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ep9
ep9『夢千夜』 “偽りの花嫁” 第十四夜
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「……ねぇ。もしかしてなんだけど」
背後からそう小さく声を掛けられた俺は振り返った。
「え?」
振り返るとそこに立っていたのは式場のスタッフと思しき若い女性だった。
ショートボブで凛とした顔立ちは拡張高いこの式場の雰囲気とよく合う。
知性を感じさせる空気を身に纏った女性からは圧倒的なオーラが感じられた。
なんかチーフとかマネージャーとかの偉い人?
え、マズい?
俺ってもしかして怒られる?
式場の人に何も言わずに夕貴さんと一緒に居たのが駄目だったんじゃね?
参加者はちゃんと受付でカウントしてる筈だけど──────
変なガキが式場に紛れ込んでるとか思われてる?
「……あ、あの。すいません。勝手に別行動してしまって───────」
おどおどとした返事を返すと、スタッフの女性は首を振った。
「……いや、そうじゃなくて──────!君ってもしかして」
鏡花のクラスの生徒さん?と訊かれた俺はテンパってしまう。
「───────!?」
あら、もしかして図星かしら、とスタッフの女性は驚いたような表情を浮かべた。
俺はこの女性の[根本香澄]というネームプレートをぼんやりと眺めた。
ん?『鏡花』って今言ったのか?
「えっと……もしかしてお姉さんがセンセェに花嫁役を打診したっていう──────────」
高校時代の先輩ですか、と俺が尋ねると女性は頷いた。
「そうなのよ!よく解ったわね」
それより、と根本さんは続けた。
「さっきね、模擬挙式の後の鏡花の様子がおかしかったものだから気になっちゃって───────」
「様子がおかしい?」
俺が思わず聞き返すと根本さんは再び大きく頷いた。
「そうなのよ。始まるまではウキウキでドレスの着付けをされてて自撮り写真もいっぱい撮りまくってたのよ」
なのにさっきは般若みたいに怖い顔しちゃってて、と根本さんは溜息をついた。
ヤバい。
ひょっとして俺のせいか?
いや。
ひょっとしなくても俺のせいなんじゃね?
来るなって言われたのに来たから怒ってんだろ?
背中に冷や汗がダラダラと流れる。
「あ……多分、俺のせいだと思います」
すいません、と小さく謝ると根本さんはブンブンと手を振る。
「違うのよ!気を使わせちゃって御免なさいね!」
あの子ったら相変わらず学校でもあんな調子なの?困った子だわ、という根本さんの言葉に俺は反応してしまう。
「“相変わらず”?小泉先生は学生時代はどんな様子だったんですか?」
そう質問すると根本さんはまた溜息をついた。
「あの子、ちょっと変わってる所があるでしょう?学生時代は周囲から浮いてて──────こっちも見ててヒヤヒヤしてたのよ」
なるほど。
小泉のマイペースぶりはその頃から既に完成されていたのか。
「ええ。学校じゃ美術準備室を私室化してやりたい放題やってますよ。マンガとかアニメグッズとか私物持ち込みまくりです」
俺がそう答えると根本さんは頭を抱えた。
「……呆れた。全然変わってないじゃないの」
全く、と根本さんは首をすくめると横の夕貴さんに視線を移す。
「……そういえば、君はどうしてこちらの方と一緒に?」
俺は今までの経緯を簡単に説明した。
「なるほど。了解したわ。それじゃ、次のフルコース試食の配膳はお姉さん達とは分けてこちらの方と同テーブルにしとくわね。厨房にも伝えておくわ」
どうやら、待ちに待ったフルコース試食会はこの後あるらしい。
「あ、御免なさいね。ちょっと次の段取りがあるから失礼するわ。それじゃ、ごゆっくり」
根本さんはそう言い残すと足早にその場を去っていった。
横で俺と根本さんとのやりとりを聞いていた夕貴さんは小さく笑う。
「え?何か笑うとこありました?」
俺がそう訊くと夕貴さんはこう答えた。
「ううん……なんかすっごく───────可愛いなって思って」
背後からそう小さく声を掛けられた俺は振り返った。
「え?」
振り返るとそこに立っていたのは式場のスタッフと思しき若い女性だった。
ショートボブで凛とした顔立ちは拡張高いこの式場の雰囲気とよく合う。
知性を感じさせる空気を身に纏った女性からは圧倒的なオーラが感じられた。
なんかチーフとかマネージャーとかの偉い人?
え、マズい?
俺ってもしかして怒られる?
式場の人に何も言わずに夕貴さんと一緒に居たのが駄目だったんじゃね?
参加者はちゃんと受付でカウントしてる筈だけど──────
変なガキが式場に紛れ込んでるとか思われてる?
「……あ、あの。すいません。勝手に別行動してしまって───────」
おどおどとした返事を返すと、スタッフの女性は首を振った。
「……いや、そうじゃなくて──────!君ってもしかして」
鏡花のクラスの生徒さん?と訊かれた俺はテンパってしまう。
「───────!?」
あら、もしかして図星かしら、とスタッフの女性は驚いたような表情を浮かべた。
俺はこの女性の[根本香澄]というネームプレートをぼんやりと眺めた。
ん?『鏡花』って今言ったのか?
「えっと……もしかしてお姉さんがセンセェに花嫁役を打診したっていう──────────」
高校時代の先輩ですか、と俺が尋ねると女性は頷いた。
「そうなのよ!よく解ったわね」
それより、と根本さんは続けた。
「さっきね、模擬挙式の後の鏡花の様子がおかしかったものだから気になっちゃって───────」
「様子がおかしい?」
俺が思わず聞き返すと根本さんは再び大きく頷いた。
「そうなのよ。始まるまではウキウキでドレスの着付けをされてて自撮り写真もいっぱい撮りまくってたのよ」
なのにさっきは般若みたいに怖い顔しちゃってて、と根本さんは溜息をついた。
ヤバい。
ひょっとして俺のせいか?
いや。
ひょっとしなくても俺のせいなんじゃね?
来るなって言われたのに来たから怒ってんだろ?
背中に冷や汗がダラダラと流れる。
「あ……多分、俺のせいだと思います」
すいません、と小さく謝ると根本さんはブンブンと手を振る。
「違うのよ!気を使わせちゃって御免なさいね!」
あの子ったら相変わらず学校でもあんな調子なの?困った子だわ、という根本さんの言葉に俺は反応してしまう。
「“相変わらず”?小泉先生は学生時代はどんな様子だったんですか?」
そう質問すると根本さんはまた溜息をついた。
「あの子、ちょっと変わってる所があるでしょう?学生時代は周囲から浮いてて──────こっちも見ててヒヤヒヤしてたのよ」
なるほど。
小泉のマイペースぶりはその頃から既に完成されていたのか。
「ええ。学校じゃ美術準備室を私室化してやりたい放題やってますよ。マンガとかアニメグッズとか私物持ち込みまくりです」
俺がそう答えると根本さんは頭を抱えた。
「……呆れた。全然変わってないじゃないの」
全く、と根本さんは首をすくめると横の夕貴さんに視線を移す。
「……そういえば、君はどうしてこちらの方と一緒に?」
俺は今までの経緯を簡単に説明した。
「なるほど。了解したわ。それじゃ、次のフルコース試食の配膳はお姉さん達とは分けてこちらの方と同テーブルにしとくわね。厨房にも伝えておくわ」
どうやら、待ちに待ったフルコース試食会はこの後あるらしい。
「あ、御免なさいね。ちょっと次の段取りがあるから失礼するわ。それじゃ、ごゆっくり」
根本さんはそう言い残すと足早にその場を去っていった。
横で俺と根本さんとのやりとりを聞いていた夕貴さんは小さく笑う。
「え?何か笑うとこありました?」
俺がそう訊くと夕貴さんはこう答えた。
「ううん……なんかすっごく───────可愛いなって思って」
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