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ep9
ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 祭りの後、不可逆的に失われたものとその世界
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さっきまでの喧騒が嘘のように空き地は静まりかえっていた。
何処からパクってきたんだか知らないが、佑ニーサンはロードローラーを返して来ると言って消えていった。
馬場と金髪の常識人っぽい奴、二人の愚羅淫怒(グラインド)陣営がシスターを連れて帰った様子だった。
気付かない間に鬼怒川と武者小路には逃げられていた。
まあ、この状況で深追いなんて出来ねぇしな。丁度いいだろう。
残った雑魚どもやオーディエンスも居なくなり──────意気投合した概史とウォン、湯浅達はファミレスで打ち上げするとか言って帰っていった。緊迫感のない奴らだよな。
いや。
何も知らないアイツらからしたら大乱闘のスマッシュパーティ、お祭り感覚だったんだろう。
祝勝会しようってのもまあ無理はない。
───────今回の件の真相を知ってるのは俺だけなんだからな。
けど、どうして俺なんだろう。
俺が知る必要なんてあったか?
荷が重すぎる。
背負いきれない秘密の重さに俺は絶望的な気分になる。
空き地の中央、割れたガラス瓶の辺りで鈴木先輩は一人で佇んでいた。
───────家に帰らないのか?
奥さんや子ども達が先輩のことを待ってるんじゃないのか?
無言のまま、ただ立ち尽くしている先輩にどう声を掛けていいものか悩む。
先輩は俺の気配に気付くとゆっくりと振り返り、少し笑った。
「……すまんな、佐藤にも迷惑かけたのう」
まさかこぎゃあな事になるとは思うてなかったけぇな、と鈴木先輩は呟きながら咥えた煙草に火を付けた。
その横顔はどこまでもカッコいい。
なんて綺麗な表情なんだろう、と思いながら俺は鈴木先輩のことを眺めていた。
俺と似てる?冗談言っちゃいけない。鈴木先輩は世界一カッコいいんだ。
俺とは違う。男が羨むこの世の全てを持ってる存在なんだ。
だけど。
鈴木先輩が全てを捨ててまで選んだ人生が───────間違ったものだったとしたら?
本来なら存在し得なかった世界線に居るのだとしたら。
泣き崩れる目隠しシスターの表情が脳裏によぎる。
ラスボス的なポジションだから絶対的に悪い奴だって思い込んでたが───────果たして本当にそうだったんだろうか?
あのシスター、元は一般人だったんだろ?
それも単なる──────鈴木先輩と幼馴染のごく普通の女子高生だった筈だ。
二人は付き合ってこそないものの、かなり親密な間柄で─────────
何気ない二人の日常が永遠に続くものって信じてたんだよな、あのシスターはさ。
そう考えると───────どうしてだか俺の心臓はキュッと痛んだ。
大好きな人が側に居て、いつもの日常をいつものように過ごしててさ。
二人の未来が不可逆的な形で突然失われるなんて思ってもみなかったんだろう。
そう考えると─────────かつてのあのシスター、春崎桃香にそこまでの落ち度があったとは俺には思えない。
じゃあどうするのが正解だったんだ?
童貞の俺には何もわからない。
何が正解だったかなんて誰にもジャッジ出来ないんだ。
何処からパクってきたんだか知らないが、佑ニーサンはロードローラーを返して来ると言って消えていった。
馬場と金髪の常識人っぽい奴、二人の愚羅淫怒(グラインド)陣営がシスターを連れて帰った様子だった。
気付かない間に鬼怒川と武者小路には逃げられていた。
まあ、この状況で深追いなんて出来ねぇしな。丁度いいだろう。
残った雑魚どもやオーディエンスも居なくなり──────意気投合した概史とウォン、湯浅達はファミレスで打ち上げするとか言って帰っていった。緊迫感のない奴らだよな。
いや。
何も知らないアイツらからしたら大乱闘のスマッシュパーティ、お祭り感覚だったんだろう。
祝勝会しようってのもまあ無理はない。
───────今回の件の真相を知ってるのは俺だけなんだからな。
けど、どうして俺なんだろう。
俺が知る必要なんてあったか?
荷が重すぎる。
背負いきれない秘密の重さに俺は絶望的な気分になる。
空き地の中央、割れたガラス瓶の辺りで鈴木先輩は一人で佇んでいた。
───────家に帰らないのか?
奥さんや子ども達が先輩のことを待ってるんじゃないのか?
無言のまま、ただ立ち尽くしている先輩にどう声を掛けていいものか悩む。
先輩は俺の気配に気付くとゆっくりと振り返り、少し笑った。
「……すまんな、佐藤にも迷惑かけたのう」
まさかこぎゃあな事になるとは思うてなかったけぇな、と鈴木先輩は呟きながら咥えた煙草に火を付けた。
その横顔はどこまでもカッコいい。
なんて綺麗な表情なんだろう、と思いながら俺は鈴木先輩のことを眺めていた。
俺と似てる?冗談言っちゃいけない。鈴木先輩は世界一カッコいいんだ。
俺とは違う。男が羨むこの世の全てを持ってる存在なんだ。
だけど。
鈴木先輩が全てを捨ててまで選んだ人生が───────間違ったものだったとしたら?
本来なら存在し得なかった世界線に居るのだとしたら。
泣き崩れる目隠しシスターの表情が脳裏によぎる。
ラスボス的なポジションだから絶対的に悪い奴だって思い込んでたが───────果たして本当にそうだったんだろうか?
あのシスター、元は一般人だったんだろ?
それも単なる──────鈴木先輩と幼馴染のごく普通の女子高生だった筈だ。
二人は付き合ってこそないものの、かなり親密な間柄で─────────
何気ない二人の日常が永遠に続くものって信じてたんだよな、あのシスターはさ。
そう考えると───────どうしてだか俺の心臓はキュッと痛んだ。
大好きな人が側に居て、いつもの日常をいつものように過ごしててさ。
二人の未来が不可逆的な形で突然失われるなんて思ってもみなかったんだろう。
そう考えると─────────かつてのあのシスター、春崎桃香にそこまでの落ち度があったとは俺には思えない。
じゃあどうするのが正解だったんだ?
童貞の俺には何もわからない。
何が正解だったかなんて誰にもジャッジ出来ないんだ。
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