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ep8
ep8『愚者の宝石と盲目の少女たち』 再生
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結局のところ、昔の時代だろうが現代だろうが関係ない。
俺には女子の考えてることなんか1ミリもわからない。
この一件で─────────俺が唯一得た教訓はそれだった。
その後。
美術室にこれ以上居ても小泉の蘊蓄を延々と聞かされるだけだと悟った俺は早々に退散し、保健室に逃げ込んだ。
「……何か用?」
ドアを開け、俺が室内に足を踏み入れる前に佐々木はそっけなく言い放つ。
つれないなぁ、と言いながら俺はパイプ椅子に勝手に座る。
「この後、後輩と遊ぶ約束しててさ。待ち合わせの時間までちょっとここで暇つぶしさせてくれよ」
俺がそう言うと、佐々木は忙しそうに手を動かしながら答える。
「──────今日はわたしも早めに切り上げる予定よ。こっちも約束があるの」
「へぇ?意外だな。お前が誰かと約束とか──────」
誰かとデートとかwと俺が少し揶揄うように言うと佐々木はため息をついた。
「おあいにくさま。デートの相手は上野さんよ。駅前の喫茶店に一緒に行こうって誘われたの」
なんでも、最近入ったアルバイトのギャルソンに物凄いイケメンが居るって話で、と佐々木は少し笑みを浮かべる。
「聞き上手でどんな話も聞いてくれるって言っててね。彼女、最近はそこの喫茶店に通い詰めてるそうよ」
なるほど、上野らしいな、と言いながら俺はぼんやりと相槌を打った。
「イケメンに釣られて行くなんてさ、お前も結構ミーハーなとこあるよな」
まあね、と佐々木は少し表情を固くした。
「これから情報収集の場になる可能性もある店だって思ったから、ま、念の為にね」
俺は忙しくペンを走らせる佐々木の手元を覗き込む。
「また何かの事件を追ってるのか?」
ああ、これは、と佐々木はため息をつく。
「わたしってこうして保健室登校って形にして貰ってるでしょう?一ヶ月に一回、近況報告のような形でレポートを提出しなきゃいけないのよ」
それがまた厄介なのよね、と佐々木はぼやく。
「は?お前ってこういうの得意だろ?パパッと書いちゃえばいいじゃん」
俺がそう言うと佐々木は首を振った。
「そうもいかないの。何せ、『困難を抱えて教室に登校出来ない生徒』を演じてる訳だから」
元気一杯にやる気に満ち溢れてても駄目だし、かと言って落ち込み過ぎてても心配されるし、と佐々木はペンを止めて考え込む素振りをみせる。
「なるほどなぁ。保健室登校って身分の性質上、あんまりポジティブ過ぎると『そろそろ教室で授業を受けたらどうだ?』的な提案をされるって事か」
そういうこと、と佐々木は頷く。
「……この匙加減がなかなか難しくてね。毎回悩みどころなのよ────────」
佐々木がため息をついた拍子に、消しゴムが机の上からポロリと落下する。
「おっと」
俺がそれを拾うと───────消しゴムとケースの隙間から『G』とマジックで書かれた文字がチラリと見えた。
「……ん?」
「ちょっ!!!!」
佐々木が珍しく慌てた様子で俺の手から消しゴムを奪い取った。
「……なんかさ、さっき消しゴムになんか字が書いてあんのチラっと見えたんだけど───────」
俺がそう言い掛けると、佐々木は珍しく感情を露わにした。
「ちょ……勝手に見ないでくれる!?これはその───────!!」
佐々木は何故か焦っているような表情を浮かべた。
「デ……データを入れてるマイクロSDカードを消しゴムに隠してカモフラージュしてて!!」
その為の識別記号だから!!と佐々木は耳を真っ赤にした。
「なんだよ……機密事項が入ってんのか」
おっかねぇな、と俺が呟くと佐々木は同調する。
「そう!これは極秘事項なの!だから貴方の目に触れさせる訳にはいかないの!」
はいはい、わーったよ、と適当に返事を返すと佐々木は俺の背中を押した。
「さあ、もう出ていって!わたしもこの後、ここを閉めて帰るから!」
極秘事項とやらを知られたくないのか───────妙な反応の佐々木に困惑しながら俺は保健室を後にした。
俺には女子の考えてることなんか1ミリもわからない。
この一件で─────────俺が唯一得た教訓はそれだった。
その後。
美術室にこれ以上居ても小泉の蘊蓄を延々と聞かされるだけだと悟った俺は早々に退散し、保健室に逃げ込んだ。
「……何か用?」
ドアを開け、俺が室内に足を踏み入れる前に佐々木はそっけなく言い放つ。
つれないなぁ、と言いながら俺はパイプ椅子に勝手に座る。
「この後、後輩と遊ぶ約束しててさ。待ち合わせの時間までちょっとここで暇つぶしさせてくれよ」
俺がそう言うと、佐々木は忙しそうに手を動かしながら答える。
「──────今日はわたしも早めに切り上げる予定よ。こっちも約束があるの」
「へぇ?意外だな。お前が誰かと約束とか──────」
誰かとデートとかwと俺が少し揶揄うように言うと佐々木はため息をついた。
「おあいにくさま。デートの相手は上野さんよ。駅前の喫茶店に一緒に行こうって誘われたの」
なんでも、最近入ったアルバイトのギャルソンに物凄いイケメンが居るって話で、と佐々木は少し笑みを浮かべる。
「聞き上手でどんな話も聞いてくれるって言っててね。彼女、最近はそこの喫茶店に通い詰めてるそうよ」
なるほど、上野らしいな、と言いながら俺はぼんやりと相槌を打った。
「イケメンに釣られて行くなんてさ、お前も結構ミーハーなとこあるよな」
まあね、と佐々木は少し表情を固くした。
「これから情報収集の場になる可能性もある店だって思ったから、ま、念の為にね」
俺は忙しくペンを走らせる佐々木の手元を覗き込む。
「また何かの事件を追ってるのか?」
ああ、これは、と佐々木はため息をつく。
「わたしってこうして保健室登校って形にして貰ってるでしょう?一ヶ月に一回、近況報告のような形でレポートを提出しなきゃいけないのよ」
それがまた厄介なのよね、と佐々木はぼやく。
「は?お前ってこういうの得意だろ?パパッと書いちゃえばいいじゃん」
俺がそう言うと佐々木は首を振った。
「そうもいかないの。何せ、『困難を抱えて教室に登校出来ない生徒』を演じてる訳だから」
元気一杯にやる気に満ち溢れてても駄目だし、かと言って落ち込み過ぎてても心配されるし、と佐々木はペンを止めて考え込む素振りをみせる。
「なるほどなぁ。保健室登校って身分の性質上、あんまりポジティブ過ぎると『そろそろ教室で授業を受けたらどうだ?』的な提案をされるって事か」
そういうこと、と佐々木は頷く。
「……この匙加減がなかなか難しくてね。毎回悩みどころなのよ────────」
佐々木がため息をついた拍子に、消しゴムが机の上からポロリと落下する。
「おっと」
俺がそれを拾うと───────消しゴムとケースの隙間から『G』とマジックで書かれた文字がチラリと見えた。
「……ん?」
「ちょっ!!!!」
佐々木が珍しく慌てた様子で俺の手から消しゴムを奪い取った。
「……なんかさ、さっき消しゴムになんか字が書いてあんのチラっと見えたんだけど───────」
俺がそう言い掛けると、佐々木は珍しく感情を露わにした。
「ちょ……勝手に見ないでくれる!?これはその───────!!」
佐々木は何故か焦っているような表情を浮かべた。
「デ……データを入れてるマイクロSDカードを消しゴムに隠してカモフラージュしてて!!」
その為の識別記号だから!!と佐々木は耳を真っ赤にした。
「なんだよ……機密事項が入ってんのか」
おっかねぇな、と俺が呟くと佐々木は同調する。
「そう!これは極秘事項なの!だから貴方の目に触れさせる訳にはいかないの!」
はいはい、わーったよ、と適当に返事を返すと佐々木は俺の背中を押した。
「さあ、もう出ていって!わたしもこの後、ここを閉めて帰るから!」
極秘事項とやらを知られたくないのか───────妙な反応の佐々木に困惑しながら俺は保健室を後にした。
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