それでは明るくさようなら

金糸雀

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お風呂。
よくある世間一般的なお風呂。さして広くも狭くもなく、浴槽だってほどほどの大きさ。宮君だとちょっと狭いかも。足長いんだよねぇ、あの子。雪もたまにせめーな、とかぼやく。だったらお家でお入りくださいねぇって言い返すと、すぐに黙ってなんてことない顔してお風呂入りにいく。
入るんじゃん!
あっさり入るあたり、そんなにものすごく不満を抱えてるわけじゃないんだとは思うし、なによりボクには狭くない。
普通サイズ。
シャワーヘッドだけは後付けしたちょい大きめ。へッドの柄?の部分にボタンがついてて、そこで止めたりできて便利なやつ。
他は極々ふつーなボクんちのお風呂。
入るなら、もちろんおひとり様が好ましい広さ。





「…あ?」




とりあえず、服着たまま浴室のドア開けたらね、臭ったのでブチ切れ寸前葉海です。



やったんだね。



反射でぴしゃりと閉めたから結構な音たったけど、知るものか。
臭いんだけど。
臭いんだけど!も!!


ボクは後ろ向きに一歩、よろめくようにして下がる。


(やったの。お風呂で。せめーなってぼやくボクの家のお風呂で。)


やったんだ。


臭かった。視覚的には確認してないけど嗅覚的には完全クロ。
してるやってるぜっったいいたしてる!!
ふぁぁぁぁって。
衝撃的過ぎてボク、声にならない声が口からふああぁぁって。
臭いに怒りがぶあって全身駆け巡った後に、ひたすら衝撃が襲ってくる。


したの!お風呂で。
したかったの!雪クンは!
お風呂で。


知らなかった。
雪はお風呂でコトにいたりたかったなんてボク知らなかった。
誘ったことはもちろんないし。誘われたことも。ボク。無い。
おおっ、って。
ボク、思わず天井見上げた。


(あんなに臭くさせちゃうくらい、雪はしたかったんだねぇ。)





…でもね。

「こっちも掃除しときなさいよ。」



ボクはぼそりと文句を1つ吐き出して。
今度は寝室に向かうことにした。
お風呂気分はすっかり抜け落ちちゃったけど、昨日と同じこの服だけでも先に着替えたい。
もう汗かく季節じゃないけどさ。
気持ちだけでもさっぱりしたいよね!

衝撃はなかなか治る物でも無いし。ぐぐぐって、眉間に皺がよっちゃうのは仕方ない。


「葉海?なんかすげー音したけど何してんだよ。」
寝室に向かう途中、まだリビングに居た雪が訝しげにボクを見てくる。
「んー?」
ナニしてたんだよ、って。


それボクに言うセリフかなぁ?
むしろボクが言うところだね?


なんて答えたものかと瞬間迷う。
お前がな!とか。
風呂は1人で入れや!とか?
すんって。
珍しくもボクの顔から表情が抜け落ちる。

(ナニを言えっていうのかなぁ。)

クッションに座ってる雪を、見下ろすかたちで向かい合って。
ボク。眼球をくるりと回して思考して…。
でもまぁそれはホント瞬間だけ。
ボクはすぐさま、いやなんか答えるの面倒だな!って思ったものだから。
にっこり。
浮かべた笑顔でやりすごそうと。
笑ってお礼を口にする。


「お風呂入ろーってドア開けたんだけどね。やっぱりやめて閉めただけ。勢い余っておっきな音でたからびっくりさせちゃった?ごめんね?心配してくれたなら、ありがとう。」
笑いながら、ありがとう。



雪の、それまで訝しげだった顔があっ、て。
小さく息を呑んだのがわかった。
うんうん。
その小さな頭で、理解、したのかな?
ボクはそれ以上何も言わずに、寝室へと足を向ける。



あーぁ。あとで掃除しなきゃ…臭うくらいだし、まだ残ってるわけだよね。出したものがきっと、あちらこちらに。
昨日のだか、今朝のだかは知らんけど。


ーー業者頼むか?もちろん雪支払いで。


「は、葉海…」
後ろから、また名前呼ばれ。
「着替えてくるね。」
って。明るく発した言葉だけ、返した。






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