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ep8
ep8『我が逃走』 Not Gonna Get Us その⑨ 終わりゆく世界
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さあどうだろうな、と少年は煙を燻らせた。
「この世界もあいつらも全部狂ってんだ」
じゃなきゃこうはならなかったんじゃねぇの、という少年の言葉を聞いた詐欺師は更に涙をポロポロと零した。
「……あれ、なんで僕、泣いてんだろ」
あ、悪ィ。さっきの痛かったよな、と少年は心底すまなさそうに呟いた。
「……いや」
詐欺師は静かに首を振った。
「死ぬほど痛かったよ。そりゃあさ。内臓とかあちこち破れるかと思ったし……人生最大にブチ切れてパニックにもなったし───────」
だけど、と詐欺師は続けた。
「ムカついて絶対にぶっ殺してやるって思ったのが9割だけど……けど、残りの1割────ううん、もっと少なくて5%、いや3%くらいは─────」
詐欺師は一呼吸置き、少し躊躇いながらこう言った。
「……ちょっと……ほんのちょっとだけ……満たされた気がしたんだ」
「────ハァ!?」
ギョッとした表情の少年は咥えていた煙草を思わず床に落とす。
「は?どういう意味だよ?もうすぐ何もかもが終わるからか?それとも───────」
罰せられたことで安心したとかそういう理屈か?と少年が尋ねると詐欺師はまた首を振った。
「ううん……ただ……ちょっとだけ……なんていうか……僕にもそういう価値があったんだなって思えて───────」
詐欺師は小さな声でこう付け加える。
「どんな理由であったにせよ……誰かに求められるってことがこんなにも自分の心を満たすなんて思ってもみなくて」
何言ってんだ!?と少年はやや語気を荒げながら新しい煙草に火を点けた。
「アンタさ、女子達からガチで慕われてたじゃねぇか。なんでその時はなんも思わなかったんだ?」
少年は再び煙草をふかしながら訊ねる。
あれは、と納得いかない様子の詐欺師は答えた。
「みんなが見てたのは架空の存在の“一條刻夜“じゃないか。偽物の名前。偽物の肩書き。偽物の顔と姿───────」
誰も本当の僕なんか見ちゃいなかったよ、と自嘲気味に笑う詐欺師の言葉を少年は否定した。
「アンタさ、何も分かっちゃいねぇな。他人のことも、自分のこともさ」
少年は煙を吐き出しながらこう断言する。
「上野はこう言ってたぜ。アンタに話を聞いてもらえて本当に救われたって──────」
え?と詐欺師は聞き返す。
「なんだっけ、[愚者(フール)の宝石(ジェム)]なんて最初から必要無かったんじゃね?アンタってさ、なんだかんだで聞き上手なんだろ」
「……!」
ハッとしたような表情の詐欺師に向けて少年はこう続ける。
「アンタさ、自分がなんで短い間にせよ”カリスマスピリチュアルカウンセラー“になれたか分かってねぇの?」
詐欺師は躊躇いながらこう返す。
「それってさ、作り物のこの設定と加工しまくった自撮り画像とかのせいじゃないの?みんな騙されて──────」
やれやれ、と言った風に少年は首を振った。
「画像をどんなに加工してても実際に会うわけだろ?二回目以降も来てくれたってことは現物のアンタが嫌じゃないって事じゃねぇか」
アンタは、と少年は詐欺師の顔を見ながら真っ直ぐに言った。
「─────────────アンタは間違いなく客に信頼されて慕われてたんだ。それもアンタの人徳や才覚だったんじゃねぇのか?」
「……!!」
生まれて初めて─────自身が他者から必要とされていたという事実を知った詐欺師は声を殺して泣いた。
「この世界もあいつらも全部狂ってんだ」
じゃなきゃこうはならなかったんじゃねぇの、という少年の言葉を聞いた詐欺師は更に涙をポロポロと零した。
「……あれ、なんで僕、泣いてんだろ」
あ、悪ィ。さっきの痛かったよな、と少年は心底すまなさそうに呟いた。
「……いや」
詐欺師は静かに首を振った。
「死ぬほど痛かったよ。そりゃあさ。内臓とかあちこち破れるかと思ったし……人生最大にブチ切れてパニックにもなったし───────」
だけど、と詐欺師は続けた。
「ムカついて絶対にぶっ殺してやるって思ったのが9割だけど……けど、残りの1割────ううん、もっと少なくて5%、いや3%くらいは─────」
詐欺師は一呼吸置き、少し躊躇いながらこう言った。
「……ちょっと……ほんのちょっとだけ……満たされた気がしたんだ」
「────ハァ!?」
ギョッとした表情の少年は咥えていた煙草を思わず床に落とす。
「は?どういう意味だよ?もうすぐ何もかもが終わるからか?それとも───────」
罰せられたことで安心したとかそういう理屈か?と少年が尋ねると詐欺師はまた首を振った。
「ううん……ただ……ちょっとだけ……なんていうか……僕にもそういう価値があったんだなって思えて───────」
詐欺師は小さな声でこう付け加える。
「どんな理由であったにせよ……誰かに求められるってことがこんなにも自分の心を満たすなんて思ってもみなくて」
何言ってんだ!?と少年はやや語気を荒げながら新しい煙草に火を点けた。
「アンタさ、女子達からガチで慕われてたじゃねぇか。なんでその時はなんも思わなかったんだ?」
少年は再び煙草をふかしながら訊ねる。
あれは、と納得いかない様子の詐欺師は答えた。
「みんなが見てたのは架空の存在の“一條刻夜“じゃないか。偽物の名前。偽物の肩書き。偽物の顔と姿───────」
誰も本当の僕なんか見ちゃいなかったよ、と自嘲気味に笑う詐欺師の言葉を少年は否定した。
「アンタさ、何も分かっちゃいねぇな。他人のことも、自分のこともさ」
少年は煙を吐き出しながらこう断言する。
「上野はこう言ってたぜ。アンタに話を聞いてもらえて本当に救われたって──────」
え?と詐欺師は聞き返す。
「なんだっけ、[愚者(フール)の宝石(ジェム)]なんて最初から必要無かったんじゃね?アンタってさ、なんだかんだで聞き上手なんだろ」
「……!」
ハッとしたような表情の詐欺師に向けて少年はこう続ける。
「アンタさ、自分がなんで短い間にせよ”カリスマスピリチュアルカウンセラー“になれたか分かってねぇの?」
詐欺師は躊躇いながらこう返す。
「それってさ、作り物のこの設定と加工しまくった自撮り画像とかのせいじゃないの?みんな騙されて──────」
やれやれ、と言った風に少年は首を振った。
「画像をどんなに加工してても実際に会うわけだろ?二回目以降も来てくれたってことは現物のアンタが嫌じゃないって事じゃねぇか」
アンタは、と少年は詐欺師の顔を見ながら真っ直ぐに言った。
「─────────────アンタは間違いなく客に信頼されて慕われてたんだ。それもアンタの人徳や才覚だったんじゃねぇのか?」
「……!!」
生まれて初めて─────自身が他者から必要とされていたという事実を知った詐欺師は声を殺して泣いた。
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