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ep10.
ep10.『聖母と道化、その支配人』 人形と虎と甘い香りの塔
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リビングのテーブルの上にはホットプレートが載せられていた。
なんとなくパーティ感あるな、と思った。
朝からハイテンションで何よりじゃないか。
「あwwオレが焼くんでwww先輩は待ってて貰えますかwww」
そう言いながら概史は手際よくタネをホットプレートに流し込んでいく。
そういう作業も手慣れたものだ。
俺はやや感心しながら概史の様子を眺めていた。
「ホットケーキいっぱい焼いてwww皿にタワーみたいに盛るのってやってみたかったんスよねwww」
そういう絵本あったじゃないですかwww虎がバターになるやつでwwwという概史の言葉に俺も頷く。
「そういやあったな。確かに美味そうだ」
俺も幼稚園の時、その絵本が好きでよく読んでたっけ。
「でもwwwさっきそれやろうとしたらwww撫子が焼くそばから食べてっちゃったもんでwww」
タワーにならなかったんスよねwwwとゲラゲラ笑う概史はとても眩しく見えた。
いいよな、コイツらのベストカップル感がマジで半端ない。
俺は一生掛かってもこの立ち位置に到達出来ないんだろうな、と思うと少し劣等感を感じてしまう。
ぼんやりとそんな事を考えながら何もせず座っているだけの俺の横で────────撫子が珍しく上機嫌で遊んでいた。
何やら人形遊びをしているようだ。
「ん?そういや、前に人形がどうのって言ってたよな?買ってやったんか?」
俺がそう尋ねると概史は苦笑いを浮かべる。
「ああwこれっすかww」
買ったんじゃなくて家にあったんスよね、と概史はホットケーキをひっくり返しながら答えた。
「兄貴の謎のグッズコレクションが大量に納戸や押し入れとかに積んであるんすけどwwwそん中から発掘されたヤツでwww」
概史の言葉を遮り、珍しく撫子が答えた。
「……ナコちゃん。わたしと同じ名前」
撫子は人形をすこぶる気に入っている様子で得意げに俺に見せてくる。
「“ナコちゃん”?」
俺がそう聞き返すと概史がこう説明する。
「ああ、ナコルルッスよwほら、サムスピに出てくるじゃないですかwww」
確かに、撫子が持っている人形は格闘ゲームに出てくる女性キャラクターと同じ姿をしていた。
「なんか、ゲーマー引退するっていう歳上の人からネオジオ系のグッズコレクションを大量に貰って来てたみたいでwwwこのナコルル人形も複数ストックがあったんスよねwww」
言われてみれば───────そのパッケージはかなり古そうに思えた。四半世紀程は経過していそうだ。
「赤ナコルルは一個しか無いからダメって言われたんスけどwww紫ナコルルはいくつかあるから持ってっていいって兄貴が言うもんだからwww」
撫子に見せたらこんなに食いついてくるとは思わなくてwwwと概史は言うが、どこか満足げだ。
なるほど、1Pカラーの赤のナコルルじゃなくて2Pカラーの紫のナコルルなのか。
「ナコちゃん。かわいい」
撫子は愛おしそうに紫ナコルルの人形をギュッと抱きしめる。
「自分専用の新しい人形って生まれて初めてらしくてwww昨日からずっとこうなんすよww」
焼き上がったホットケーキを皿に載せながら概史がそう付け加える。
そういやそんな事を前に言ってたな。
玩具類は全部お下がりだとか、自分用の新しいのを買ってもらったことがなかったとか。
まあ、コイツの家にあったデッドストック品で大喜びならよかったじゃねぇか。
名前も同じような感じだし、親近感も湧いてるんだろう。
気のせいか顔もちょっと似てる気もするしな。
人形を抱いてニコニコと笑う撫子を優しい眼差しで見つめる概史。
いいよな、コイツらはさ。
金なんか使わなくてもコイツらなら確定で一生幸せに生きていけるんだろう。
人生で一番大事なスキルってそこだよな。
幸せってのはこういうもんだろうな、と思った俺は─────────気付けば“思い出せそうで思い出せない何か”に気持ちを馳せていた。
なんとなくパーティ感あるな、と思った。
朝からハイテンションで何よりじゃないか。
「あwwオレが焼くんでwww先輩は待ってて貰えますかwww」
そう言いながら概史は手際よくタネをホットプレートに流し込んでいく。
そういう作業も手慣れたものだ。
俺はやや感心しながら概史の様子を眺めていた。
「ホットケーキいっぱい焼いてwww皿にタワーみたいに盛るのってやってみたかったんスよねwww」
そういう絵本あったじゃないですかwww虎がバターになるやつでwwwという概史の言葉に俺も頷く。
「そういやあったな。確かに美味そうだ」
俺も幼稚園の時、その絵本が好きでよく読んでたっけ。
「でもwwwさっきそれやろうとしたらwww撫子が焼くそばから食べてっちゃったもんでwww」
タワーにならなかったんスよねwwwとゲラゲラ笑う概史はとても眩しく見えた。
いいよな、コイツらのベストカップル感がマジで半端ない。
俺は一生掛かってもこの立ち位置に到達出来ないんだろうな、と思うと少し劣等感を感じてしまう。
ぼんやりとそんな事を考えながら何もせず座っているだけの俺の横で────────撫子が珍しく上機嫌で遊んでいた。
何やら人形遊びをしているようだ。
「ん?そういや、前に人形がどうのって言ってたよな?買ってやったんか?」
俺がそう尋ねると概史は苦笑いを浮かべる。
「ああwこれっすかww」
買ったんじゃなくて家にあったんスよね、と概史はホットケーキをひっくり返しながら答えた。
「兄貴の謎のグッズコレクションが大量に納戸や押し入れとかに積んであるんすけどwwwそん中から発掘されたヤツでwww」
概史の言葉を遮り、珍しく撫子が答えた。
「……ナコちゃん。わたしと同じ名前」
撫子は人形をすこぶる気に入っている様子で得意げに俺に見せてくる。
「“ナコちゃん”?」
俺がそう聞き返すと概史がこう説明する。
「ああ、ナコルルッスよwほら、サムスピに出てくるじゃないですかwww」
確かに、撫子が持っている人形は格闘ゲームに出てくる女性キャラクターと同じ姿をしていた。
「なんか、ゲーマー引退するっていう歳上の人からネオジオ系のグッズコレクションを大量に貰って来てたみたいでwwwこのナコルル人形も複数ストックがあったんスよねwww」
言われてみれば───────そのパッケージはかなり古そうに思えた。四半世紀程は経過していそうだ。
「赤ナコルルは一個しか無いからダメって言われたんスけどwww紫ナコルルはいくつかあるから持ってっていいって兄貴が言うもんだからwww」
撫子に見せたらこんなに食いついてくるとは思わなくてwwwと概史は言うが、どこか満足げだ。
なるほど、1Pカラーの赤のナコルルじゃなくて2Pカラーの紫のナコルルなのか。
「ナコちゃん。かわいい」
撫子は愛おしそうに紫ナコルルの人形をギュッと抱きしめる。
「自分専用の新しい人形って生まれて初めてらしくてwww昨日からずっとこうなんすよww」
焼き上がったホットケーキを皿に載せながら概史がそう付け加える。
そういやそんな事を前に言ってたな。
玩具類は全部お下がりだとか、自分用の新しいのを買ってもらったことがなかったとか。
まあ、コイツの家にあったデッドストック品で大喜びならよかったじゃねぇか。
名前も同じような感じだし、親近感も湧いてるんだろう。
気のせいか顔もちょっと似てる気もするしな。
人形を抱いてニコニコと笑う撫子を優しい眼差しで見つめる概史。
いいよな、コイツらはさ。
金なんか使わなくてもコイツらなら確定で一生幸せに生きていけるんだろう。
人生で一番大事なスキルってそこだよな。
幸せってのはこういうもんだろうな、と思った俺は─────────気付けば“思い出せそうで思い出せない何か”に気持ちを馳せていた。
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