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外出しました。
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「雪、ちょっと本屋行かない?」
ご飯も、片付けも終えて。
ボクはだらーと座ってる雪に声をかける。
「あ?」
ご飯を食べたからか。
ボクが普段通りに声をかけているからか、さっきよりも挙動不審ぷりは落ち着いたようだ。
むしろいつもの気だるそうな雰囲気が漂ってる。
「あー本屋かぁ。」
「ついでにあのカフェ行こうよ。本屋の近くの、甘いの食べにさ。たまには奢るよー。」
面倒臭いって思い切り顔に出してる雪に、更なるお誘い。
雪は甘いのが好きなので、ひっかかるに違いない。
「まぁ、それなら?」
うんうん。良い返事をありがとうね。
引き出した雪の返答に、ボクはにっこり。
すぐさま雪にスマホだけ持たせると、さっき用意しておいたバッグをさりげなく背負う。それから部屋の鍵をかけて。
ボクらは良く行く駅近くの本屋へと向かった。
てきとーに本棚の間を抜けて、漂って。
てきとーな本をさも欲しかったように手に取って雪に見せて。
レジに並んで買って。
「付き合ってくれてありがとう。おかげで本買えたよ。」
ボクはまた、雪に感謝の言葉を告げてにっこり。
「じゃぁ今度はカフェに行こっか。」
隣に並んで歩きながら、近くのカフェへと足を向ける。
「そうだな。ちょうど喉も乾いたし甘いの食いてー。」
なんとなく嬉しそうな顔の雪。
何食べるか頭の中で想像でもしてるんだろうな。
そして連れ立って、ボクらはよく行くカフェへと向かう。
「欲しい本あってよかったな。」
ボクの小脇に抱えた紙袋を指差して。雪はご機嫌な顔のまま、よかったな、なんて。
優しい言葉をかけてくる。
「ありがとう。」
だからボクもにっこり笑って応えた。
…まぁ。
本屋はどうでもよいのです。
カフェにもほんとは用はないんです。
ただ部屋から出れたらそれで。
「じゃぁ、ホットのカフェラテとマスカルポーネのチーズケーキで。」
雪はメニューを見ずに、いつものケーキを注文。
甘いもののなかでも雪はチーズケーキが特に好きだ。スフレもレアもベークドもなんでもよく食べるから、今日もこの後追加注文するんだろうなぁ、って予測。
にこにこしながらボクも注文。
「ボクはブラックルシアンで。」
畏まりました、と。は?の声が重なる。
「なんでアルコール頼んでんだよ。」
雪が眉根を寄せてボクに批判めいたことを言ってくるけども、ボクは気にもとめないよ。
お願いしますってて一言添えて、メニュー表をスタッフさんに渡せば、彼は軽く頭を下げて席を離れていった。
「葉海。」
ちょい強めに名前を呼ばれたけど、ボクはにこにこ。
「なんでって飲みたかったし。」
「お前が酒好きなのは知ってるけどさぁ。なにもカフェで飲まなくても。」
「まぁまぁ。コーヒーリキュールだし。」
にこにこ。
ご機嫌に微笑んでいれば、不満げなりにそれ以上何も言わなくなった。よしよし。
明るい店内にはまばらなお客さんの姿。
ここはカフェなんだけど喫茶店寄りの雰囲気もあって。テーブルと椅子席の他にテーブルとソファの置かれた半個室みたいな空間がある。
時刻は16時半過ぎ。
ランチタイムも終わりお茶の時間よりちょっと遅め。まばらなお客さん。
ボクらは運良くそのソファー席にこうして向かい合って座ってる。
まぁ、狙ったんだけどね!
ボクと雪。
高校で、入った部活が一緒でクラスは別。
なんとなくやってみたくて入部したボクと。
そこの弓道部に入りたくて学校選びまでしてた雪。
毎日毎日真剣に弓と向き合い、教本を読み。
暇があれば動画を見て研究。
そんな雪の努力は見事に身を結び、2年の初めにはレギュラー入り。試合なんかもどんどんこなし、部長としても大活躍。
ボクはといえば。
ただ引くのが楽しかったから。射形の美しさだとか中りだとかそんなこと気にもせず、毎日楽しく弓引いて。高校では一度も試合に出たことも出たいと思ったこともない。
ヤル気も姿勢も何もかもが正反対。
弓道のうまさも正反対。
こいつとは仲良くなれそうにないわと、お互い思っていたはずだったのに。
なんでか仲良くなって。
とうとうこんなことに。
テーブルの向かい側。
雪はスマホの画面に目をやりながら、ずっといじってる。ボクはさっき買ったばかりのたいして興味の無い本を捲って読んだフリ。
こっそりと、雪の顔を見てた。
『浮気してる顔。』
宮君の声が頭に響く。
ほんとにね。
軽い顔に、なったもんだ。
あの頃の雪は今よりずっと髪は黒くて適当で。
顔も今よりもっとただの真面目なイケメンだったのに。
「お待たせしました。」
カフェラテとマスカルポーネのチーズケーキ。
それからブラックルシアン。
「ありがとうございます。」
ボクは微笑む。
さてさて準備は万端だ。
ご飯も、片付けも終えて。
ボクはだらーと座ってる雪に声をかける。
「あ?」
ご飯を食べたからか。
ボクが普段通りに声をかけているからか、さっきよりも挙動不審ぷりは落ち着いたようだ。
むしろいつもの気だるそうな雰囲気が漂ってる。
「あー本屋かぁ。」
「ついでにあのカフェ行こうよ。本屋の近くの、甘いの食べにさ。たまには奢るよー。」
面倒臭いって思い切り顔に出してる雪に、更なるお誘い。
雪は甘いのが好きなので、ひっかかるに違いない。
「まぁ、それなら?」
うんうん。良い返事をありがとうね。
引き出した雪の返答に、ボクはにっこり。
すぐさま雪にスマホだけ持たせると、さっき用意しておいたバッグをさりげなく背負う。それから部屋の鍵をかけて。
ボクらは良く行く駅近くの本屋へと向かった。
てきとーに本棚の間を抜けて、漂って。
てきとーな本をさも欲しかったように手に取って雪に見せて。
レジに並んで買って。
「付き合ってくれてありがとう。おかげで本買えたよ。」
ボクはまた、雪に感謝の言葉を告げてにっこり。
「じゃぁ今度はカフェに行こっか。」
隣に並んで歩きながら、近くのカフェへと足を向ける。
「そうだな。ちょうど喉も乾いたし甘いの食いてー。」
なんとなく嬉しそうな顔の雪。
何食べるか頭の中で想像でもしてるんだろうな。
そして連れ立って、ボクらはよく行くカフェへと向かう。
「欲しい本あってよかったな。」
ボクの小脇に抱えた紙袋を指差して。雪はご機嫌な顔のまま、よかったな、なんて。
優しい言葉をかけてくる。
「ありがとう。」
だからボクもにっこり笑って応えた。
…まぁ。
本屋はどうでもよいのです。
カフェにもほんとは用はないんです。
ただ部屋から出れたらそれで。
「じゃぁ、ホットのカフェラテとマスカルポーネのチーズケーキで。」
雪はメニューを見ずに、いつものケーキを注文。
甘いもののなかでも雪はチーズケーキが特に好きだ。スフレもレアもベークドもなんでもよく食べるから、今日もこの後追加注文するんだろうなぁ、って予測。
にこにこしながらボクも注文。
「ボクはブラックルシアンで。」
畏まりました、と。は?の声が重なる。
「なんでアルコール頼んでんだよ。」
雪が眉根を寄せてボクに批判めいたことを言ってくるけども、ボクは気にもとめないよ。
お願いしますってて一言添えて、メニュー表をスタッフさんに渡せば、彼は軽く頭を下げて席を離れていった。
「葉海。」
ちょい強めに名前を呼ばれたけど、ボクはにこにこ。
「なんでって飲みたかったし。」
「お前が酒好きなのは知ってるけどさぁ。なにもカフェで飲まなくても。」
「まぁまぁ。コーヒーリキュールだし。」
にこにこ。
ご機嫌に微笑んでいれば、不満げなりにそれ以上何も言わなくなった。よしよし。
明るい店内にはまばらなお客さんの姿。
ここはカフェなんだけど喫茶店寄りの雰囲気もあって。テーブルと椅子席の他にテーブルとソファの置かれた半個室みたいな空間がある。
時刻は16時半過ぎ。
ランチタイムも終わりお茶の時間よりちょっと遅め。まばらなお客さん。
ボクらは運良くそのソファー席にこうして向かい合って座ってる。
まぁ、狙ったんだけどね!
ボクと雪。
高校で、入った部活が一緒でクラスは別。
なんとなくやってみたくて入部したボクと。
そこの弓道部に入りたくて学校選びまでしてた雪。
毎日毎日真剣に弓と向き合い、教本を読み。
暇があれば動画を見て研究。
そんな雪の努力は見事に身を結び、2年の初めにはレギュラー入り。試合なんかもどんどんこなし、部長としても大活躍。
ボクはといえば。
ただ引くのが楽しかったから。射形の美しさだとか中りだとかそんなこと気にもせず、毎日楽しく弓引いて。高校では一度も試合に出たことも出たいと思ったこともない。
ヤル気も姿勢も何もかもが正反対。
弓道のうまさも正反対。
こいつとは仲良くなれそうにないわと、お互い思っていたはずだったのに。
なんでか仲良くなって。
とうとうこんなことに。
テーブルの向かい側。
雪はスマホの画面に目をやりながら、ずっといじってる。ボクはさっき買ったばかりのたいして興味の無い本を捲って読んだフリ。
こっそりと、雪の顔を見てた。
『浮気してる顔。』
宮君の声が頭に響く。
ほんとにね。
軽い顔に、なったもんだ。
あの頃の雪は今よりずっと髪は黒くて適当で。
顔も今よりもっとただの真面目なイケメンだったのに。
「お待たせしました。」
カフェラテとマスカルポーネのチーズケーキ。
それからブラックルシアン。
「ありがとうございます。」
ボクは微笑む。
さてさて準備は万端だ。
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