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ep9
ep9『夢千夜』 “偽りの花嫁” 第十九夜
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コトリ、と音を立てて何かが床に落ちた。
それは夕貴さんの小さなバッグに付いていた────────マタニティマークのキーホルダーだった。
「ああああああああ!????」
誰かの叫び声が廊下に響く。
咆哮に似た絶叫。
誰の声だ?
聞き覚えがある声だ。
いや。
違う。
───────これは俺の声だ。
混乱、混濁した意識が飛びそうになる。
甲高い女性の叫び声が背後から聞こえた。
そこで固まっていたのは根元さんだった。
ぐわ、という潰れたカエルのような声を上げてダウンジャケットの男は床に組み伏せられる。
「……おっと。これ、どういうことなの?」
男を押さえつけているのは───────いつの間にか駆けつけていた佑ニーサンだった。
山崎紗奈!!山崎紗奈は何処だよ!!と男は半狂乱で叫ぶ。
「……え?山崎紗奈って───────」
根本さんが愕然としたように呟く。
「午後から挙式予定の新婦さんの事だけど……」
まさか。
「あれ~?もしかしてこのヒト、人違いで刺したって訳じゃないよねぇ~?」
佑ニーサンがやけに冷静に言ってのける。
人違い!?
────────そんな馬鹿な!?
人違いで夕貴さんは刺されたって言うのか!?
俺が反応するより早く、男が暴れ始める。
「どこだよ!?ここに居るんだろう!?山崎紗奈を出せ!!」
紗奈!!と別の女性の名前を叫んでいた男は鈍い音と共に悲鳴を上げた。
「あ~。暴れるからぁ~。余計な力が入って骨が折れちゃった~」
薄ら笑みを浮かべながら佑ニーサンが男の顔を覗き込む。
てか、なんでこんな事出来んだよ。
「ん~。通信講座で空手を習ってて良かったよ~」
何処か楽しそうですらある佑ニーサンを尻目に、由江さんがテキパキと指示をする。
「……救急車!早く!妊婦さんなんでしょう!?」
え……ええ、と根本さんが我に返ったように頷き、身に付けているインカムで何処かに連絡を入れる。
「エントランスに居る警備員さんの応援もお願い~。あと警察も~」
佑ニーサンも追加で男に制裁を加えながら根本さんに指示を出している。
ポキリという音と男の悲鳴が再び廊下に響いた。
また何処かの骨を折ったんだろうか。
まあいい、この位は正当防衛の範疇って事でどうにかなるだろう。
由江さんが夕貴さんの肩を抱き抱えながら、脈を見る。
「……傷はそこまで深くはないかもかもしれないけど──────お腹の赤ちゃんが無事かはわからないわ」
事態は一刻を争う。
このままだと夕貴さんの赤ん坊が……
そう思った俺は───────何かを考えるより早く走り出していた。
全力で廊下を走り、右手に曲がる。
突き当たりの部屋のドアをブチ破る勢いで開けた俺は、中に転がり込むように駆け込んだ。
「……センセェ!!」
まだウェディングドレスを着たままの小泉はギョッとしたように俺を凝視している。
「───────佐藤!?」
どうしてここに、と言い掛けた小泉の言葉を遮って俺は叫んだ。
「────────話は後だ!とりあえず黙って犯されてくれ!」
それは夕貴さんの小さなバッグに付いていた────────マタニティマークのキーホルダーだった。
「ああああああああ!????」
誰かの叫び声が廊下に響く。
咆哮に似た絶叫。
誰の声だ?
聞き覚えがある声だ。
いや。
違う。
───────これは俺の声だ。
混乱、混濁した意識が飛びそうになる。
甲高い女性の叫び声が背後から聞こえた。
そこで固まっていたのは根元さんだった。
ぐわ、という潰れたカエルのような声を上げてダウンジャケットの男は床に組み伏せられる。
「……おっと。これ、どういうことなの?」
男を押さえつけているのは───────いつの間にか駆けつけていた佑ニーサンだった。
山崎紗奈!!山崎紗奈は何処だよ!!と男は半狂乱で叫ぶ。
「……え?山崎紗奈って───────」
根本さんが愕然としたように呟く。
「午後から挙式予定の新婦さんの事だけど……」
まさか。
「あれ~?もしかしてこのヒト、人違いで刺したって訳じゃないよねぇ~?」
佑ニーサンがやけに冷静に言ってのける。
人違い!?
────────そんな馬鹿な!?
人違いで夕貴さんは刺されたって言うのか!?
俺が反応するより早く、男が暴れ始める。
「どこだよ!?ここに居るんだろう!?山崎紗奈を出せ!!」
紗奈!!と別の女性の名前を叫んでいた男は鈍い音と共に悲鳴を上げた。
「あ~。暴れるからぁ~。余計な力が入って骨が折れちゃった~」
薄ら笑みを浮かべながら佑ニーサンが男の顔を覗き込む。
てか、なんでこんな事出来んだよ。
「ん~。通信講座で空手を習ってて良かったよ~」
何処か楽しそうですらある佑ニーサンを尻目に、由江さんがテキパキと指示をする。
「……救急車!早く!妊婦さんなんでしょう!?」
え……ええ、と根本さんが我に返ったように頷き、身に付けているインカムで何処かに連絡を入れる。
「エントランスに居る警備員さんの応援もお願い~。あと警察も~」
佑ニーサンも追加で男に制裁を加えながら根本さんに指示を出している。
ポキリという音と男の悲鳴が再び廊下に響いた。
また何処かの骨を折ったんだろうか。
まあいい、この位は正当防衛の範疇って事でどうにかなるだろう。
由江さんが夕貴さんの肩を抱き抱えながら、脈を見る。
「……傷はそこまで深くはないかもかもしれないけど──────お腹の赤ちゃんが無事かはわからないわ」
事態は一刻を争う。
このままだと夕貴さんの赤ん坊が……
そう思った俺は───────何かを考えるより早く走り出していた。
全力で廊下を走り、右手に曲がる。
突き当たりの部屋のドアをブチ破る勢いで開けた俺は、中に転がり込むように駆け込んだ。
「……センセェ!!」
まだウェディングドレスを着たままの小泉はギョッとしたように俺を凝視している。
「───────佐藤!?」
どうしてここに、と言い掛けた小泉の言葉を遮って俺は叫んだ。
「────────話は後だ!とりあえず黙って犯されてくれ!」
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