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ep9
ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 有り難くない予言
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どうすりゃあいいんだ……
全身から冷や汗が流れて止まらない。
こんな種類の恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。
言語化できない────────説明できない類の感情。
時間が流れるのが恐ろしく長く、拷問のように感じられた。
地獄のような沈黙に押し潰されそうになる。
すると。
奥さんが不意に口を開いた。
「佐藤くんは─────────八宇のことを軽蔑していますか?」
なんて答えにくい質問だろう。
俺にそんなことを聞いてどうしようってんだ?
しかも今更────────それを他人である俺に聞いて何になるっていうんだろうか。
俺はただ一言、わかりません、とだけ答えた。
それ以外に答えようがなかった。
「……佐藤くんにもいつかきっとわかる日が来ますよ」
奥さんは俺の目を見ず遠くを見ながら呟いた。
「八宇にはわかります。あなたにはいずれ───────大切なものを守るために何かを捨てる時が必ず来るって」
……どうしてです?と俺は聞き返す。
なんでそんな事言い切れるんだ。俺のこと何も知らないくせにさ。占い師かよ。
奥さんは少し笑ってこう答えた。
「だって佐藤くんは────────有斗くんとどこか似ていますから」
俺が?
鈴木先輩に?そんな筈ねぇだろ。どこがだよ。似てるとこなんて一つもねぇよ。
鈴木先輩は完璧で究極、男にとっての憧れで全てを持ってる人なんだからさ。俺とは違うんだ。
その完璧な鈴木先輩を騙し討ちして───────人生の全部を攫ったのは奥さんの方じゃねぇか。
もういい加減にしてくれ。そういう話はさ。
俺も何かを守るために何かを捨てるって?
そりゃあなんだ?倫理観か?自分の良心?それとも人としての道か?
自分のやったことを正当化したいだけなんじゃないのか、それは。
うんざりだった。
俺を巻き込まないでくれよ、と思いながら俺は時間が経つのをひたすら願った。
どれくらい時間が経っただろうか。
廃墟の前で車が止まった音がした。
ドアを開けると、そこには白のミニバンが停まっていた。
運転席には40代後半くらいの女性の姿が見える。
「……あの。車が来たみたいですけど」
お母さんですか?と俺は特に深く考えずに奥さんに声をかける。
「いえ。あれはお婆ちゃんですよ」
え!?
お婆ちゃん!?
お婆ちゃんというとウチの婆さんやスエカ婆ちゃんみたいに70~80代のイメージしかなかった俺は戸惑う。
若過ぎじゃね!?
「正確にはお婆ちゃんの妹で大叔母なんですけど────────後継ぎが居ないから有斗くんと八宇が養子に入ったんです」
ああ見えてもう63なんですよ、と俺の戸惑いを他所に奥さんはニッコリと笑い外に出た。
63!?それにしちゃ若過ぎね!?
車の窓からはチャイルドシートに乗った幼児と赤ん坊が見える。
幼児は奥さんの姿を見つけると、キャッキャと笑い声を上げて手を振った。
「……じゃあ、お先に失礼しますね」
奥さんは軽く会釈すると助手席に乗り、車は程なくして出発した。
何が何だか意味がわからない。
一人取り残された俺は廃墟の前でただ、呆然と立ち尽くすより他なかった。
全身から冷や汗が流れて止まらない。
こんな種類の恐怖を感じたのは生まれて初めてだった。
言語化できない────────説明できない類の感情。
時間が流れるのが恐ろしく長く、拷問のように感じられた。
地獄のような沈黙に押し潰されそうになる。
すると。
奥さんが不意に口を開いた。
「佐藤くんは─────────八宇のことを軽蔑していますか?」
なんて答えにくい質問だろう。
俺にそんなことを聞いてどうしようってんだ?
しかも今更────────それを他人である俺に聞いて何になるっていうんだろうか。
俺はただ一言、わかりません、とだけ答えた。
それ以外に答えようがなかった。
「……佐藤くんにもいつかきっとわかる日が来ますよ」
奥さんは俺の目を見ず遠くを見ながら呟いた。
「八宇にはわかります。あなたにはいずれ───────大切なものを守るために何かを捨てる時が必ず来るって」
……どうしてです?と俺は聞き返す。
なんでそんな事言い切れるんだ。俺のこと何も知らないくせにさ。占い師かよ。
奥さんは少し笑ってこう答えた。
「だって佐藤くんは────────有斗くんとどこか似ていますから」
俺が?
鈴木先輩に?そんな筈ねぇだろ。どこがだよ。似てるとこなんて一つもねぇよ。
鈴木先輩は完璧で究極、男にとっての憧れで全てを持ってる人なんだからさ。俺とは違うんだ。
その完璧な鈴木先輩を騙し討ちして───────人生の全部を攫ったのは奥さんの方じゃねぇか。
もういい加減にしてくれ。そういう話はさ。
俺も何かを守るために何かを捨てるって?
そりゃあなんだ?倫理観か?自分の良心?それとも人としての道か?
自分のやったことを正当化したいだけなんじゃないのか、それは。
うんざりだった。
俺を巻き込まないでくれよ、と思いながら俺は時間が経つのをひたすら願った。
どれくらい時間が経っただろうか。
廃墟の前で車が止まった音がした。
ドアを開けると、そこには白のミニバンが停まっていた。
運転席には40代後半くらいの女性の姿が見える。
「……あの。車が来たみたいですけど」
お母さんですか?と俺は特に深く考えずに奥さんに声をかける。
「いえ。あれはお婆ちゃんですよ」
え!?
お婆ちゃん!?
お婆ちゃんというとウチの婆さんやスエカ婆ちゃんみたいに70~80代のイメージしかなかった俺は戸惑う。
若過ぎじゃね!?
「正確にはお婆ちゃんの妹で大叔母なんですけど────────後継ぎが居ないから有斗くんと八宇が養子に入ったんです」
ああ見えてもう63なんですよ、と俺の戸惑いを他所に奥さんはニッコリと笑い外に出た。
63!?それにしちゃ若過ぎね!?
車の窓からはチャイルドシートに乗った幼児と赤ん坊が見える。
幼児は奥さんの姿を見つけると、キャッキャと笑い声を上げて手を振った。
「……じゃあ、お先に失礼しますね」
奥さんは軽く会釈すると助手席に乗り、車は程なくして出発した。
何が何だか意味がわからない。
一人取り残された俺は廃墟の前でただ、呆然と立ち尽くすより他なかった。
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