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ep8
ep8『愚者の宝石と盲目の少女たち』 ドロップ
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夕暮れ刻だ。国道もバス通りも仕事帰りの車で混雑しているだろう。
この地域だと大人は一人一台、車を持ってたりするからな。無駄に混むんだよこの時間帯は。
俺はその二つの道を避け、土手沿いの道を走る事にした。
バスも電車も俺らの居住エリアからはちょっと迂回したルートで市街地に行くからな。
だから時間が掛かるんだが─────────バイクなら話は別だ。
目一杯のスピードでひたすら走る。
ポケットの中のスマホがけたたましく鳴り続けている。
おそらく、佐々木か小泉か……或いはブチ切れたフーミンからだろう。
今は誰からの電話にも出ることは出来ない。
事態は一刻を争うんだ。
土手を抜け、国道に出た俺は渋滞した車の隙間を縫って走った。
こういう時に50cc以下のバイクはいいよな、なにせ小回りが利くんだから。
少し無茶をしたが───────俺は30分後には学校に着いていた。
ヘルメットをぶん投げ、バイクからキーだけ抜くと校舎の階段を駆け上がった。
いつもの“俺だけの秘密の場所”である屋上へ向かう階段に差し掛かる。
使われなくなった机や椅子が無造作に置かれている踊り場にはガラスの破片が散乱していた。
ガソリンの匂いが鼻を突く。
この辺りにも撒いたのか!?
何を考えてるんだ!?気は確かか!?
しかも、そこら中のガラスまで割りやがって。迷惑なことしてんな。
俺は階段の最上部にたどり着く。
周囲はシンと静まりかえっている。
急に突風が吹き、開け放たれた屋上へと続くドアが錆びて軋んだ音を放っていた。
俺がそこで目にしたのは───────────落ちる寸前の夕陽と一條刻夜だった。
真っ赤に染まった空の中、手すりの向こうでゆらゆらと動く一條の身体のシルエット。
その背中はどこかこの世のものとは思えない気配を放っている。
「おい!!一條!!」
俺は何も考えずに反射的にそう叫んだ。
「……誰?」
ゆっくりと振り返った一條の顔を見た俺は思わず息を呑んだ。
顔の上半分が黒い布で覆われている。
まるで処刑前の罪人のようなその姿を目にした瞬間────────────俺は全てを悟った。
一條の目は既に光を失っている。
失明。
一度失われた視力は現代の医療であっても───────────もう二度と元に戻すことは出来ない。
それが免罪酒という名前で投与された薬品の副作用だった。
この地域だと大人は一人一台、車を持ってたりするからな。無駄に混むんだよこの時間帯は。
俺はその二つの道を避け、土手沿いの道を走る事にした。
バスも電車も俺らの居住エリアからはちょっと迂回したルートで市街地に行くからな。
だから時間が掛かるんだが─────────バイクなら話は別だ。
目一杯のスピードでひたすら走る。
ポケットの中のスマホがけたたましく鳴り続けている。
おそらく、佐々木か小泉か……或いはブチ切れたフーミンからだろう。
今は誰からの電話にも出ることは出来ない。
事態は一刻を争うんだ。
土手を抜け、国道に出た俺は渋滞した車の隙間を縫って走った。
こういう時に50cc以下のバイクはいいよな、なにせ小回りが利くんだから。
少し無茶をしたが───────俺は30分後には学校に着いていた。
ヘルメットをぶん投げ、バイクからキーだけ抜くと校舎の階段を駆け上がった。
いつもの“俺だけの秘密の場所”である屋上へ向かう階段に差し掛かる。
使われなくなった机や椅子が無造作に置かれている踊り場にはガラスの破片が散乱していた。
ガソリンの匂いが鼻を突く。
この辺りにも撒いたのか!?
何を考えてるんだ!?気は確かか!?
しかも、そこら中のガラスまで割りやがって。迷惑なことしてんな。
俺は階段の最上部にたどり着く。
周囲はシンと静まりかえっている。
急に突風が吹き、開け放たれた屋上へと続くドアが錆びて軋んだ音を放っていた。
俺がそこで目にしたのは───────────落ちる寸前の夕陽と一條刻夜だった。
真っ赤に染まった空の中、手すりの向こうでゆらゆらと動く一條の身体のシルエット。
その背中はどこかこの世のものとは思えない気配を放っている。
「おい!!一條!!」
俺は何も考えずに反射的にそう叫んだ。
「……誰?」
ゆっくりと振り返った一條の顔を見た俺は思わず息を呑んだ。
顔の上半分が黒い布で覆われている。
まるで処刑前の罪人のようなその姿を目にした瞬間────────────俺は全てを悟った。
一條の目は既に光を失っている。
失明。
一度失われた視力は現代の医療であっても───────────もう二度と元に戻すことは出来ない。
それが免罪酒という名前で投与された薬品の副作用だった。
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