。背中こそ丸まっては無いけど、あったかい部屋でお茶を飲んでいそうな可愛らしいおばぁちゃんだ。一緒にいるとほっこりする。
ボクの家に初めて遊びにきた時から、カナはそんなおばぁちゃんにすっかり懐いてしまった。
「あら、わかる?お友達から地鷄をいただいたのよ。この照り焼きもおんなじお肉。柔らかくてとっても美味しい。」
おばぁちゃんは、あらかじめ小さく切って出した照り焼きを口に入れる。お皿には、残りあと2口分のお肉だけ。
(良かった、今日は完食してもらえそうだ。)
最近ちょっと食が落ちてきたのが心配だったけど、今日のおばぁちゃんは良く食べる。
(カナがいるからかな。)
チラッと横目でカナを見れば、にこにこしながら炊き込みご飯を食べている。すごく美味しそうに。すごく幸せそうに。
ご飯の合間に、蕪のお味噌汁を口にして、またにっこにこだ。
(この笑顔でご飯食べてるの見たら、こっちも食欲湧いてくる。またご飯食べにきてもらおう。)
ボクもつい、口元緩む。
食後のお茶でも、と。
ボクはおばぁちゃんと自分にほうじ茶。カナには牛乳を温め、少しだけ砂糖を加えたほうじ茶ミルクを用意することに。これはカナのお気に入りだ。カップを用意し台所で牛乳を温めていると、2人の会話が聞こえてきた。
「最近カナちゃんは忙しかったのかしら?」
「そうなんです。部活がわたわたしてて、アオと一緒に帰れたのも久しぶりなんです。」
後輩が、とはカナは言わない。
ボクからしてみれば、いつまでも3年に頼り切りの2年が問題じゃ無いの?って思うけど、カナは決して後輩のせいにしない。
ボクが体育祭回避のために選んだ今の高校を、カナは今の部活に入部したくて選んだらしい。
だからカナはずっと、部活を大事にしてきた。
去年は部長をきっちり務め、試合でも成果を残して。今年は前線を退きつつも楽しみたいんだって笑ってた。
『アオー!ごめんね。また明日ね。』
後輩に引きづられながら、カナはボクに手を振って。
2年主導なのに、ってぼやきながらも絶対に放ってはおかない。
そんなところとか、カナのすごいところだと思ってる。顔だとか長身だとか、そんな見た目だけじゃ無い、カナの良いところ。
ボクはなんでだかちょっと心があったかくなりながら、温まった鍋の牛乳に直接ほうじ茶の茶葉をいれた。
「まぁ、そうだったの。カナちゃんお疲れ様。学業も大変でしょうに。」
おばぁちゃんの労う、優しい声。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。もうすぐ体育祭ですし!」
カナが元気に返事をする。
体育祭
そのワードに、ボクの眉がきゅっと寄る。
「あら、そうだったわね。もうすぐ、ね。」
おばぁちゃんの声に変化はない。
穏やかなトーンでカナに返す。
ボクは火を止め、カップの上に茶漉しを乗せそこに鍋の中身を落としながら、耳は2人の会話を聞き漏らさないよう、傾ける、と。
「それで、今年から仮装徒競走をすることになったんですけど。」
カナの楽しそうな声。
ボクはハッと、2人に視線を向ける。
「満場一致で、参加はアオに決まったんです。」
「カナ!!」
咄嗟に叫んだ。
「まぁ。仮装?アオちゃんが?」
でももうおばぁちゃんはその内容に興味を示してしまった。
ボクはガチャガチャ音を立てながら慌てて残りの過程をこなし、お盆にそれらを乗せて2人のところへと急ぎ戻る。
「アオちゃん仮装するんですってね。どんなのするの?」
にこにこ。
おばぁちゃんからの視線に内心うっ…ってなりながら、ボクはお茶を並べる。
「そんなたいそうなもんじゃないよ。耳つけるとかそんくらい。」
「あれ?なんかテーマがどーとか言ってなかった?」
「言ってない!それよりほら、お茶!カナの好きなほうじ茶ミルク入れたから!」
「わぁ、ありがとう。いい香り。」
「おばぁちゃんも、ほうじ茶。」
「ありがとう、アオちゃん。」
湯気の立つお茶に2人は手を伸ばしてくれる。
(このまま体育祭話から離れてくれないかなぁ)
ボクもカップを手にし、ふぅーっと息を吹きかけた。
…体育祭。そんなこと無理だとわかっていても、無くなって欲しいと、願ってしまうんだ。
「夕飯、アオのうちで食べたいなぁ。最近アオの家行けてなかったし、久しぶりにおばあちゃんにも会いたい。」
部活が休みだったカナと連れ立って帰宅途中、
カナからのめずらしくないおねだり。
「そうだっけ?」
ボクはきょとりとする。
「そうだよー。部活がやたら忙しくて、一緒に帰るのだって久しぶりでしょ?」
もうメインは2年なのにさー。
珍しく、ちょっとの不満顔。
新入生が入ってきて忙しい忙しいと走り回っていたのは知っている。頻繁に後輩が教室に来て連れ出され戻ってきてはボクにひっついてた。
放課後もそういえば…一緒じゃなかった?
途中まで帰ってても、後輩が追っかけて連れ戻され…てたなぁ。
「そう言えば…うーん?そうだったかも。」
ここしばらくの下校風景を思い出し、ボクはようやく気づく。
うん、来てないな。
どうりで食材の減りが遅いと思った!
日中べったりだから何だかずっと一緒にいる錯覚を起こしていた。
違った違った。
「ね。だから今日はよろしくお願いします。」
今朝用意してきた今晩のメニューを頭の中で並べ、まぁいっかなと安易に頷いたことをこの後、ボクは後悔することに。
「カナちゃん、ご飯足りてる?今日の炊き込みご飯美味しいでしょ。たくさんおかわりしてちょうだいね。」
カナのことが大好きなおばぁちゃんは、さっきからずっとにこにこだ。
「ありがとうございます!もう1杯おかわりしちゃおうかなぁ。アオ、いい?3杯目だけどいい?」
いい?って聞いてきながら、お茶碗が差し出される。良くご飯を食べにくるカナ用に、おばぁちゃんと選んだお茶碗だ。
白磁に藍色の模様の砥部焼。厚みのあるそれは、カナの大きな手に良く馴染んでる。
「どーぞ。まだあるからお好きなだけ。」
差し出された米粒1つ残ってないお茶碗に、ついにまっとしてしまう。
(美味しいんだ。)
素直に嬉しくて、ご飯はおかわり毎に山が増すのはいた仕方ない。
「ほんとこのご飯美味しい!鶏肉がいいのかなぁ。」
おばぁちゃんのことが大好きなカナもずっとにこにこだ。
カナのおばぁちゃんは、2人とも御存命で。
1人は遠方に。もう1人は近いけど、まだ現役で仕事をしているらしく。いわゆるおばぁちゃん、なイメージでは全くないらしい。
うちのおばぁちゃんはおとっとりした、小柄で。背中こそ丸まっては無いけど、あったかい部屋でお茶を飲んでいそうな可愛らしいおばぁちゃんだ。一緒にいるとほっこりする。
ボクの家に初めて遊びにきた時から、カナはそんなおばぁちゃんにすっかり懐いてしまった。
「あら、わかる?お友達から地鷄をいただいたのよ。この照り焼きもおんなじお肉。柔らかくてとっても美味しい。」
おばぁちゃんは、あらかじめ小さく切って出した照り焼きを口に入れる。お皿には、残りあと2口分のお肉だけ。
(良かった、今日は完食してもらえそうだ。)
最近ちょっと食が落ちてきたのが心配だったけど、今日のおばぁちゃんは良く食べる。
(カナがいるからかな。)
チラッと横目でカナを見れば、にこにこしながら炊き込みご飯を食べている。すごく美味しそうに。すごく幸せそうに。
ご飯の合間に、蕪のお味噌汁を口にして、またにっこにこだ。
(この笑顔でご飯食べてるの見たら、こっちも食欲湧いてくる。またご飯食べにきてもらおう。)
ボクもつい、口元緩む。
食後のお茶でも、と。
ボクはおばぁちゃんと自分にほうじ茶。カナには牛乳を温め、少しだけ砂糖を加えたほうじ茶ミルクを用意することに。これはカナのお気に入りだ。カップを用意し台所で牛乳を温めていると、2人の会話が聞こえてきた。
「最近カナちゃんは忙しかったのかしら?」
「そうなんです。部活がわたわたしてて、アオと一緒に帰れたのも久しぶりなんです。」
後輩が、とはカナは言わない。
ボクからしてみれば、いつまでも3年に頼り切りの2年が問題じゃ無いの?って思うけど、カナは決して後輩のせいにしない。
ボクが体育祭回避のために選んだ今の高校を、カナは今の部活に入部したくて選んだらしい。
だからカナはずっと、部活を大事にしてきた。
去年は部長をきっちり務め、試合でも成果を残して。今年は前線を退きつつも楽しみたいんだって笑ってた。
『アオー!ごめんね。また明日ね。』
後輩に引きづられながら、カナはボクに手を振って。
2年主導なのに、ってぼやきながらも絶対に放ってはおかない。
そんなところとか、カナのすごいところだと思ってる。顔だとか長身だとか、そんな見た目だけじゃ無い、カナの良いところ。
ボクはなんでだかちょっと心があったかくなりながら、温まった鍋の牛乳に直接ほうじ茶の茶葉をいれた。
「まぁ、そうだったの。カナちゃんお疲れ様。学業も大変でしょうに。」
おばぁちゃんの労う、優しい声。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。もうすぐ体育祭ですし!」
カナが元気に返事をする。
体育祭
そのワードに、ボクの眉がきゅっと寄る。
「あら、そうだったわね。もうすぐ、ね。」
おばぁちゃんの声に変化はない。
穏やかなトーンでカナに返す。
ボクは火を止め、カップの上に茶漉しを乗せそこに鍋の中身を落としながら、耳は2人の会話を聞き漏らさないよう、傾ける、と。
「それで、今年から仮装徒競走をすることになったんですけど。」
カナの楽しそうな声。
ボクはハッと、2人に視線を向ける。
「満場一致で、参加はアオに決まったんです。」
「カナ!!」
咄嗟に叫んだ。
「まぁ。仮装?アオちゃんが?」
でももうおばぁちゃんはその内容に興味を示してしまった。
ボクはガチャガチャ音を立てながら慌てて残りの過程をこなし、お盆にそれらを乗せて2人のところへと急ぎ戻る。
「アオちゃん仮装するんですってね。どんなのするの?」
にこにこ。
おばぁちゃんからの視線に内心うっ…ってなりながら、ボクはお茶を並べる。
「そんなたいそうなもんじゃないよ。耳つけるとかそんくらい。」
「あれ?なんかテーマがどーとか言ってなかった?」
「言ってない!それよりほら、お茶!カナの好きなほうじ茶ミルク入れたから!」
「わぁ、ありがとう。いい香り。」
「おばぁちゃんも、ほうじ茶。」
「ありがとう、アオちゃん。」
湯気の立つお茶に2人は手を伸ばしてくれる。
(このまま体育祭話から離れてくれないかなぁ)
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