[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep9

ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 Happy Great Wedding

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その日は朝から雲一つない快晴だった。

きっと鈴木先輩の日頃の行いが良かったんだろうな。

予算10万くらい・格安業者でごく簡易な家族挙式を考えていたらしい鈴木先輩だったが────────小泉の口利き(お節介?)により、偶然キャンセルが出てしまった枠を破格値で契約出来たらしかった。

(なんでも、一部で『格安枠』と呼ばれている裏メニューは100~150万ほど値引きされるらしい)

当初の予想に反し、鈴木先輩の会社の同僚や上司、元職場の親方や以前にベルファイアを譲ってくれた人など、かなりの大人数の大規模挙式になっていた。

勿論、俺や概史(ついでに撫子も)・佑ニーサンや羽威刄闇(ワイバーン)のメンバーも招待されていた。ウォンが相変わらずのコスプレ感満開なテカテカなタキシードを着ていたのには笑った。ドンキで買ったのかよ。

“格安枠を紹介して貰ったから”という謎の理由で小泉も招待されていたのには驚いたが───────それ以上に予想外のメンツが大聖堂に揃っていたのが信じられなかった。

どういう訳か───────敵対していた筈のグループ・愚羅淫怒(グラインド)の連中まで招待されていたのだ。てか、来るのかよ!

佑ニーサンから聞いた話だと、奴ら頑張ってバイトしてご祝儀をかき集めて来たらしい。

(全員の連名で5万包んであったそうだが、奴らにしてはよくやってると思う)

後で見せて貰ったんだが、祝儀袋に筆ペンで書いてあった文字が思ったより達筆で驚いた。美文字過ぎる。てか、なんで暴走族やってんのコイツら。几帳面すぎる。

馬場やタブチ、あの金髪の常識人っぽいヤツの姿も見えた。

ほんのちょっと前にガチの抗争してたのがまるで嘘みたいじゃねぇか。

不思議な空気に包まれたまま、式は進行していく。

大扉の閂(かんぬき)が開けられ、花嫁が登場すると────────大聖堂のあちこちから歓声が上がった。

ウェディングドレスの八宇さんはまるでアイドルやモデルのように華やかで可憐だった。

なんていうかこう、凄まじいオーラがあるよな。

人々の視線はまるで妖精のお姫様のような八宇さんに釘付けになっていた。

花嫁がヴァージンロードを厳かに歩く。

その視線の先にあるののは──────────勿論鈴木先輩だ。

八宇さんの花嫁姿が綺麗なのは予想していたことだったが、それ以上に圧倒されたのは鈴木先輩のタキシード姿だった。

メチャクチャカッコよくて凛々しい。やっぱガタイいいもんな。

俺は主役の花嫁よりも鈴木先輩の姿に釘付けになっていた。

いいなあ、やっぱ先輩は何着てもカッコいいなあ、と俺はぼんやりと挙式の進行を眺める。

不思議なことに大聖堂の内部は、夢の中の光景と全く違わない造りになっていた。

夢の中と同じ景色の中、俺は現実に進行していく二人の挙式を見守る。

神父がお決まりの言葉をカタコトで言い、指輪を交換する。

それから二人は誓いの口付けを交わす。

どうしてだか俺の方がドキドキしてしまう。理由はわからない。

新郎新婦の二人は並んで歩き始める。

俺達、招待客は先回りして大聖堂から降りる階段に並んで二人に花吹雪やライスシャワーを投げた。

「内藤……じゃなかった今は鈴木だな。ついこの前までガキだったのが立派になりやがって」

親方っぽい初老の男性が涙ぐんでいる。この人が先輩を世話してくれたって人だろう。

会社の同僚や友人ぽい風貌の人も次々に祝いの言葉を投げかけた。

鈴木先輩ははにかみながらそれに応えている。

八宇さんの友人と思しき高校生~大学生くらいの女性の姿も見えた。

愚羅淫怒(グラインド)の連中、中でもどうしてだか知らんが馬場は涙ぐみながら拍手を送っていた。なんで感動してんだよ。いい奴かよ。

大勢の人に祝福されながら────────二人の結婚式はいよいよクライマックスを迎える。

「さあ、それでは花嫁から未来の花嫁へ向けての贈り物、お待ちかねのブーケトスです!!」

司会の女性はよく見れば小泉の先輩、根本さんだった。

大聖堂前のオーディエンスから歓声が上がる。

「さあさあ!独身の女性の方は前方の方にお進みください!」

賑やかなコールと共に、八宇さんの友人と思われる若い女性達がキャアキャアと言いながら前に出る。

俺は少し離れた場所に居る小泉の姿をチラリと見る。

代わり映えのない地味なリクルートスーツを着て、人混みの中の後方でぼんやりと花嫁の八宇さんを眺めていた。

前に出ないのかよ。まあ、そうだよな。

若くてキャピキャピした陽キャ集団の女子の中に入って行きにくいよな。

ぼんやりとそんなことを考えていると────────花嫁が宙に放り投げたブーケが俺の胸に落下する。

「!?」

は!?

なんで俺!?

八宇さんノーコンかよ!?

ああ~!という悲鳴にも似た絶叫がブーケを取り損ねた女性陣から上がる。

まあそうだよな。みんなコレ、狙ってたんだよな。

「ちょっっっwwwwww先輩がwwwwwwブーケ貰ってwwwwwwウケるwwwwww」

横で概史と佑ニーサンがゲラゲラ笑っている。

冗談じゃない。なんだこれは。

どういうことだよ、と俺が八宇さんの顔をチラリと見ると────────何故か花嫁は俺に向かってウインクしている。

は!?

どゆこと!?

前回、廃墟で聞いたとんでもない話が脳裏によぎる。

それってもしかして──────口止め料ってこと?

俺は驚いて鈴木先輩の顔を見た。

先輩はいつものように俺を見て笑っている。優しくて穏やかな表情だ。

そうか、先輩は気付いてんだな。

けど、これってどうする?

会場中の視線を一斉に浴びた俺は────────居た堪れなくなって後方に居る小泉の場所まで行き、それを押しつけた。

「センセェ、これ!」

受け取って!と俺はテンパったままで小泉にそれをパスする。

俺の全身からは冷や汗が流れ、体温は1~2℃上昇している。きっと顔だって真っ赤だ。

男の俺が持ってても意味がない物だし、これ以上注目されるのが嫌だったんだよな。

陽キャ集団の女子じゃないから微妙だけど、とりあえず独身女性である小泉ならまあ体裁は取り繕えるだろう。

小泉は驚いた表情を浮かべ───────それから蚊の鳴くような声で何か言った後に顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

すまん、許せ小泉。

俺はこの場でこんなブツを持ったまま平気で居られるほどの鉄の心臓は持ち合わせてはいないんだ。

巻き込んで悪いが──────この場は致し方ないだろ?

多少地味でも、小泉なら持っててどうにか不自然じゃない感じになるじゃねぇか。

大きな拍手と歓声が上がり、大聖堂から一斉に色とりどりの風船が飛ばされる。










大聖堂の鐘の音が大きく鳴り響き───────────心地よい風と共に風船は抜けるような真っ青な空に吸い込まれるように消えていった。
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