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ep9

ep9『ナイト・オブ・ファイヤー』 MADE OF FIRE

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鈴木先輩が頭上に棒を握った右手を掲げ、大きく回転させる。

真っ暗になった空き地に炎の輪が出現し、激しく揺らめく。

周囲のオーディエンスからは恐れにも似た声が上がる。

「こ……こんなん見かけ倒しだろうが!」

愚羅淫怒(グラインド)側のメンバーだろう。イキったガキが鉄パイプで鈴木先輩に殴りかかる。

鈴木先輩は大きくその身体を捻り、ガキの脇腹を横蹴りで吹っ飛ばした。

ギャっという潰れたカエルのような悲鳴を上げ、ガキは後方に吹っ飛ばされる。

「久しぶりじゃけぇ、加減ができんわ。お前ら、怪我しとう無かったら早う帰るんじゃな」

鈴木先輩は少し申し訳無さそうな表情を浮かべそう宣言した。

手加減しててこの威力かよ。

俺と概史は言葉を失ったまま、鈴木先輩の動きを見守るしか出来ない。

「サシだとやり過ごせたみてェだがよォ~?複数だと相手出来ねぇよなァ~!?」

あ、さっきの頭おかしい兄ちゃんじゃねぇか。

イカれた兄ちゃんの合図で複数人が一斉に鈴木先輩に襲いかかる。

タブチだっけ?大丈夫か?

角材だのツルハシだのを持った連中がバラバラに散らばり、鈴木先輩を取り囲んだ。

鈴木先輩は顔色一つ変えず、金属棒をぶん回し間合いを詰められないようにしつつ、身体を捻って回し蹴りを横や後方に繰り出す。

炎の輪の威力とビジュアルで相手を怯ませておいて正面からは攻撃せず、奇襲気味に左右や後方に一撃を喰らわす喧嘩スタイルなのか。

これでも手加減してるってんだから驚きだ。

炎の輪のリーチが長くて迂闊に間合いに入れないし、そもそも鈴木先輩の体格もいいから蹴りの方も入ればダメージがデカい。

そもそも、180近い身長で脚も長いから回し蹴りの方のリーチも長いんだろう。

なんだよこりゃ、文字通り無双じゃねぇか。

おそらくだが愚羅淫怒(グラインド)の連中のへっぴり腰具合から見ると──────────向こうは実戦に慣れて無いんだろう。

喧嘩の仕方が解ってねぇんだな。

向かってくる雑魚どもを片っ端からぶっ飛ばしていく鈴木先輩を眺めながら、俺は安堵した。

「勝ち確ってのはこういう状況を言うんだな」

俺らが来なくても楽勝だったんじゃね?と概史と話していると───────背後から何者かがこう呟いた。

「いや。そうとも言い切れませんよ」

振り向くと俺達のすぐ後ろに、チー牛風の男が立っていた。

いつの間に背後に!?

全く気配を感じさせなかったんだが─────────

「え?誰?怖……」

思わず俺がそう口にすると、チー牛っぽい男はこう自己紹介してくる。

「初めまして……ですね。当方は羽威刄闇(ワイバーン)の現・技術(メカニック)担当をさせて頂いております、湯浅と申します」

チー牛っぽい男はそう名乗り、黒縁の眼鏡の端をクイと持ち上げた。

『羽威刄闇(ワイバーン)の技術(メカニック)担当!?』

俺と概史は同時に聞き返す。

「いや、それよりアンタ……さっき言った『勝ち確』じゃねぇって──────」

どう言う意味だ?!と俺が問い詰めるように訊くと湯浅は頷いた。

「ええ……内藤さんの持つ武器は基本的には“市販の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を二台⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎してある”だけの単純な構造の代物です」(※1)

「え!?」

何それ!?どゆこと!?市販品!?

それってホームセンターとかネットで買える奴じゃん!?

「まあ、少し弄ってはいますが……火力の強さを実現させる為、燃料は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ではなく⬛︎⬛︎を使用しているタイプの物を採用しています」(※2)

しかし、と湯浅は続けた。

「それ故に弱点もあるのです」

は!?

「弱点!?」

俺は思わず聞き返す。

馬鹿な。

目の前の鈴木先輩の─────────────演舞のように流れる完璧な動きはさながら鬼神のようじゃないか。

ええ、と頷きながら湯浅はまた眼鏡のフチを持ち上げながらこう言った。

「アレは……燃料の消費が早いんです。補充もこの状況では出来ませんし」

なんだって!?

俺と概史は顔を見合わせた。

鈴木先輩の『炎の輪』には制限時間がある!?











という事は────────────早くカタを付けねぇと、戦況が逆転しちまうって事もあり得るのか!?



























(※1)
理論上、再現も可能ですが危険なので決して真似をしないで下さい。

(※2)
安全の為、作中では具体的な名称や方法は伏せています。


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