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思案しました
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「…罠かな。」
箱の中身に視線はそのまま、ボクは小さく呟く。
緩衝材に邪魔されてはっきり見えないけど、量…多くない?段ボール自体決して大きくはないけど、商品名の薄さの文字。何個も連なってませんか宮君。
「何個あるんだろ。」
視線は外さないまま上からそろりと指を伸ばしかけ、止める。
ーなんでこんな、あからさまに箱置いてあるの
これ見てダメなやつ…な雰囲気をちらつかせといてその実。
ボクに見せたい、感。滲み出てないかこれ。
だって、こんなあからさまに廊下に置いてあるんだよ、ご丁寧に封まで開けて!
「漂ってくる…見ろ~見ろ~って空気が漂ってくる…!!それでまんまと見て箱の中身出してその量の多さに慄きこの後大学で宮君直視できないボクの姿まで浮かんでくる…!!」
これは!多分!見たら、ダメ!!
無理やり視線を箱から外し、ボクは玄関へと今度こそ向かった。
罠。
ボクはぎりぎり間に合った授業の最中、箱について思案する。
(宮君のことだ。なにか、ある。)
チャイムとほぼ同時に滑り込んだおかげか周囲はほぼ他人の中。真ん中よりやや後ろらへん、二つ空いてた席の一つに迷わず着席、と同時に右前の扉が開きのそのそと教授が入ってきた。間に合った。
ボクはほぅっと息を吐きながら肩にかけてたバッグの中に手を突っ込んで、ノートとペンを取り出すと顔だけ、前方に向けた。
必須だけあって同じ学部のほとんどが受講してる分、講堂は広いとこ使ってるし受けてる生徒も多い。その上授業内容はほぼ教授が話して終わり。
格好の思案タイムです、ね。
通販、ゴム。見えた中身。
それらのキーワード。ボクにはまぁ痛い思い出があるわけで。
雪が通販で買ったゴム、とローション。それが届いた時、間違えて開けたボク。減るゴムとローション、減ってく在庫。浮気してるって初めて想像した気持ち。それらを思いだし胸が痛くて涙がでる。
…なーんてこと、
「ないわなー。」
ないない。
手を握り、なにやら熱弁している教授と裏腹に、ボクは熱の入らぬ音色で「ないなー」と小さく呟く。
確かにね。当時は泣きました。
でもそれがあったから、段々と心積りできたわけだし、最後はありがとう!ですっきり爽やかな気持ちだったし。結果的には良いきっかけだったよね。
心は確かに痛かったけどー。
(そのあたりのボクの心の機微とか、宮君わかってるんだよねえ。)
宮君。
思っていたよりもダントツに可愛らしくない、どころか。実はものすっごく怖かった、ボクの年下彼氏。
脳裏に浮かぶ宮君の姿。
在庫置き場をボクから聞き出しとすぐさま、迷わずそのクリアケースを引っ張り出しその中身を鷲掴んでそのまま片手でぐしゃり。
『これは廃棄一択ですね。』
微笑ってたなぁ。
口角、上がってた。
ーー瞳孔、開いてたけど。
冷たい声音やそのあとのあれこれまで蘇ってきて、思わず肩を震わせた。
(何だかわかんないけど、とにかくあれはこっちから触れたらダメなやつ。)
罠です。
カタン。
「隣、失礼しまーす。」
小さな物音とともに小さな声がする。
ボクの右隣、もう一つ空いてた席からだ。
つられるように声のした方を見れば、見たことない顔がこっちを見てにこって笑ってる。
「あ、はい。」
どーぞ、ってこちらも小さい声で返す。
小柄で、髪色がグレー。
可愛らしい顔つきで、耳にはピアスばちばち。
な、男の子…多分。
見たことない顔…なんだけど。
おや、って。
なんでかおやって、思ったんだよね。
座る時にふわっと香った匂いに、おやって。
なんか嗅いだことあるなーって。
頭の中をかするその匂いに、でもすぐにはそれがなんだかわからなくて。そのまま、視線そらせなくって。その子もなんでだかボクの顔を見たまま、にこって。また、にこって笑って。
「葉海先輩。」
「はーい?」
名前を呼ばれて反射で返事をしたものの。
なんでこの子ボクの名前知ってんの?
首を傾げながらその子のおっきな目を見つめてしまう。宮君の目もおっきいなぁって思ってたけど、この子も大きい。すごい。
色素薄くて、明るい。その目が、徐々に細めらながらにまーってなって、なんだか猫ちゃんみたい。可愛い。
可愛いなぁと思っていた頃の宮君より物理的に見れば見るほど可愛いなこの子。
思わず見入っちゃったのは、その大きさの三分の一くらい欲しいな、とか。その大きさがボクの小さな目にのっかれば、視界がもうちょい広がりそうだな、など。そんなへんなことを考えてて。だからその子がずいっとボクの顔の真ん前まで近づいたことにとっさに反応できなかったわけで。
(ん?ちゅーされる?)
鼻と鼻とかぶつかりそうな距離まで近づいたその子から、またふわりと匂いが漂ってきて。
より強くなったそれに、記憶がふっと浮上する。
「せんぱぁい。」
あ。あれ、あれだ。浮気現場に香った匂いーー
「ボクもあの動画みたいなぁ。」
箱の中身に視線はそのまま、ボクは小さく呟く。
緩衝材に邪魔されてはっきり見えないけど、量…多くない?段ボール自体決して大きくはないけど、商品名の薄さの文字。何個も連なってませんか宮君。
「何個あるんだろ。」
視線は外さないまま上からそろりと指を伸ばしかけ、止める。
ーなんでこんな、あからさまに箱置いてあるの
これ見てダメなやつ…な雰囲気をちらつかせといてその実。
ボクに見せたい、感。滲み出てないかこれ。
だって、こんなあからさまに廊下に置いてあるんだよ、ご丁寧に封まで開けて!
「漂ってくる…見ろ~見ろ~って空気が漂ってくる…!!それでまんまと見て箱の中身出してその量の多さに慄きこの後大学で宮君直視できないボクの姿まで浮かんでくる…!!」
これは!多分!見たら、ダメ!!
無理やり視線を箱から外し、ボクは玄関へと今度こそ向かった。
罠。
ボクはぎりぎり間に合った授業の最中、箱について思案する。
(宮君のことだ。なにか、ある。)
チャイムとほぼ同時に滑り込んだおかげか周囲はほぼ他人の中。真ん中よりやや後ろらへん、二つ空いてた席の一つに迷わず着席、と同時に右前の扉が開きのそのそと教授が入ってきた。間に合った。
ボクはほぅっと息を吐きながら肩にかけてたバッグの中に手を突っ込んで、ノートとペンを取り出すと顔だけ、前方に向けた。
必須だけあって同じ学部のほとんどが受講してる分、講堂は広いとこ使ってるし受けてる生徒も多い。その上授業内容はほぼ教授が話して終わり。
格好の思案タイムです、ね。
通販、ゴム。見えた中身。
それらのキーワード。ボクにはまぁ痛い思い出があるわけで。
雪が通販で買ったゴム、とローション。それが届いた時、間違えて開けたボク。減るゴムとローション、減ってく在庫。浮気してるって初めて想像した気持ち。それらを思いだし胸が痛くて涙がでる。
…なーんてこと、
「ないわなー。」
ないない。
手を握り、なにやら熱弁している教授と裏腹に、ボクは熱の入らぬ音色で「ないなー」と小さく呟く。
確かにね。当時は泣きました。
でもそれがあったから、段々と心積りできたわけだし、最後はありがとう!ですっきり爽やかな気持ちだったし。結果的には良いきっかけだったよね。
心は確かに痛かったけどー。
(そのあたりのボクの心の機微とか、宮君わかってるんだよねえ。)
宮君。
思っていたよりもダントツに可愛らしくない、どころか。実はものすっごく怖かった、ボクの年下彼氏。
脳裏に浮かぶ宮君の姿。
在庫置き場をボクから聞き出しとすぐさま、迷わずそのクリアケースを引っ張り出しその中身を鷲掴んでそのまま片手でぐしゃり。
『これは廃棄一択ですね。』
微笑ってたなぁ。
口角、上がってた。
ーー瞳孔、開いてたけど。
冷たい声音やそのあとのあれこれまで蘇ってきて、思わず肩を震わせた。
(何だかわかんないけど、とにかくあれはこっちから触れたらダメなやつ。)
罠です。
カタン。
「隣、失礼しまーす。」
小さな物音とともに小さな声がする。
ボクの右隣、もう一つ空いてた席からだ。
つられるように声のした方を見れば、見たことない顔がこっちを見てにこって笑ってる。
「あ、はい。」
どーぞ、ってこちらも小さい声で返す。
小柄で、髪色がグレー。
可愛らしい顔つきで、耳にはピアスばちばち。
な、男の子…多分。
見たことない顔…なんだけど。
おや、って。
なんでかおやって、思ったんだよね。
座る時にふわっと香った匂いに、おやって。
なんか嗅いだことあるなーって。
頭の中をかするその匂いに、でもすぐにはそれがなんだかわからなくて。そのまま、視線そらせなくって。その子もなんでだかボクの顔を見たまま、にこって。また、にこって笑って。
「葉海先輩。」
「はーい?」
名前を呼ばれて反射で返事をしたものの。
なんでこの子ボクの名前知ってんの?
首を傾げながらその子のおっきな目を見つめてしまう。宮君の目もおっきいなぁって思ってたけど、この子も大きい。すごい。
色素薄くて、明るい。その目が、徐々に細めらながらにまーってなって、なんだか猫ちゃんみたい。可愛い。
可愛いなぁと思っていた頃の宮君より物理的に見れば見るほど可愛いなこの子。
思わず見入っちゃったのは、その大きさの三分の一くらい欲しいな、とか。その大きさがボクの小さな目にのっかれば、視界がもうちょい広がりそうだな、など。そんなへんなことを考えてて。だからその子がずいっとボクの顔の真ん前まで近づいたことにとっさに反応できなかったわけで。
(ん?ちゅーされる?)
鼻と鼻とかぶつかりそうな距離まで近づいたその子から、またふわりと匂いが漂ってきて。
より強くなったそれに、記憶がふっと浮上する。
「せんぱぁい。」
あ。あれ、あれだ。浮気現場に香った匂いーー
「ボクもあの動画みたいなぁ。」
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