それでは明るくさようなら

金糸雀

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ボクの人生最初の恋人と、お別れしてはや幾月。
そう。ずっと友達で親友で仲間で、そっから一気に同棲彼氏から浮気な彼氏。プラスからマイナス幅に思い切り振り切ったよねほんとにねぇえ!!な最終肩書き元カレ、な雪さん。
彼とはね、せいぜいさわりっこ…いや、触るだけじゃなかったか。んんっ。ハグやちゅーはしてたよ?さすがにねぇそれくらいはね。宮君知ってるけどちゃんと、好きだったし。
口とか手とかまぁいろいろと、ね。大きくなるにつれ知ってしまったイロイロな仕方であれやこれやはありましたけども。
だけど、未通。イタしてはない。
付き合ってて同棲してて、一緒のベッドで寝ていたにもかかわらず…まぁ、中学生よりはぎりぎり?清きお付き合いにかすってはいるよね?イタしてないし。宮君に言わせれば初心者じゃないですよね?それ。
な、レベルのお付き合いをしていた雪の浮気現場遭遇。
わかっていたけど衝撃的で。想像していたけどやっぱりちょっとは悲しくて。だけど知ってしまったらそしたらもう元には戻れない。
友達として好きで。恋人としてもやっぱり、好きで。身体全部明け渡せることはとうとう無かったとしても。
見つけちゃったゴムの減り、浮気してるって気づいた時は大泣きして宮君とこに逃げ込んで。その日は家に帰れなくなる程には好きだった。
だから。



それまでのありったけのありがとうの気持ちをめいいっぱい伝えて。
廃棄一択、恋人終了さようなら宣告。



ついでに出てけボクの家から人生からも。
ボクは身軽におひとり様だよお疲れ乾杯!







ーで、終わるはずだったお疲れ様会にて。なんでかボクに新しい彼氏ができました。
なんでだ???














「あれ?」


それはいつもの、大学に行く準備を終えた午前のこと。
視界に入ったのは珍しくも廊下に置きっぱなしの段ボールがひと箱。
他は何も置かれてない廊下だからこそ、それはやけに目立っていた。






宮君は整理整頓が大好きだ。
大好きだ、と表現しちゃうのはちょっと、語弊があるかもだけど、も。
あんだけ鬱陶しそうな伸び放題な前髪のくせして、部屋の中はきちんきちんとしてる。驚くべきことだ。
使ったものはもとあった場所に。
調味料は同じ容器に詰め替えられラベリング。
水垢なんてひとっつもない鏡だとか、白さ際立つお風呂場の天井だとか。
それらに気づいた時、ボクは腕を組み首を捻った。


『男子大学生だよね、宮君。』


頭良くて背も高くて何考えてるかわかりづらいし。時々瞳孔開くし黒オーラ発生させて、おや いま 殺しにかかってる…?な時もたまにありつつもボクの扱い抜群に上手いし。それでもそこらに掃いて捨てるほど存在してる、男子大学生だよね…?ボクんちもまぁそこそこ綺麗にはしてたけどここまでじゃないわー。調味料とかとりあえずみんな仲良く冷蔵庫だし。床なんて使い捨てのペーパーで適度にちょちょっと拭いておしまい。汚れがあればウェッティで拭いたりお風呂掃除は毎日じゃないけどピンクの汚れがつかない程度にはしてた。
おトイレも泡のやつをしゅーして水でじゃー。
汚れてないけど特別ものすごくぴっかぴかに綺麗でもなかった。
そんなボクだから、宮家に拉…連れ込…まぁ、同居してからもいつもどおりのちょちょっと。


だと言うのに。

はや幾月。前に住んでたあのお家をでて、宮君と住むようになってからもそういやずっとずっとものすっごく綺麗なお家。
あれ?家政婦さんとか雇ってたっけ?
たまにお邪魔していた頃には気にしなかった宮家の部屋の綺麗さに、通いの人がいるんだって結論に達した。割と本気で。
試しに曜日を変えて数日お家で家政婦さん?を待ってみたこともある。でも遭遇しなくてさ。
大学から帰宅した宮君に、今週家政婦さん来ない週だった?って聞いたらぽかんとしてた。



結果、家政婦さんなのは宮君でした。そうだよねぇえぇ。今の世の中、男子大学生が一人暮らししてるお家に家政婦さんくるとかないよねぇぇ。宮実家の家族構成も生活レベルも知らないけど、普通に考えたらおかしいよね。ごめんね宮君。でもなんか、君なら有り得そうな気がしちゃったよ!お顔綺麗だし!!



ボクより一個下なだけでおんなじ男子大学生にあるまじき几帳面さんと丁寧さでもって、美しく整えられた宮家。
そのリビングに置かれたソファーに並んで座って。2人仲良く洗濯物を畳みながらふと、散らかるのが嫌いなのかと聞いてみた。
宮君。手元のパンツを畳み終えてから、家の中でも変わらない鬱陶しい前髪に隠された目だけ多分こっち見て。
『汚れた後の掃除がめんどくさいから都度片します』って答えのような答えじゃないような言葉を返してきた。


『なるほど…?』
『洗濯も溜まる前にしますよね?溜まると面倒ですし。』
乾いた宮君のシャツやタオルをたたむボクの手元を宮君が指差す。
『うむ、まぁそうね。』
『他の家事も同じです。ながら掃除、程適度ではなくてもその都度すれば汚れも溜まりませんし。』
なるほど。
今度は同意してからのなるほど、で頷いた。
無駄のないすっきりとしたその感じはなんとなく、弓を引く宮君の姿勢と重なるし、考えてみればあの美しい射形とこのぴかぴかな宮家はものすごくイコールだ美しい。
『宮君。前髪鬱陶しいのにきちんとしてるねぇ。』
褒めた。ボク、にこって笑いながら褒めた。
一緒に住むようになっても相変わらず、外で内でも前髪で顔を隠してるのがなんだかちょっと気になる日々だったからこそ、かなりの本心からの褒め言葉。
『…先輩。』
宮君。ボクの褒め言葉に少し、ゆっくり目に首を傾け、一言。
『先輩も性格の割にきちんとしてますね?』




前髪切ればいいのに。





嫌味か悪口か本気かわからんトーンで宮くんはボクを評し。なんとなくむぅっとしたボクの頭にぐいっと手を伸ばすとくしゃり。ボクの髪を撫でた。

『なぁに?』
そのまま何も言わずに何度もくしゃりくしゃりと撫でるから、ボクはむぅっとしたまま首を傾げて、前髪、眼鏡奥の宮君の目をじいっと見た。
『先輩の髪も伸びました。』
くしゃくしゃり。
真っ黒な目が、今日も今日とてボクをじぃっと見返してくる。
ちょっぴりいつもより細めてて、ほんの少し冷たい光。
前髪からかったわけじゃなくすこぶる本音だけど、宮君的には不満、的な?
そんな目。多分だけど。


宮君の目は、大きくてきらきらしてて、結構感情豊かで。



(前髪がなければもっと、もっとずっとはっきり見えるのになぁ)














今日も今日とて長い前髪そのままに、宮くんは一限に出るためとっくにお出かけだ。
遅れること一時間。そろそろボクも出かけようと玄関先に向かったその廊下。
その、他に何も置かれてない宮家の廊下にぽつん。
段ボールが一箱。ボクもよく利用するネット通販のロゴ入りの箱だ。小さすぎもせず大きすぎもないサイズ。封が開けられたそれは上から覗いたら中身見えちゃう。
まぁ見ませんけどね。
視線も顔もがっつり箱に向けながらその横を通る。
見ませんけど。
ちょっと首とか伸ばしちゃうのは好奇心。
使ったら片付ける精神の宮君が、開けたまま放置したらしき段ボール。と、その中身。



見えちゃうの、仕方なくない?



横を通り過ぎる時、ぶつからないようちらっとさ、見たりするわけで。いやちらっとじゃないけど。顔も視線もそこだけど。わりとがっつり凝視してるけどもねそしたらば。
見えちゃったりするじゃない?箱の中。
緩衝材代わりのくしゃくしゃの紙の隙間から見えた。
シンプルな白い箱の0.01ミリのばかでっかい文字が。



「おっふ…」

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