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回顧しました(宮君が)*
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『…バカですか?』
「2度目ぇっ…!否定、はしないけどもぉっ…」
こちらを全く見ようとはせず、葉海は明後日の方向に顔を肩から向け、これ以上なく不服そうに、同意した。
葉海が不用ブツを廃棄してからはや幾月。
葉海は今、自分といる。
鍵を取り上げたからか、結果的に追い出したからか。葉海は至極当たり前だとばかりに『帰る』と言った。
何度も何度も身体を繋いだ後、半ば気絶するよう眠りに落ちた葉海。力の抜けた身体を清め、体液で汚れたシーツを取り替え、清潔なベッドにゆっくり寝かせて。その隣に身を寄せて手を伸ばす。
背後から抱きしめるよう葉海の、男性にしては小柄で華奢な身体を自分の手で足で絡めとれば、すっぽりと抱えこめてしまって。
改めてその小ささを知った。
『…葉海。』
汗ばんだ肌はひどくしっとりと、つい先程まで貫き揺さぶり続けた身体はいまだ火照って暖かい。絡めた手足に力を入れて、強く抱きしめる。
途端に強く馨る、匂い。
汗で湿った髪に鼻をつっこみ息を深く吸い込んで、それを嗅ぐ。
汗と微かな精液とそれから。
ほんの僅かな葉海の、匂い。
『葉海…。』
どんなに近くにいられても、これほどまでに傍にはいられなかったから。
鼻を擦り付け身体を隙間なく抱きしめて。
葉海の鼓動を触れて聞く。
(もう、ずっとこうしていたい…その為にこれからどうしていくか、葉海と話して…目が覚めたら、葉海、と…。)
その肌の暖かさに、とくとく刻む鼓動を聞くうちにとろとろと思考は蕩けていき…いつしか自分も微睡んだ。
…そのあと、目覚めて。
これからのことを話す前にあの住居に帰る、と笑って葉海が言ったから。赤い目元そのままに、腰が痛いと摩りながら、立てないかも!と少々不服そうに唇尖らせながらも、帰ると。
帰る?
その言葉の意味が瞬時には飲み込めなくて。
ただその腕を掴んでベッドに引きずり戻した。
葉海の家のベッドに寝かせたくない。葉海の家の風呂場をもう二度と使わせたくない。アレと共に食事をした葉海の家のリビングに座らせたくない。
アレが好き放題しでかした住居に葉海を置いておきたくない。
また来たらどうする。電話で言っていた『家に入れねぇよ』あの言葉。まだ、入れると。今もこの瞬間にも愚かな思考でいたら。厚顔無恥に、まだなんとかなると思い込みまた家に押しかけたらどうする。
聡くない、チョロい葉海のことだ。
ドアを開けてしまうかもしれない。
鍵は返してもらったから。
それを安心材料に部屋に入れてしまうかもしれない。そのあとで。
アレが葉海に触るかもしれない。
瞬間的に体温が上がる、怒りで。
葉海の批難めいた声は捻り込んだ舌で絡めとり、蹴り飛ばさんと上がる脚は腕で跳ね上がる身体は身体で押さえた。背中に回った葉海の細い腕が引き剥がそうと服を掴もうが構わない。小さな葉海の口内を無茶苦茶に舌で舐めまわし歯も歯茎も喉の奥もぐちゃぐちゃに突いて悲鳴も唾液も啜り上げて。
想像しただけで。
アレが葉海に手を伸ばし押し倒し触るかもしれない。そう考えただけで、全身が震える。目の奥が燃えるように熱くなる。
『葉海。』
はくはく、口を開けっぴろげひたすら呼吸を繰り返す唾液まみれの口元が可愛くて。
涙と鼻水で濡れた小さな顔が可愛らしくて。
とぷとぷと白濁を吐き出す蕾がただただ可愛らしくて。
口角が上がる。
あぁ、可愛い。
可愛くて可愛くて、舐めるだけではもはや物足りない。濡れた頬を齧る。ぴくんと震える肩が、可愛くて舌で舐め上げ齧る。ふいっと反らされ露わになる頸が可愛らしくて、思い切り齧り付く。
あぁ。
あぁ、堪らない、可愛くて可愛くて堪らない。
わずかな葉海の匂いに精液の匂いが今度は強く強く匂う。それらに混ざるように匂い立つ、葉海の唾液の匂い。その匂いをもっともっと嗅ぎたい。齧り付いたまま鼻を顎先に擦り付け、悲鳴をあげる葉海の口に指を突き入れ口内をかき混ぜ、溢れ出す唾液を嗅げば欲はあっという間に膨れ上がる。
白濁を戻すようにまた、入り込んだ先。熱がうねりが、堪らなく可愛らしくて。
その可愛らしさがいっそ暴力的で。
歓喜で、震える。
(これはもう、自分のものだから。)
もう、アレには触れさせない。
足腰どころか起き上がれない葉海から鍵を受け取り、葉海の当分の荷物を見繕いに住居に向かった。アレがいるかもしれない。その可能性を頭の隅に置きながら赴いたその先には、誰の姿もなかった。意気地の無いことだと、思わず鼻で笑った。
危惧は杞憂に終わり、煩わしい事態にならなかったことに気分は上がる。しばらく大学に行かせるつもりはなかったのでテキスト類はそのままに、鼻歌まじりに衣服を持参した鞄に詰め込んで。
数日かけて愛でて愛でて注ぎ込んで。
そのまま攫うように自宅に住まわせたのは本能の為せる業か。当然の権利か。
流れるように進む引越し作業と手続きに目を白黒させる様すら可愛らしくて。『…宮君、こんなに活発に動けたんだ…。』そんな台詞にも笑みを返して。
葉海は今、自分の傍にいる。
ここ最近では、時折アレを大学校内で見かけることはあっても、向こうから近寄ってくることはなくなった。
廃棄すぐの頃は、言い訳めいたものを伝えたいのか送った荷物に関して質問事項でもあったのか、何かものを言いたげでこちらに近づいてこようとしたことはあったけれど。葉海が気付く前にさりげなく移動を促したり、視線を睨め付けるように返すうちにそれも無くなったしこちらからも近づくことはなかった。
一度だけ。
葉海がアレを呼んだ時があって。
そのあまりにも自然な呼び方と声に、驚いたのはアレだけじゃない。
自分、も。一瞬息をのんだ。
『おはよー。』
『え、なんで…』
え?朝だから。
きょとりと。朝だからおはようの挨拶を。それ以上でも以下でもない。ただ、それだけのことだと。
その日以降、アレは近づかなくなった。
だと、いうのに。
「何故仲良く珈琲?」
聞けば聞くほど、この人馬鹿過ぎじゃないかと。
眉間に皺が寄っていくのが自分でもわかる。声音が低くなるのも。
「…成り行き?で、でもわりと不可抗力でして!」
とにかく帰ろうと歩き出したわけだが、葉海の手首を掴んでしまったのは仕方がない。
自分が隣にいる状況で葉海がどこかに行くはずがないとわかっていても、どうにもこの人の行動は信用しきれない…仕方がない。
初対面の男に連れられて呑気に珈琲?
バカだ。
「いやーなんかね、雪に見せたあの証拠動画見たかったらしくてさ。でもボク、気持ち悪いから即消しちゃったじゃない?」
「はい。」
「そしたら連絡先交換になったねぇ?な流れです。」
馬鹿だ。
先ほどの電話で予想はしていた、けれど。
「名乗りもしない相手と連絡先の交換とか…失礼ですが、正気ですか?」
ぐふっと、奇妙な音が葉海から聞こえる。
少し前屈みで胸を押さえるあたり、変な風に呼吸したのだろう、馬鹿だ。
馬鹿だった。
決定的だったあの時の相手は、アレが関係した何人かのうちの一人だろうと、詳細を確認せずに済ませてしまった自分が。
無意識に噛み締めた奥歯が嫌な音を立てる。
(葉海との関係の変化に浮かれすぎか?)
あぁほんとに。自分こそが馬鹿だ。
「後でブロックの上消してくださいね。」
「は、はーい…」
掴まれていない方の手を上げ、小さく返す姿が可愛いので、少しは冷静に。落ち着いた、けれど。
消す前に連絡先をこちらのスマホに入れること。
マロを、確認すること。
柔らかな、揺れる葉海の頭を見下ろしながら、これからのすべきことを湧き上がる怒りと共に策定した。
「2度目ぇっ…!否定、はしないけどもぉっ…」
こちらを全く見ようとはせず、葉海は明後日の方向に顔を肩から向け、これ以上なく不服そうに、同意した。
葉海が不用ブツを廃棄してからはや幾月。
葉海は今、自分といる。
鍵を取り上げたからか、結果的に追い出したからか。葉海は至極当たり前だとばかりに『帰る』と言った。
何度も何度も身体を繋いだ後、半ば気絶するよう眠りに落ちた葉海。力の抜けた身体を清め、体液で汚れたシーツを取り替え、清潔なベッドにゆっくり寝かせて。その隣に身を寄せて手を伸ばす。
背後から抱きしめるよう葉海の、男性にしては小柄で華奢な身体を自分の手で足で絡めとれば、すっぽりと抱えこめてしまって。
改めてその小ささを知った。
『…葉海。』
汗ばんだ肌はひどくしっとりと、つい先程まで貫き揺さぶり続けた身体はいまだ火照って暖かい。絡めた手足に力を入れて、強く抱きしめる。
途端に強く馨る、匂い。
汗で湿った髪に鼻をつっこみ息を深く吸い込んで、それを嗅ぐ。
汗と微かな精液とそれから。
ほんの僅かな葉海の、匂い。
『葉海…。』
どんなに近くにいられても、これほどまでに傍にはいられなかったから。
鼻を擦り付け身体を隙間なく抱きしめて。
葉海の鼓動を触れて聞く。
(もう、ずっとこうしていたい…その為にこれからどうしていくか、葉海と話して…目が覚めたら、葉海、と…。)
その肌の暖かさに、とくとく刻む鼓動を聞くうちにとろとろと思考は蕩けていき…いつしか自分も微睡んだ。
…そのあと、目覚めて。
これからのことを話す前にあの住居に帰る、と笑って葉海が言ったから。赤い目元そのままに、腰が痛いと摩りながら、立てないかも!と少々不服そうに唇尖らせながらも、帰ると。
帰る?
その言葉の意味が瞬時には飲み込めなくて。
ただその腕を掴んでベッドに引きずり戻した。
葉海の家のベッドに寝かせたくない。葉海の家の風呂場をもう二度と使わせたくない。アレと共に食事をした葉海の家のリビングに座らせたくない。
アレが好き放題しでかした住居に葉海を置いておきたくない。
また来たらどうする。電話で言っていた『家に入れねぇよ』あの言葉。まだ、入れると。今もこの瞬間にも愚かな思考でいたら。厚顔無恥に、まだなんとかなると思い込みまた家に押しかけたらどうする。
聡くない、チョロい葉海のことだ。
ドアを開けてしまうかもしれない。
鍵は返してもらったから。
それを安心材料に部屋に入れてしまうかもしれない。そのあとで。
アレが葉海に触るかもしれない。
瞬間的に体温が上がる、怒りで。
葉海の批難めいた声は捻り込んだ舌で絡めとり、蹴り飛ばさんと上がる脚は腕で跳ね上がる身体は身体で押さえた。背中に回った葉海の細い腕が引き剥がそうと服を掴もうが構わない。小さな葉海の口内を無茶苦茶に舌で舐めまわし歯も歯茎も喉の奥もぐちゃぐちゃに突いて悲鳴も唾液も啜り上げて。
想像しただけで。
アレが葉海に手を伸ばし押し倒し触るかもしれない。そう考えただけで、全身が震える。目の奥が燃えるように熱くなる。
『葉海。』
はくはく、口を開けっぴろげひたすら呼吸を繰り返す唾液まみれの口元が可愛くて。
涙と鼻水で濡れた小さな顔が可愛らしくて。
とぷとぷと白濁を吐き出す蕾がただただ可愛らしくて。
口角が上がる。
あぁ、可愛い。
可愛くて可愛くて、舐めるだけではもはや物足りない。濡れた頬を齧る。ぴくんと震える肩が、可愛くて舌で舐め上げ齧る。ふいっと反らされ露わになる頸が可愛らしくて、思い切り齧り付く。
あぁ。
あぁ、堪らない、可愛くて可愛くて堪らない。
わずかな葉海の匂いに精液の匂いが今度は強く強く匂う。それらに混ざるように匂い立つ、葉海の唾液の匂い。その匂いをもっともっと嗅ぎたい。齧り付いたまま鼻を顎先に擦り付け、悲鳴をあげる葉海の口に指を突き入れ口内をかき混ぜ、溢れ出す唾液を嗅げば欲はあっという間に膨れ上がる。
白濁を戻すようにまた、入り込んだ先。熱がうねりが、堪らなく可愛らしくて。
その可愛らしさがいっそ暴力的で。
歓喜で、震える。
(これはもう、自分のものだから。)
もう、アレには触れさせない。
足腰どころか起き上がれない葉海から鍵を受け取り、葉海の当分の荷物を見繕いに住居に向かった。アレがいるかもしれない。その可能性を頭の隅に置きながら赴いたその先には、誰の姿もなかった。意気地の無いことだと、思わず鼻で笑った。
危惧は杞憂に終わり、煩わしい事態にならなかったことに気分は上がる。しばらく大学に行かせるつもりはなかったのでテキスト類はそのままに、鼻歌まじりに衣服を持参した鞄に詰め込んで。
数日かけて愛でて愛でて注ぎ込んで。
そのまま攫うように自宅に住まわせたのは本能の為せる業か。当然の権利か。
流れるように進む引越し作業と手続きに目を白黒させる様すら可愛らしくて。『…宮君、こんなに活発に動けたんだ…。』そんな台詞にも笑みを返して。
葉海は今、自分の傍にいる。
ここ最近では、時折アレを大学校内で見かけることはあっても、向こうから近寄ってくることはなくなった。
廃棄すぐの頃は、言い訳めいたものを伝えたいのか送った荷物に関して質問事項でもあったのか、何かものを言いたげでこちらに近づいてこようとしたことはあったけれど。葉海が気付く前にさりげなく移動を促したり、視線を睨め付けるように返すうちにそれも無くなったしこちらからも近づくことはなかった。
一度だけ。
葉海がアレを呼んだ時があって。
そのあまりにも自然な呼び方と声に、驚いたのはアレだけじゃない。
自分、も。一瞬息をのんだ。
『おはよー。』
『え、なんで…』
え?朝だから。
きょとりと。朝だからおはようの挨拶を。それ以上でも以下でもない。ただ、それだけのことだと。
その日以降、アレは近づかなくなった。
だと、いうのに。
「何故仲良く珈琲?」
聞けば聞くほど、この人馬鹿過ぎじゃないかと。
眉間に皺が寄っていくのが自分でもわかる。声音が低くなるのも。
「…成り行き?で、でもわりと不可抗力でして!」
とにかく帰ろうと歩き出したわけだが、葉海の手首を掴んでしまったのは仕方がない。
自分が隣にいる状況で葉海がどこかに行くはずがないとわかっていても、どうにもこの人の行動は信用しきれない…仕方がない。
初対面の男に連れられて呑気に珈琲?
バカだ。
「いやーなんかね、雪に見せたあの証拠動画見たかったらしくてさ。でもボク、気持ち悪いから即消しちゃったじゃない?」
「はい。」
「そしたら連絡先交換になったねぇ?な流れです。」
馬鹿だ。
先ほどの電話で予想はしていた、けれど。
「名乗りもしない相手と連絡先の交換とか…失礼ですが、正気ですか?」
ぐふっと、奇妙な音が葉海から聞こえる。
少し前屈みで胸を押さえるあたり、変な風に呼吸したのだろう、馬鹿だ。
馬鹿だった。
決定的だったあの時の相手は、アレが関係した何人かのうちの一人だろうと、詳細を確認せずに済ませてしまった自分が。
無意識に噛み締めた奥歯が嫌な音を立てる。
(葉海との関係の変化に浮かれすぎか?)
あぁほんとに。自分こそが馬鹿だ。
「後でブロックの上消してくださいね。」
「は、はーい…」
掴まれていない方の手を上げ、小さく返す姿が可愛いので、少しは冷静に。落ち着いた、けれど。
消す前に連絡先をこちらのスマホに入れること。
マロを、確認すること。
柔らかな、揺れる葉海の頭を見下ろしながら、これからのすべきことを湧き上がる怒りと共に策定した。
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