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だいぶ昔の話

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突然、カナが止まった。
「うぇっ?」
予想だにしなかったボクは思い切り尻尾をふんずけてしまう。
わぁ思ったより硬質!
踏んじゃった足からすぐ様力抜いたけど、その分バランス崩して蹌踉めいた。

「わゎ!」
「アオ君?!」
すぐ後ろを歩いてた執事(仮想)中のシマ君が、咄嗟にボクの身体を後ろから支えてくれて転倒だけは免れた。
けど。

「あ、ありがー「かっこいい?!」」

シマ君へのお礼の言葉に言葉を被せ。ほっとしたボクの手を、ぐわっと勢いよく振り返ったカナが引っ張った。
「うえぇ?」
力一杯引っ張るから。今度こそボクは前につんのめり、カナの豪華絢爛な衣装の胸元に顔から突っ込む。ぶへって、間抜けな声がでちゃったボクなんてお構いなしに、カナのもう一本の腕がボクの背中に回ってぎゅっと固定してくる。
「うぇえっ」
その思い切りのよさ!ボクの内臓でそうだよ!!
「かっこいい?ほんと?オレ、かっこいい?!」
そのままぎゅーぎゅー締めてくる。
(待って苦しい、い、息止まる…!)
「カナ!お前急に止まんな!!」
「なにしてんの?!」
後ろでアキが叫んでる。ミナミも。
でもやっぱりカナはお構いなしだ。
ボクの腕を掴んでた片手も背中に回され、両腕で思い切りボクを羽交締め!
「ね?アオ、ねぇ!」
痛みで頭、くらっとするぅう~。

「カナ!お前何やってんの?!」
アキが駆け寄ってきて、ぼこっとカナの肩を叩いた。
「ア、アオ君の息、息止まっちゃうよ!!」
ミナミも駆け寄りざま焦って叫んでくれてやっと。
「アオ!」
カナの腕が緩んだ。
くほっと、肺に残ってた息をだしてからボクは盛大に咳き込んだ。
「アオ?!ご、ごめんオレっ!大丈夫?大丈夫!?」
カナがおろおろ叫んでるけどちょっと待って今は無理。
「お前身体のデカさに見合って力つぇーんだから気をつけろ!」
アキのお叱り。
もっと言ってやって!バカカナめ!!



「ごめんごめん、ごめんなさいアオ。」
アキとミナミに両側固められたカナは前を向いたままさっきから謝ってばかりだ。ぺこぺこ頭が下がってる。
「もういいから、とにかく歩いて。」
アキの作り上げたタイムスケジュールは、多少のゆとりを持たせたとはいえ、猶予がたくさんあるわけじゃない。
とにかく早く体育館へ行け!と、アキにどやされパレードは再開された。

謝り続けるカナの声は、廊下の両側や教室の窓から見物してる3年生に聞こえてない、と思いたい。
「わかったから!もう謝んないで!」
ボクは小声で、とにかく謝罪を止めようと試みる。
ただでさえパレード中だ。みんな注目してくるのに、これ以上余分な視線はつらい!
側から見れば、お貴族令息様に頭下げさせてる性悪メイドだよ?
「うぅ…アオ本当ごめんなさい」
振り返ろうとして都度。隣のアキが睨みつけて阻止されてる。今も。


(垂れてる耳が見えるなぁ。尻尾も。今日はもっとずっと強い種族設定なのに)
しょんぼり。哀愁すら漂う背中。カナの頭から生えてるのは立派な角だ。さっき踏んじゃったからかちょこっとへこんでそうな尻尾だって強靭な鱗の、なんだったかな?一撃で敵?を吹っ飛ばす?だっかなぁ。なんでだかシマ君が自慢げに竜人はこうだ!って説明してくれました。

『竜人は強くて寿命が人族より長くて、卵で繁殖してね』
卵??
シマ君の話はいちいち面白く新鮮で、ボクはびっくりしながら聞いてた。
『それでね、竜人には番がいてね』
『?つがい?』
『そう、竜人の唯一無二。この人と決めたら愛情深い竜人が生涯愛を注ぐ相手ででね、その人になにかあったら世界破壊したりするんだよ』
『こぇーな竜人。』
一緒に聞いてたアキは苦笑い。
『それだけ愛深いんだよ。』
『破壊したくなるくらい1人に絞るのがわりーだろ。何人かに分散しろよ。』
『アキ君。分散は良くない。君は少し愛をまとめた方がいい。多岐に渡りすぎだと思うよ。』
『うぇー被弾!!俺の愛の話はいいんだよ』
今度は渋い顔。


ボクは2人の会話に笑いながら、唯一無二かぁって。ちょっとだけ、その言葉が心と頭に残ったんだ。



「アオ~ごめんね、ごめんね」
更に、カナが謝る。足は止めず、ゆっくり歩きながら、振り向こうとしてできない頭が不自然にゆらゆら。
角もゆらゆら。
硬そうなのに、結構揺れるんだねぇ、なんて。本当はそんな硬くないのかな。
「ほんと、もういいからーー」
刺さっても痛くなさそうだねぇ、なんてこと、思って。そのゆらゆらをなんとなく目で追いながらふと、右側を見て。


(あれ?なんであんな格好してるんだろ)


教室の窓枠に片足かけて今まさに身を乗り出そうとしてる、カナみたいに豪華な服着た人。顔に模様の入った仮面つけてて。誰なのかも表情もわからない。
(今はうちのクラスのパレードなのに、どうしたんだろう。他のクラスか学年か…さぼりとか?)
なのになんでか目があって。


飛んできた。

「え…?」

飛んできた?!


窓枠蹴って、一瞬でボクめがけて飛びかかってきたと思ったらボクのこと。なんとボクのこと、掻っ攫ったよ!!!


「「えぇえぇぇー!!?」」


叫んだのはボクだけじゃない。すぐ後ろにいたクラスメートも、多分見ていた3年生たちも叫んだ。その叫びの雨にもその人からは躊躇する気配はない。
仮面の人は飛びかかってきた勢いのままボクの手を掴み、そのまま容赦無い力で引っ張る。
(は?え!?な、なに?)
とっさのことすぎてボクの身体は固まったまま、されるがまま。頭の中は疑問符だらけ!
さして抵抗することもできないうちに、丁度左側に現れた階段へと連れ出されてしまった。それでもまだ動けないボクを、ボクを、担いだ。
担いだよ!!ひょいっと肩に!!!
(ひぇぇぇぇえ!!)
そしてなんとそのまま、階段降り始めたまじかー!!!



振動恐怖意味のわからなさ。
わかってるのは一つだけ。
落ちたら死ぬ。
ボク、死ぬ。


「そのまま、大人しくしててね」
仮面の人が初めて開いた口。
するよ、大人しく!だってまだ死にたくないもの!!身体も強張っちゃって動かないし!!
階段降りてるからがんがんがんがん体が揺れて揺れて、舌噛みそうだから声も出せない。
ボクはぎゅううっと固く目を閉じて、ひたすら耐えるほかない。揺れがおさまって階段終わったのがわかっても、ボクはそのまま、担がれたまま。
ハロウィンイベントってこんなハードだった?!
(もー!意味わかんない!とにかくはやく終わって!!)



「アオ!」



絶賛強硬状態真っ最中なボクの耳に、鋭いカナの声が聞こえた。
(カナ!!)
ボクはなけなしの力を総動員し、無理やり顔を上げた。
階段のちょっとだけ上に、カナがいる。
慌ててたのが丸わかり、せっかくあげてた髪が乱れてあちこち跳ねてる。追っかけてきてくれた!
もう、なんだかそれだけで涙出た。
「カナぁ」


「王子様だねぇ」
仮面の人の二言目。
彼は担いだ時と同様に、ひょいっとボクを地面に降ろすと自分の身体の後ろに僕を追いやる。まるでボクをカナから守るみたいにーーいや逆だから。悪はそっち!!
追いやりがてら後ろ手に掴まれた右手首。
「放してっ」
振り払おうと掴まれた右手を振るが取れない。
左手使って取ろうとしても剥がれない!
「何この馬鹿力!手が痛いだろっ!!」
「アオ!大丈夫?いい加減アオを放せ!」
カナの声が近づいてくる。走ってくる足音も。

(やばい…ほんと、涙出る)
仮面の人に邪魔されて、カナの姿は視界に入らない。でも足音だけ、気配だけで、じわじわじわぁと目尻に涙が滲み出てきて。
とうとうカナがボクたちの前に立った。


「アオを返せ」
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