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説明しました、の続き。
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「…返り討ち。」
宮君の平坦な鸚鵡返しに、うんって頷く。
「返り討ちの詳細な内容は雪の名誉のために省きます。」
そう前置きした後で、ボクは渋い記憶を話し出した。
「ボクんちで、2人で飲んでたんだよね。まだ雪が転がり込んでくる前。その頃の雪ってば、学校とかで一緒にはいなくなった分、ふらってうちに来て飲んでくことが多くって。その日もいつもみたいに2人でお酒買い出しとか行ってさ。そのうち酔っ払った雪がボクに甘えたんだか怒りをぶつけたんだか今だによくわかんないんだけど…ほんと。きっかけはなんだったかなぁ?」
視線を宮君からずらし、天井を見上げながらその時のきっかけを思い出そうとするけれど。うん。相変わらず思い出せない。
今までにも何度か、なんでだっけなぁってふと思ったことはあるんだけど、なぜだかきっかけが思い出せない。
自宅マンションの、テーブルの上。周りの床。
散乱した空き缶、食べ散らかしたお皿、おつまみのゴミ。そういった情景は映像として浮かぶんだけど、きっかけに関してはさっぱりだ。
何かを言ったのか何かがあったのか。
ボクも。珍しく酔っ払っていたからかもしれない。思い出せないくらいどうでもいいきっかけだったからかもしれない。
…まぁ多分だけど、後者だね。ボク、お酒強いから。
ボクはまた天井から宮君に視線を戻すと、なんとなく顔、特に目を避けたくて。胸のあたりに視線をやる。
…お顔がね。お目目からの色気がねぇ。すごくてね。
もうちょい抑えていただけたらありがたいよねぇぇ。なんて。
さっきから騒々しい切実なボクの心の声など伝わるはずもないから自衛一択。
ちょっと多めに外されたボタンのおかげでチラリな鎖骨から醸し出されるものはあるけど、目よりは…多分マシ。あぁでも、鎖骨ってなんかこう。つ、艶やか…?
じわり。
顔に熱が。
…ほんと。こんな宮君、どこにかくれんぼしてたんだろう?
んんってわざとらしく咳払いだとかして。
何処かに飛ばしかけた意識を戻し、まぁともかくって、話を続ける。
「きっかけは覚えてないんだけど。雪が怒鳴るからもちろんボクも言い返して。しばらく言い合いしてたらそのうち雪ったら、がばってきたのよ。宮君みたいにちゅーから始まりもせず、いきなりがばって。そんでずるってズボン下ろされてボク驚愕!!あり得ないよね?しかもパンツと。パンツと一緒にだよ?!一緒に、がばっ!の次にずるって!!そんなの反応出来なくない?ボク驚愕でぽかーんって間抜けづらしちゃって。そしたら雪、ボクのボクを今度はがしって。がしって!!!」
きっかけはさっぱりのくせして、その後の展開も部屋の情景と同じく鮮明に覚えてる。あんまりのことに、目をかっぴらげすぎたからかもしれない。
あーほんと、あの日は大変でしたね!
「そんでもうさ、友情一択だったボクらの関係が一足飛びでぶち壊され怒り心頭で、返り討ち。」
「返り討ち…。」
宮君がもう一度鸚鵡返し。
小さくもごって口動かして。
なんかちょっと呆然としてる?声に力なくない?
しかも「がしっ?」とか呟いてる?「がばっ…ずる??」??
ボクはどしたんだろうって軽く小首傾げつつ、宮君を見つめる。
「宮君?」
ボクを見ながら、口元だけ動いてる?声がボクまで届いてこないけど。
「宮君?」
「…続き。」
「どうかした?」
「続きどうぞ。」
「宮君??」
「…。」
宮君は、なんでかぶるぶるって数回頭を振ると、続きを促しそのまま無言。口を閉じちゃった。
視線だけは相変わらずボクにひたりと合わせてくるから、ボクはなんだろー?と思いながらも続ける。
「?…まぁそんなわけで雪とのファーストインパクトは未遂で修了。しばらく雪が寝込む羽目になっちゃって、看病?することになったらさぁ。なんでかボクのとこに来ちゃったんだよね。」
大好きだった弓道から離れて。少しずつ、心が弱ってた雪。
見た目も言動も軽薄になっちゃってさ。
それが物理的に、弱っちゃって。
まぁね。ボクが返り討ちに雪の雪を攻撃したからなんだけど!
見てられなくなって。
ほっとけなくなって。
雪もなんでだかボクから離れなくて。
そのままずるずる。
いつの間にか雪の荷物が増えて。
実家にも帰らなくて。
帰宅時間合わせたりが面倒くさくなったから合鍵渡して。
それまでよりもっとずっと。ずっとそばにいるようになって。
「そのうち、好きだーだなんて言い出してさ。ボクもまぁ、好き、だったし。」
「…好き。」
「うん。」
宮君の目が、きらっと光る。
「好き?」
あれ?またなんか黒いの見え出した!?
反射で後退りしつつ、
「好きでしたねぇえぇ。」
ちょっと、上目使いっぽく宮君見上げてボク。
それだけははっきり言った。
好きでした。
ボクは雪がね、好きでした。
宮君の眉根がぎゅって寄って、超!不機嫌!!って。全身からなんか、ぶわわわわって黒い何か立ち昇ってる?!ぞわって。足元から明らかにボクの発言に不快感表してボク、超!こわっ!怖すぎだよ宮君!って怯えてしまうけど!
でもボクこれだけは。
これだけはホント。
ホントだから。
「最後までイタセナイくらいには愛情足りなかったかもしれないけどさ、減ったゴム見て大泣きしちゃうくらいは好きでしたぁぁー!!過去だけど!!!」
叫んだ。
ボク、怖過ぎて叫びながら目ぇ瞑っちゃったけど、叫んだよ。
これだけはホントだから。
ボクのホント、だったから。
「先輩!」
宮君がボクを呼んで、肩、掴まれて。
あ。
ボクは唐突に思い出す。
その日だ。
宮君ちに初めてお泊まりしたの。
宮君の平坦な鸚鵡返しに、うんって頷く。
「返り討ちの詳細な内容は雪の名誉のために省きます。」
そう前置きした後で、ボクは渋い記憶を話し出した。
「ボクんちで、2人で飲んでたんだよね。まだ雪が転がり込んでくる前。その頃の雪ってば、学校とかで一緒にはいなくなった分、ふらってうちに来て飲んでくことが多くって。その日もいつもみたいに2人でお酒買い出しとか行ってさ。そのうち酔っ払った雪がボクに甘えたんだか怒りをぶつけたんだか今だによくわかんないんだけど…ほんと。きっかけはなんだったかなぁ?」
視線を宮君からずらし、天井を見上げながらその時のきっかけを思い出そうとするけれど。うん。相変わらず思い出せない。
今までにも何度か、なんでだっけなぁってふと思ったことはあるんだけど、なぜだかきっかけが思い出せない。
自宅マンションの、テーブルの上。周りの床。
散乱した空き缶、食べ散らかしたお皿、おつまみのゴミ。そういった情景は映像として浮かぶんだけど、きっかけに関してはさっぱりだ。
何かを言ったのか何かがあったのか。
ボクも。珍しく酔っ払っていたからかもしれない。思い出せないくらいどうでもいいきっかけだったからかもしれない。
…まぁ多分だけど、後者だね。ボク、お酒強いから。
ボクはまた天井から宮君に視線を戻すと、なんとなく顔、特に目を避けたくて。胸のあたりに視線をやる。
…お顔がね。お目目からの色気がねぇ。すごくてね。
もうちょい抑えていただけたらありがたいよねぇぇ。なんて。
さっきから騒々しい切実なボクの心の声など伝わるはずもないから自衛一択。
ちょっと多めに外されたボタンのおかげでチラリな鎖骨から醸し出されるものはあるけど、目よりは…多分マシ。あぁでも、鎖骨ってなんかこう。つ、艶やか…?
じわり。
顔に熱が。
…ほんと。こんな宮君、どこにかくれんぼしてたんだろう?
んんってわざとらしく咳払いだとかして。
何処かに飛ばしかけた意識を戻し、まぁともかくって、話を続ける。
「きっかけは覚えてないんだけど。雪が怒鳴るからもちろんボクも言い返して。しばらく言い合いしてたらそのうち雪ったら、がばってきたのよ。宮君みたいにちゅーから始まりもせず、いきなりがばって。そんでずるってズボン下ろされてボク驚愕!!あり得ないよね?しかもパンツと。パンツと一緒にだよ?!一緒に、がばっ!の次にずるって!!そんなの反応出来なくない?ボク驚愕でぽかーんって間抜けづらしちゃって。そしたら雪、ボクのボクを今度はがしって。がしって!!!」
きっかけはさっぱりのくせして、その後の展開も部屋の情景と同じく鮮明に覚えてる。あんまりのことに、目をかっぴらげすぎたからかもしれない。
あーほんと、あの日は大変でしたね!
「そんでもうさ、友情一択だったボクらの関係が一足飛びでぶち壊され怒り心頭で、返り討ち。」
「返り討ち…。」
宮君がもう一度鸚鵡返し。
小さくもごって口動かして。
なんかちょっと呆然としてる?声に力なくない?
しかも「がしっ?」とか呟いてる?「がばっ…ずる??」??
ボクはどしたんだろうって軽く小首傾げつつ、宮君を見つめる。
「宮君?」
ボクを見ながら、口元だけ動いてる?声がボクまで届いてこないけど。
「宮君?」
「…続き。」
「どうかした?」
「続きどうぞ。」
「宮君??」
「…。」
宮君は、なんでかぶるぶるって数回頭を振ると、続きを促しそのまま無言。口を閉じちゃった。
視線だけは相変わらずボクにひたりと合わせてくるから、ボクはなんだろー?と思いながらも続ける。
「?…まぁそんなわけで雪とのファーストインパクトは未遂で修了。しばらく雪が寝込む羽目になっちゃって、看病?することになったらさぁ。なんでかボクのとこに来ちゃったんだよね。」
大好きだった弓道から離れて。少しずつ、心が弱ってた雪。
見た目も言動も軽薄になっちゃってさ。
それが物理的に、弱っちゃって。
まぁね。ボクが返り討ちに雪の雪を攻撃したからなんだけど!
見てられなくなって。
ほっとけなくなって。
雪もなんでだかボクから離れなくて。
そのままずるずる。
いつの間にか雪の荷物が増えて。
実家にも帰らなくて。
帰宅時間合わせたりが面倒くさくなったから合鍵渡して。
それまでよりもっとずっと。ずっとそばにいるようになって。
「そのうち、好きだーだなんて言い出してさ。ボクもまぁ、好き、だったし。」
「…好き。」
「うん。」
宮君の目が、きらっと光る。
「好き?」
あれ?またなんか黒いの見え出した!?
反射で後退りしつつ、
「好きでしたねぇえぇ。」
ちょっと、上目使いっぽく宮君見上げてボク。
それだけははっきり言った。
好きでした。
ボクは雪がね、好きでした。
宮君の眉根がぎゅって寄って、超!不機嫌!!って。全身からなんか、ぶわわわわって黒い何か立ち昇ってる?!ぞわって。足元から明らかにボクの発言に不快感表してボク、超!こわっ!怖すぎだよ宮君!って怯えてしまうけど!
でもボクこれだけは。
これだけはホント。
ホントだから。
「最後までイタセナイくらいには愛情足りなかったかもしれないけどさ、減ったゴム見て大泣きしちゃうくらいは好きでしたぁぁー!!過去だけど!!!」
叫んだ。
ボク、怖過ぎて叫びながら目ぇ瞑っちゃったけど、叫んだよ。
これだけはホントだから。
ボクのホント、だったから。
「先輩!」
宮君がボクを呼んで、肩、掴まれて。
あ。
ボクは唐突に思い出す。
その日だ。
宮君ちに初めてお泊まりしたの。
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