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ep9
ep9『夢千夜』 “偽りの花嫁” 第三十夜
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「おいおいおい……」
小泉が呆れたように呟く。
「いつもは陰キャチー牛だの汚部屋女だのと散々な事を言いたい放題なのにどうした?」
お前らしくないな、と小泉は少し警戒するような素振りで俺の様子を窺う。
いや、と俺はそれを否定した。
「……そんなん……嘘だよ」
いや、嘘ってよりただちょっと盛ってただけで、と俺は言い訳がましく弁解する。
床に自撮り棒が付けられたままのスマホが転がっているのが見えた。
何かのボタンに触れたままになっているからだろうか。画面もカメラロールも開いたままになっている。
アプリでバキバキに加工しまくっている小泉の自撮り花嫁写真がそこには並んでいた。
だけど。
俺は知ってる。加工だのフィルターだのなんて要らないんだ。
そんなもの無くたって────────
「……今日のセンセェ、本当に綺麗だって思った」
それに、と俺は一呼吸置いて小泉の顔を見ながらこう続けた。
「さっきのセンセェ、なんか人魚姫みたいだって気がしたんだ」
「───────!」
千切れた首飾り。空中に飛び散り、降り注ぐ雫のような真珠。
お世辞でもなんでもなく俺はその瞬間……直感的にそう思ったんだよ。
小泉は少しの間黙り、それから小さくこう言った。
「……そうか。人魚姫か……」
それきり、小泉が何も言わなくなってしまったので俺は不安になる。
俺は何か変な事を言ってしまっただろうか。
それとも。
小泉はシンデレラとか白雪姫の方が好みだったんだろうか。
なんと声を掛けていいのかわからなくなった俺は言葉を探していた。
不意にドアが激しくノックされ、俺と小泉は思わず振り返る。
「……ちょっと鏡花!?今、大変な事になってて───────」
血相を変えた根本さんが部屋に飛び込んでくる。
双方ともギョッとしたような表情を浮かべている。
マズい。
最悪の場面を見られた─────────────!?
小泉が呆れたように呟く。
「いつもは陰キャチー牛だの汚部屋女だのと散々な事を言いたい放題なのにどうした?」
お前らしくないな、と小泉は少し警戒するような素振りで俺の様子を窺う。
いや、と俺はそれを否定した。
「……そんなん……嘘だよ」
いや、嘘ってよりただちょっと盛ってただけで、と俺は言い訳がましく弁解する。
床に自撮り棒が付けられたままのスマホが転がっているのが見えた。
何かのボタンに触れたままになっているからだろうか。画面もカメラロールも開いたままになっている。
アプリでバキバキに加工しまくっている小泉の自撮り花嫁写真がそこには並んでいた。
だけど。
俺は知ってる。加工だのフィルターだのなんて要らないんだ。
そんなもの無くたって────────
「……今日のセンセェ、本当に綺麗だって思った」
それに、と俺は一呼吸置いて小泉の顔を見ながらこう続けた。
「さっきのセンセェ、なんか人魚姫みたいだって気がしたんだ」
「───────!」
千切れた首飾り。空中に飛び散り、降り注ぐ雫のような真珠。
お世辞でもなんでもなく俺はその瞬間……直感的にそう思ったんだよ。
小泉は少しの間黙り、それから小さくこう言った。
「……そうか。人魚姫か……」
それきり、小泉が何も言わなくなってしまったので俺は不安になる。
俺は何か変な事を言ってしまっただろうか。
それとも。
小泉はシンデレラとか白雪姫の方が好みだったんだろうか。
なんと声を掛けていいのかわからなくなった俺は言葉を探していた。
不意にドアが激しくノックされ、俺と小泉は思わず振り返る。
「……ちょっと鏡花!?今、大変な事になってて───────」
血相を変えた根本さんが部屋に飛び込んでくる。
双方ともギョッとしたような表情を浮かべている。
マズい。
最悪の場面を見られた─────────────!?
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