[200万PV達成]それを捨てるなんてとんでもない!〜童貞を捨てる度に過去に戻されてしまう件〜おまけに相手の記憶も都合よく消えてる!?

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ep9

ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 それぞれが求める体温

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「……煙草、辞めたんじゃなかったんですか?」

どう声を掛けていいものか分からなかった俺は───────こともあろうにとんでもなく失礼な事を口にしてしまう。

まあ、こういう時だけじゃ、と鈴木先輩は苦笑いしながら煙草の煙を吐き出した。

「俺にも一本くれませんか?」

ヤケクソ気味でそう告げた俺の頭を鈴木先輩はぐしゃぐしゃと撫でた。

「馬鹿たれが。子どもが吸うもんじゃにゃあわ」

俺の手のひらにポトリと何かが落ちる。

「ほら。これでも食うとれぇや」

それは──────────チュッパチャップスのコーラ味だった。

そうか。

そうだよな。

鈴木先輩から見れば俺は弟分なんてもんじゃない、子どもと変わらないんだ。

さっきの抗争でも──────ウォンや湯浅、佑ニーサン、それに年下の筈の概史までちゃんと抵抗して戦力になってたじゃないか。

俺だけだ。

俺だけが何の力にもなってない。

雑魚敵の一人も討伐してないんだ。

クソだな。

鈴木先輩はこんなに凄かったのに─────────俺はなんてゴミなんだろう。

それに。

一番大切な場面で何も言えなかった。

本当に何一つ出来なかったんだ。

挙句に知らなくてもいいような事を盗み聞きしたと来たもんだ。

最低だな。

愚羅淫怒(グラインド)陣営のモブども─────────タブチみたいなチンピラですら、何回やられても起き上がって立ち向かって来たじゃねぇか。

なんやかんやでアイツら、骨があるんじゃねぇのか?

だって目の前で演舞みたいな超必殺技使ってる強キャラの鈴木先輩相手に怯まず突っ込んで来たもんな?

多分、この中で俺が一番チキンでクズなんだ。

誰も守れなかった。

知らなくていい秘密を知ってしまった。

自分で自分が心底嫌になる。

言い知れない無力感と虚無感、体の芯からじわじわと侵食してくる焦燥感のようなものに耐えられず、俺は開封したチュッパチャップスを奥歯で噛み砕いた。

奥歯が折れそうになる。

でもそれでも良かった。

今の俺は何かを壊さなきゃ自分が壊れそうなんだ。

俺が異様な様子でチュッパチャプスを噛んでいるのを見た鈴木先輩は少し黙った後、口を開いた。

「……どうしたんじゃ佐藤。お前らしゅうない」

俺は泣きそうになるのを必死で堪えながら首を横に振った。

自分で自分が許せない。

だけど、それ以上に───────────

抱えてしまった秘密の重さに俺は震えていた。

怖かったんだ。

この秘密を俺は一生抱えなきゃいけない。

知られる訳にはいかないんだ、この人には─────────

俺は改めて鈴木先輩の顔を見た。

整った端正な顔立ちだ。

俺の顔を見つめるその表情はどこまでも優しくて────────それが余計に俺を苦しくさせた。

鈴木先輩の幸せを壊す訳にはいかない。

知られちゃいけないんだ。このことは────────

鈴木先輩は今までの自分を捨てて、奥さんと子どもたちの為に生きる道を選んだんだ。

もしそれが偽物の人生で───────間違った選択肢だったなんて知られたら。

俺は更に奥歯でチュッパチャップスを噛み砕いた。

口の中は尖った飴の破片でジャリジャリしている。

情けないことに俺は───────どうしようもなく自分の感情を止められなくなって涙を落としてしまう。

違う。泣きたい訳じゃないのに───────

今泣いたりしたら不自然じゃないか。

鈴木先輩に不審に思われるだろ。

泣き止めよ、俺。

自分で自分の事をコントロールすら出来ないんだ。馬鹿だよな。情けない。涙がとめどなく溢れてくる。

鈴木先輩、と俺は堪らず先輩の名を呼ぶ。

駄目だ。

こんなこと、口にすべきじゃないんだ。

なのに────────

自分の中からあらゆる感情が溢れ出してしまう。

一度決壊した感情と言葉はもう自分でも止められなかった。

「……先輩。鈴木先輩は今────────」


幸せですか、と俺は掠れた声を絞り出すように吐き出した。

「……」

鈴木先輩は黙ったまま新しい煙草を咥え、黙って火を付けた。

二度三度、深くそれを吸うと───────鈴木先輩はこう口を開いた。

「佐藤、お前────────八宇からなんか聞いたんか?」

俺は黙っていた。返事をしないのが肯定になっていた。

俺は堪らず泣き始めてしまう。

駄目だ。

なんてみっともないんだろう。

カッコ悪すぎじゃねぇか。

俺は鼻水も何もかも垂れ流しながら嗚咽を上げる。

鈴木先輩はただ一言、こう言った。

「知っとったで。全部」

……え?と俺は聞き返す。

鈴木先輩は煙草の煙を吐き出しながらこう続ける。

「八宇のヤツ、悪女でも気取った風に言うとったじゃろ。でもそんなん最初から全部わかっとったけぇの」

バレバレなんじゃ、と鈴木先輩は煙草の灰を落としながら苦笑する。

「ワシな、酒はそこそこ強い方なんじゃ。弱い酒なんかじゃ前後不覚なんかにはならんけぇ」

……え!?

俺がよっぽど驚いた表情をしていたからだろうか。鈴木先輩は優しい表情でこう付け加える。

「一目惚れ…‥っちゅうんかのう。あの時、何もかもをかなぐり捨てて俺に酒を勧めて来た八宇がのう、堪らんほど可愛ゆうて──────」

それから一呼吸置いてまたこう続けた。

「震える手で差し出して来たゴムに穴が開いとるのだって解っとった。本人はバレてないつもりだったんじゃろうがの」

俺達の間を秋の夜風が吹く。

頬を撫でるその温度は心地よく感じられた。

「悪女を気取って、でもなりふり構わずこんな手段まで使おうとする八宇に───────ワシは心底惚れてしもうたんじゃ」

鈴木先輩は俺の頭を優しく撫でた。

「確かにワシはずっと桃香が好きじゃった。でも、どんなに好きでもそっけない態度を取られたら──────やっぱり何処かで心が折れるもんなんかもしれん」

「……」

俺は黙ったまま鈴木先輩の話の続きに耳を傾けた。

「どんなにアタックしても振り向いてくれん桃香より────────全身体当たりの自爆覚悟でワシにぶつかって来てくれた八宇の方に心が動いてしもうたんじゃ」

ダメかのぅ?と問いかける鈴木先輩に対し、俺はブンブンと首を振った。

秋の夜風の風はどこまでも優しく俺を撫でる。

あの、と俺は口を開く。

「八宇さんはそのことは……?」

俺がそう尋ねると、鈴木先輩はいつものようにガハハと笑った。

「知らん筈じゃ。ワシも一生言うつもりはないけぇの。狸と狐の化かし合いみたいなもんじゃ」

まあ、今際の際にでも言うてやるかのう、という鈴木先輩の言葉にまた俺は泣きそうになる。

「八宇は一生、ワシに罪悪感を抱えたままで───────でも一生ワシから離れられんようになったじゃろ?」

じゃけぇお互い様なんじゃ、という鈴木先輩の言葉に安堵した俺は声を上げて泣いてしまう。

どうしてだかわからない。

でも、涙が止まらないんだ。

「……佐藤、おみゃあは優しい奴じゃのう。さっきも愚羅淫怒(グラインド)の奴を助けてやりょうたじゃろ?」

ワシは見とったで、と言いながら鈴木先輩が俺の背中をポンポンと叩く。

鈴木先輩の大きな優しい手と温かいぬくもりに、俺は大声を上げて泣いた。









大きくて優しい手に包まれながら───────────鈴木先輩みたいな人が父ちゃんだったら良かったのに、と心の底から思った。












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