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ep10.
ep10.『聖母と道化、その支配人』 逸らされる核心
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まあそれはともかくとして、だ。
俺は差し出されたハサミを手に取った。
「じゃあさ、先にセンセェが読んでよ」
そう言いながら俺は袋綴じのページを切った。
「……は!?」
小泉の表情がサッと変わる。
お前が先に読めばいいだろうが、としどろもどろに答える小泉はどこか妙だ。
「いや、だってさ。いつもセンセェが先に読んでるだろ?」
じゃあいいじゃん。今回もそれでさ、と俺が袋綴じを切り終わった文庫本を差し出すと小泉はブンブンと首を振った。
「え?いや、ここで読めと?」
小泉は何を遠慮してるんだろうか。
「……いつも通りじゃん。なんも問題ねぇだろ?」
俺はそう言いながらやや強引に小泉に文庫本を押し付ける。
「……」
小泉は黙ったまま何も言わない。
どうしたんだろう。読むのダルくなったとか?
まあそうだよな。薄めのボリュームとは言え、文庫本の小説を一冊読むのってまあまあ労力が要るしな。
「……お前が先に読んだらどうだ?」
小泉はなおも納得いかない様子で俺の方をチラリと見る。
何か読みたく無い理由でもあるんだろうか。
まあ、早朝からこんな意味不明なやり取りに巻き込んだ側の俺が言えた立場じゃないんだけどさ。
小泉は相変わらず俺の顔を見ようとはしなかった。
なんか調子狂うなあ。
けど、まあ無理強いは出来ねぇよな。
「わーったよ。じゃあさ、センセェのトコに預けとくから。気が向いたら読んでよ」
俺がそう言うと小泉はなおも納得できない様子でこう答えた。
「……お前は見なくていいのか?」
さあ、と俺は首をすくめた。
「こうして時間を戻ってるって事は首尾良く童貞を捨てることが出来たんだろ?」
じゃあそれでもういいじゃねぇか。これ以上深く考えなくてもさ、と俺が言うと小泉は俯いた。
「確かにそうかもしれないが─────────」
それはなんとも奇妙なやりとりに思えた。
俺達は二人とも───────────例の文庫本を読むことに対して全く気乗りしなかったんだな。
理由なんて解らないし知らない。でもやっぱりそれは確実に俺達の本心だったんだ。
俺は差し出されたハサミを手に取った。
「じゃあさ、先にセンセェが読んでよ」
そう言いながら俺は袋綴じのページを切った。
「……は!?」
小泉の表情がサッと変わる。
お前が先に読めばいいだろうが、としどろもどろに答える小泉はどこか妙だ。
「いや、だってさ。いつもセンセェが先に読んでるだろ?」
じゃあいいじゃん。今回もそれでさ、と俺が袋綴じを切り終わった文庫本を差し出すと小泉はブンブンと首を振った。
「え?いや、ここで読めと?」
小泉は何を遠慮してるんだろうか。
「……いつも通りじゃん。なんも問題ねぇだろ?」
俺はそう言いながらやや強引に小泉に文庫本を押し付ける。
「……」
小泉は黙ったまま何も言わない。
どうしたんだろう。読むのダルくなったとか?
まあそうだよな。薄めのボリュームとは言え、文庫本の小説を一冊読むのってまあまあ労力が要るしな。
「……お前が先に読んだらどうだ?」
小泉はなおも納得いかない様子で俺の方をチラリと見る。
何か読みたく無い理由でもあるんだろうか。
まあ、早朝からこんな意味不明なやり取りに巻き込んだ側の俺が言えた立場じゃないんだけどさ。
小泉は相変わらず俺の顔を見ようとはしなかった。
なんか調子狂うなあ。
けど、まあ無理強いは出来ねぇよな。
「わーったよ。じゃあさ、センセェのトコに預けとくから。気が向いたら読んでよ」
俺がそう言うと小泉はなおも納得できない様子でこう答えた。
「……お前は見なくていいのか?」
さあ、と俺は首をすくめた。
「こうして時間を戻ってるって事は首尾良く童貞を捨てることが出来たんだろ?」
じゃあそれでもういいじゃねぇか。これ以上深く考えなくてもさ、と俺が言うと小泉は俯いた。
「確かにそうかもしれないが─────────」
それはなんとも奇妙なやりとりに思えた。
俺達は二人とも───────────例の文庫本を読むことに対して全く気乗りしなかったんだな。
理由なんて解らないし知らない。でもやっぱりそれは確実に俺達の本心だったんだ。
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