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ep9
ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 不明な理由、婚約破棄
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翌日の日曜。
俺は小泉に会いに神社の社務所に向かった。
前の日にあった出来事──────── そこで一番大事だと俺が思った部分は小泉には伝えなかった。
まあ、そうだよな。
それは俺だけの感情で────────自分の中に閉じ込めておきたいと思ったからだ。
ただ、これからの事を考えると愚羅淫怒(グラインド)陣営や謎の多い組織『C ∴M ∴』の件は報告する必要はあった。
俺の話を聞き終わった小泉はただ一言、そうか、と呟いて頭を抱えた。
「謎の組織のリーダー格の人物像は判明したが─────組織の指示系統や横の繋がり、薬物の入手ルートは依然不明なままだな」
けどまぁ、と小泉は呆れたような表情を浮かべながら言った。
「それだけの相手と抗争を繰り広げてよくもまあ無事で帰って来れたものだ」
今回はやむを得なかったんだろうが次回からは気をつけなさい、と小泉はいつものように小言を言ってくる。
まあな。
実際、俺は何にもしてねぇし。
頑張ってバトルしてたのはウォンや湯浅、佑ニーサンに概史だ。
俺は戦力にすらなってねぇんだ。
ほんと使えねぇな。
実はあの後───────鈴木先輩からウォンが帰国した後の次期総長にって打診されたんだよ。
この俺がだぜ?一番何もしてなかったのにさ?
けど、俺は卑怯だからさ。即答しなかったんだ。
『考えさせてください』なんてそれらしい事言っちゃってさ。
保留だよ、保留。情けねぇよな。
でもしょうがねぇじゃねぇか。
今の俺にはわからない。自分が何を守りたいかなんて。
鈴木先輩はまた笑って俺の頭を撫でたんだ。
『佐藤が守りたいもの、やりたい道がわかったら遠慮のう進めぇよ。それまで時間はまだあるじゃろ』
俺が守りたいもんってなんだろうな?
ぼんやりと小泉の顔を眺める。
そういえば───────インパクトのあり過ぎる抗争に巻き込まれたせいですっかり忘れてたが────────
俺は突然、例の夢の内容を思い出してしまう。
夢の中で乱れた姿の小泉が脳裏をよぎり、俺は不意に動揺する。
目のやり場に困る。
罪悪感でいっぱいになった俺は小泉の顔を直視出来なくなった。
俺の気持ちを知ってか知らずか、小泉は思い付いたようにこう叫ぶ。
「……そうだ!私の先輩で結婚式場勤務の人がいてな。もしかしたら格安で行ける裏メニューとかあるかもしれないぞ!?」
ちょっと電話してくる、と小泉は急いで席を立った。
残された俺はぼんやりと昨日の出来事を反芻する。
あれは現実だったんだろうか。
奇妙な呪いとその夢に支配されている俺は───────何が現実か夢か、時々わからなくなる。
もしも今、俺が居るのが夢の世界で────────向こうの世界の方が現実だったら?
いや。
もしそうだとしたら俺は小泉で童貞を捨てたことになるじゃねぇか。
俺は首を振った。
そんな筈はないんだ。
俺と小泉に限って、そんなシチュになる筈は────────
しばらく経って小泉が慌てて社務所に戻って来た。
「おい佐藤、あったぞ!神がかったタイミングでキャンセルが出た非公開の枠があるって─────!」
なんと、意外なことに。
婚約破棄だかなんだかは判らないが、予約を取って前払いしておきながらキャンセルを申し出たカップルがあった様で─────────式までの日程が近いせいもあってか、とんでもない底値で挙式可能な日取りが一件だけ見つかったらしい。
そんなこんなで三週間後────────────鈴木先輩夫妻は例の大聖堂で挙式を挙げることになったのだった。
俺は小泉に会いに神社の社務所に向かった。
前の日にあった出来事──────── そこで一番大事だと俺が思った部分は小泉には伝えなかった。
まあ、そうだよな。
それは俺だけの感情で────────自分の中に閉じ込めておきたいと思ったからだ。
ただ、これからの事を考えると愚羅淫怒(グラインド)陣営や謎の多い組織『C ∴M ∴』の件は報告する必要はあった。
俺の話を聞き終わった小泉はただ一言、そうか、と呟いて頭を抱えた。
「謎の組織のリーダー格の人物像は判明したが─────組織の指示系統や横の繋がり、薬物の入手ルートは依然不明なままだな」
けどまぁ、と小泉は呆れたような表情を浮かべながら言った。
「それだけの相手と抗争を繰り広げてよくもまあ無事で帰って来れたものだ」
今回はやむを得なかったんだろうが次回からは気をつけなさい、と小泉はいつものように小言を言ってくる。
まあな。
実際、俺は何にもしてねぇし。
頑張ってバトルしてたのはウォンや湯浅、佑ニーサンに概史だ。
俺は戦力にすらなってねぇんだ。
ほんと使えねぇな。
実はあの後───────鈴木先輩からウォンが帰国した後の次期総長にって打診されたんだよ。
この俺がだぜ?一番何もしてなかったのにさ?
けど、俺は卑怯だからさ。即答しなかったんだ。
『考えさせてください』なんてそれらしい事言っちゃってさ。
保留だよ、保留。情けねぇよな。
でもしょうがねぇじゃねぇか。
今の俺にはわからない。自分が何を守りたいかなんて。
鈴木先輩はまた笑って俺の頭を撫でたんだ。
『佐藤が守りたいもの、やりたい道がわかったら遠慮のう進めぇよ。それまで時間はまだあるじゃろ』
俺が守りたいもんってなんだろうな?
ぼんやりと小泉の顔を眺める。
そういえば───────インパクトのあり過ぎる抗争に巻き込まれたせいですっかり忘れてたが────────
俺は突然、例の夢の内容を思い出してしまう。
夢の中で乱れた姿の小泉が脳裏をよぎり、俺は不意に動揺する。
目のやり場に困る。
罪悪感でいっぱいになった俺は小泉の顔を直視出来なくなった。
俺の気持ちを知ってか知らずか、小泉は思い付いたようにこう叫ぶ。
「……そうだ!私の先輩で結婚式場勤務の人がいてな。もしかしたら格安で行ける裏メニューとかあるかもしれないぞ!?」
ちょっと電話してくる、と小泉は急いで席を立った。
残された俺はぼんやりと昨日の出来事を反芻する。
あれは現実だったんだろうか。
奇妙な呪いとその夢に支配されている俺は───────何が現実か夢か、時々わからなくなる。
もしも今、俺が居るのが夢の世界で────────向こうの世界の方が現実だったら?
いや。
もしそうだとしたら俺は小泉で童貞を捨てたことになるじゃねぇか。
俺は首を振った。
そんな筈はないんだ。
俺と小泉に限って、そんなシチュになる筈は────────
しばらく経って小泉が慌てて社務所に戻って来た。
「おい佐藤、あったぞ!神がかったタイミングでキャンセルが出た非公開の枠があるって─────!」
なんと、意外なことに。
婚約破棄だかなんだかは判らないが、予約を取って前払いしておきながらキャンセルを申し出たカップルがあった様で─────────式までの日程が近いせいもあってか、とんでもない底値で挙式可能な日取りが一件だけ見つかったらしい。
そんなこんなで三週間後────────────鈴木先輩夫妻は例の大聖堂で挙式を挙げることになったのだった。
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