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ep10.

ep10.『聖母と道化、その支配人』Change the World

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「物置きになってる部屋でね、お父さんが学生時代に使ってた古い眼鏡を見つけて─────────」

それで、と水森唯は少し小さな声でこう続けた。

「何気なく掛けてみたらなんとなくしっくり来る気がして、それからずっと掛けてただけなの」

だから特に深い意味なんてなかったのかもね、と水森唯は誤魔化すようにそう笑った。

そうなのか?

上野は水森唯の肩をバンバンと叩いた。

「まあ、どっちにしても水森っち、絶対こっちの方が似合ってるっしょ!」

佐藤っちもそう思うよね?と急に話を振られた俺は適当に答える。

「え?あ、うん。なんか水森も嬉しそうだしさ─────────」

いいんだろうか。

ここで『今の方がいい』って言ったら以前の水森を全部否定するようなことになったりしないだろうか。

俺はグルグルと思考を巡らせる。

水森唯は繊細で感受性が強い女子なんじゃないのか?

でも女子全般は褒められると嬉しいからどんどん褒めるべきって佑ニーサンも言ってた気がするし─────────

「水森が気に入ったのを使うのが一番いいんじゃねぇの?ほら、お前らが言ってる“推し活”とやらと一緒だろ?」

“推してる“眼鏡フレームでテンションが上がるなら何よりじゃねぇの、と俺が言うと水森唯は驚いたように目を丸くした。

「……ん?なんか俺、変なこと言ったか?」

ちょっと佐藤っち!と上野がすかさずツッコミのように俺に突っかかる。

「”推し活“ってなんかそーいうんじゃないんじゃない?」

コラボフレームの類ならそうだろうけど、普通の眼鏡っしょ?という上野の言葉はもっともなものに思えた。

「うーん。なんか違ったのか」

思わず俺がそう返すと水森唯は首を振った。

「ううん。きっと多分合ってるわ」

「……え?」

上野が怪訝そうに聞き返す。

「そう。“推し”の眼鏡を変えたの。いわゆる“推し変”ね」

ふふ、と水森唯は楽しそうに笑った。

「……そっか、私、“推し変”したのね」

それから一呼吸置いて水森唯は俺にこう言った。

「気付かせてくれてありがとう。自分じゃわからなかったから─────────」

『????』

水森唯の言葉の意味がよくわからない俺と上野は思わず顔を見合わせる。









───────────水森唯の言葉の意味がわかったのはそれからずっと後のことだった。

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