上 下
3 / 26
だいぶ昔の話

2

しおりを挟む
「好きだなぁ」

ふわふわの毛並みをそうっとそうっと撫でる。
あったかい。ボクの膝に乗ってから、今日はずっと撫でさせてくれてる。
可愛くて、あったかくて。すんすん鳴らす鼻息にも、たまらなく癒される。可愛い。
学校の校舎の裏、たまに来るねこちゃん。多分学校の側のお家の子で、首輪もちゃんとしてる。
白とグレーの混ざった毛並み、深い藍色の目と赤い首輪。
もう全身が、可愛すぎる。
「あーもー大好き」
撫で撫で撫で撫で。
ボクはひたすら撫でながら、にへっと相好を崩した。
「可愛いなぁ」


「オレのこと?」
もぞりと動く気配と共に、ちょっぴり眠そうなカナの声が隣から聞こえてくる。
「ちがいまーす」
ボクはチラリとも見ないまますかさず否定。
「えー、だってオレの髪の毛もふわっふわだよー」
もぞもぞ、もぞもぞ。
ボクの肩に乗っかってたふわふわ頭が動く。
「まぁねーふわふわだよねー。」
それは否定しない。
カナの髪の毛は色素の薄い茶色で癖っ毛で。いつもふわふわしてる。そのうえ触ると柔らかくて撫で心地は悪くない。むしろ最高。2人で部屋でゴロゴロしてる時、高確率でカナの頭撫でてるのは気持ちがいいからだ。
おじいちゃんだか、ひいおじいちゃんだったか。どこかに外国の血が混ざってるらしいって誰かが言ってた。多分。あれ?もしかしたらカナ本人??だれだったかなぁ?忘れちゃったけどみんながいつの間にか知ってたカナの話の一つ。
だからか。目の色も黒じゃないし、体型もなんとなく日本人離れ。肩幅のラインだとか腰の位置だとか、目鼻立ちのしっかりした顔立ちだとか。容貌も雰囲気も、なんとなく違う。
違うパーツが集まって、カナが出来上がる。

「アオの髪はつやっつや」
不意に横から撫でられた。
寝起きでまだ半分ボケてるみたい。撫でる力が容赦ない。
「いだっ!首!クビがくがくしてる!」
撫でるたびに頭までがくがくゆれる!その揺れっぷりと言ったら!!
ボクはカナの手を避けるように身体を捻った。

にゃーん

「あっ!」

急な動きに驚いたのか、膝からねこちゃんが飛び降りてそのまま走っていってしまった。
「あー行っちゃった…」
重くてあったかかった膝が急に寒くて軽い。
(今日はたくさん撫でさせてくれたのになぁ)
なんとなく寂しくなってしまって。
ねこちゃんが残していった抜けた毛をつまんで捨てて。そのまま、空いてしまった膝を触っていたら、横からにょきりと手が増えた。
「アオにはオレがいるでしょう?」
増えたのはもちろん、さっきまで人の肩に頭乗せて寝こけてたカナの手だ。ついでにボクの頭を揺らしまくった手。その手が今度は、ボクの膝頭を包むように掴むと、そのまま上半身を倒してきた。
ぽすっと、ふわふわ頭が膝に乗っかる。
「カナー?」
なんだってボクの膝に頭のっけてんの??
ちょっとびっくりして。
ボクの手、止まっちゃった。
たまにするけど、膝枕。ふざけて同時にのせあいっことかして、首痛くしたり。罰ゲームでひざまくら耐久レースとかして、そのままうっかり寝ちゃって起きて足の痺れに悶絶したり、してるけど。
こんなふうに、急にされたことなかった。びっくり。

「オレの頭だってふわふわでしょ?」
カナはそう言って。膝頭を包んでた手でボクの彷徨ってた手を掴み。
「ほらっ、撫でて」
自分の頭にぽすっと乗せた。
そして掴んだボクの手ごと、なでなでし始めた。
「??、??カナ??」
「…なでて」
「?」
「ほら」
「?うん?うん」

意味はわからなかったけど、まぁいいか。
ボクはカナの手の動きに合わせて、その柔らかな髪の毛を撫でた。ねこちゃんを撫でていたみたいに。そっと。そうっと。

「こう?こんな感じ?」
「うん」


顔はボクのお腹と反対方向だから、表情はわかんない。でも多分だけど、機嫌良さそ…なのは、伝わってきた。あと眠そうなのも。
くわっと、欠伸。

「…きもちいーねぇー」
欠伸しながら、カナはうっとりと、言って。
ゴロゴロ喉でも鳴らしそうだ、だなんて思って気付く。
(もしかして、ねこちゃんと張り合ってる?)
ポンっと浮かんだその思考に、即座にボクは吹き出した。まさか。まさかカナが?ねこちゃんと張り合う??
ない。ない。

「だってカナ、キミはどうみてもワンコだよ」

(きっと眠くて、それで撫でて欲しかったんだね。)


ボクはくふっと笑いながら、そっとそうっと、カナの柔らかな髪を撫でていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

始まりの、バレンタイン

茉莉花 香乃
BL
幼馴染の智子に、バレンタインのチョコを渡す時一緒に来てと頼まれた。その相手は俺の好きな人だった。目の前で自分の好きな相手に告白するなんて…… 他サイトにも公開しています

どうも俺の新生活が始まるらしい

氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。 翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。 え? 誰この美中年!? 金持ち美中年×社会人青年 某サイトのコンテスト用に書いた話です 文字数縛りがあったので、エロはないです ごめんなさい

無縁坂

かかし
BL
夜中に唐突に目が覚めて唐突に思いついたので下書き無しでババっと書いた、とある大好きな曲ネタ 浮気美形‪α‬×平凡健気Ω ……の、息子視点 この設定ならオメガバースじゃなくてイイじゃんって思ったんですが、思いついたなら仕方ない 寝惚けてたってことで、一つ ※10/15 完全な蛇足追加

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された

うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。 ※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。 ※pixivにも投稿しています

処理中です...