上 下
908 / 1,060
ep10.

ep10.『聖母と道化、その支配人』 人形と虎と甘い香りの塔

しおりを挟む
リビングのテーブルの上にはホットプレートが載せられていた。

なんとなくパーティ感あるな、と思った。

朝からハイテンションで何よりじゃないか。

「あwwオレが焼くんでwww先輩は待ってて貰えますかwww」

そう言いながら概史は手際よくタネをホットプレートに流し込んでいく。

そういう作業も手慣れたものだ。

俺はやや感心しながら概史の様子を眺めていた。

「ホットケーキいっぱい焼いてwww皿にタワーみたいに盛るのってやってみたかったんスよねwww」

そういう絵本あったじゃないですかwww虎がバターになるやつでwwwという概史の言葉に俺も頷く。

「そういやあったな。確かに美味そうだ」

俺も幼稚園の時、その絵本が好きでよく読んでたっけ。

「でもwwwさっきそれやろうとしたらwww撫子が焼くそばから食べてっちゃったもんでwww」

タワーにならなかったんスよねwwwとゲラゲラ笑う概史はとても眩しく見えた。

いいよな、コイツらのベストカップル感がマジで半端ない。

俺は一生掛かってもこの立ち位置に到達出来ないんだろうな、と思うと少し劣等感を感じてしまう。

ぼんやりとそんな事を考えながら何もせず座っているだけの俺の横で────────撫子が珍しく上機嫌で遊んでいた。

何やら人形遊びをしているようだ。

「ん?そういや、前に人形がどうのって言ってたよな?買ってやったんか?」

俺がそう尋ねると概史は苦笑いを浮かべる。

「ああwこれっすかww」

買ったんじゃなくて家にあったんスよね、と概史はホットケーキをひっくり返しながら答えた。

「兄貴の謎のグッズコレクションが大量に納戸や押し入れとかに積んであるんすけどwwwそん中から発掘されたヤツでwww」

概史の言葉を遮り、珍しく撫子が答えた。

「……ナコちゃん。わたしと同じ名前」

撫子は人形をすこぶる気に入っている様子で得意げに俺に見せてくる。

「“ナコちゃん”?」

俺がそう聞き返すと概史がこう説明する。

「ああ、ナコルルッスよwほら、サムスピに出てくるじゃないですかwww」

確かに、撫子が持っている人形は格闘ゲームに出てくる女性キャラクターと同じ姿をしていた。

「なんか、ゲーマー引退するっていう歳上の人からネオジオ系のグッズコレクションを大量に貰って来てたみたいでwwwこのナコルル人形も複数ストックがあったんスよねwww」

言われてみれば───────そのパッケージはかなり古そうに思えた。四半世紀程は経過していそうだ。

「赤ナコルルは一個しか無いからダメって言われたんスけどwww紫ナコルルはいくつかあるから持ってっていいって兄貴が言うもんだからwww」

撫子に見せたらこんなに食いついてくるとは思わなくてwwwと概史は言うが、どこか満足げだ。

なるほど、1Pカラーの赤のナコルルじゃなくて2Pカラーの紫のナコルルなのか。

「ナコちゃん。かわいい」

撫子は愛おしそうに紫ナコルルの人形をギュッと抱きしめる。

「自分専用の新しい人形って生まれて初めてらしくてwww昨日からずっとこうなんすよww」

焼き上がったホットケーキを皿に載せながら概史がそう付け加える。

そういやそんな事を前に言ってたな。

玩具類は全部お下がりだとか、自分用の新しいのを買ってもらったことがなかったとか。

まあ、コイツの家にあったデッドストック品で大喜びならよかったじゃねぇか。

名前も同じような感じだし、親近感も湧いてるんだろう。

気のせいか顔もちょっと似てる気もするしな。

人形を抱いてニコニコと笑う撫子を優しい眼差しで見つめる概史。

いいよな、コイツらはさ。

金なんか使わなくてもコイツらなら確定で一生幸せに生きていけるんだろう。

人生で一番大事なスキルってそこだよな。












幸せってのはこういうもんだろうな、と思った俺は─────────気付けば“思い出せそうで思い出せない何か”に気持ちを馳せていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜アソコ編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとエッチなショートショートつめあわせ♡

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お尻たたき収容所レポート

鞭尻
大衆娯楽
最低でも月に一度はお尻を叩かれないといけない「お尻たたき収容所」。 「お尻たたきのある生活」を望んで収容生となった紗良は、収容生活をレポートする記者としてお尻たたき願望と不安に揺れ動く日々を送る。 ぎりぎりあるかもしれない(?)日常系スパンキング小説です。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...