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ep8
ep8『愚者の宝石と盲目の少女たち』 handmade fake
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翌日。
なんとなく気分がリセットされた気になった俺は始業前に保健室に立ち寄った。
小泉から聞いた話──────────布ナプキンとかの話は割愛したが、おおよその内容を佐々木に伝える。
俺の話を聞き終わった佐々木はそう、とだけ呟くと小さく溜息をついた。
調査が行き詰まっているんだろうか。
「……ありがとう。今回の情報はまた改めて精査することにするわ。また何かあれば頼むわね」
佐々木は苛立ちを隠せないようにトントンと指の先で机を弾いた。
「何か進展はあったのか?」
俺がそう尋ねると佐々木は首を振った。
「……昨日の放課後───────市内の商店街にある大きな手芸店に行ってみたのだけれど」
そう言いながら佐々木は机の上に布張りのアクセサリートレイを置いた。
アンティーク風のそのトレイの上には────────三つの例の“宝石”が載せられている。
「ん?三つ?」
三つだったっけ?と俺が尋ねると佐々木は一番端の宝石を指差した。
「真ん中の物は貴方が知ってるように、先日採取したものだけど───────こっちは全く同じものを私が再現してみたの」
俺はアクセサリートレイに視線を落とす。
一番右には少し大きい宝石が置いてある。『本家のスピリチュアルジュエリー』をネットで見た佐々木が再現したというレプリカだ。
そして真ん中。これは一年女子の体内に入れられていた物だ。生々しく痛々しい雰囲気がして少し怖い。本家のレプリカより少し小さい。
それから一番左。これは佐々木が宝石のパーツを手芸店で買ってきたのだろうか。真ん中の物と見比べてもほぼ同じに見える。
「え、これお前が作ったの?器用だな。ほぼ同じじゃねーか?」
お前も教祖様になれたりして、と俺が少し茶化すと佐々木は首を振った。
「……それはどうも。けど、全く同じじゃないのよ」
え?違うってどこが、と俺が聞き返すと佐々木は真ん中の宝石の一番上を指差す。
「ほら。一番上のパーツだけは同じのが手に入らなかったの。こっちのは少し色が違うでしょう?」
俺は真ん中と左の宝石の一番上の部分をそれぞれ見比べた。
確かに、言われてみれば少し色合いが違う。
どちらの宝石も全体的にブルー系のカラーで統一されてはいるが……
「そういやなんか色がちょっと違うけど、品切れだったのか?」
そうね、と佐々木は少し考え込む。
「一応、店員さんにも確認はしたの。欠品中のパーツは無いか」
だけど、発注したのが届いたばかりで売り場には品切れの物は無かったそうなの、と佐々木は続けた。
「この近辺で一番大きな手芸店で大体のパーツは同じものを揃えることが出来たわ。トップの一つを除いては───────」
それは何を意味するのだろう。
俺はもう一度、“本物の偽物”である真ん中の宝石のてっぺんを見た。
キラキラと不思議な光を放つ石。
それはまるで──────────深く暗い森の中の風景のような色にも思えた。
なんとなく気分がリセットされた気になった俺は始業前に保健室に立ち寄った。
小泉から聞いた話──────────布ナプキンとかの話は割愛したが、おおよその内容を佐々木に伝える。
俺の話を聞き終わった佐々木はそう、とだけ呟くと小さく溜息をついた。
調査が行き詰まっているんだろうか。
「……ありがとう。今回の情報はまた改めて精査することにするわ。また何かあれば頼むわね」
佐々木は苛立ちを隠せないようにトントンと指の先で机を弾いた。
「何か進展はあったのか?」
俺がそう尋ねると佐々木は首を振った。
「……昨日の放課後───────市内の商店街にある大きな手芸店に行ってみたのだけれど」
そう言いながら佐々木は机の上に布張りのアクセサリートレイを置いた。
アンティーク風のそのトレイの上には────────三つの例の“宝石”が載せられている。
「ん?三つ?」
三つだったっけ?と俺が尋ねると佐々木は一番端の宝石を指差した。
「真ん中の物は貴方が知ってるように、先日採取したものだけど───────こっちは全く同じものを私が再現してみたの」
俺はアクセサリートレイに視線を落とす。
一番右には少し大きい宝石が置いてある。『本家のスピリチュアルジュエリー』をネットで見た佐々木が再現したというレプリカだ。
そして真ん中。これは一年女子の体内に入れられていた物だ。生々しく痛々しい雰囲気がして少し怖い。本家のレプリカより少し小さい。
それから一番左。これは佐々木が宝石のパーツを手芸店で買ってきたのだろうか。真ん中の物と見比べてもほぼ同じに見える。
「え、これお前が作ったの?器用だな。ほぼ同じじゃねーか?」
お前も教祖様になれたりして、と俺が少し茶化すと佐々木は首を振った。
「……それはどうも。けど、全く同じじゃないのよ」
え?違うってどこが、と俺が聞き返すと佐々木は真ん中の宝石の一番上を指差す。
「ほら。一番上のパーツだけは同じのが手に入らなかったの。こっちのは少し色が違うでしょう?」
俺は真ん中と左の宝石の一番上の部分をそれぞれ見比べた。
確かに、言われてみれば少し色合いが違う。
どちらの宝石も全体的にブルー系のカラーで統一されてはいるが……
「そういやなんか色がちょっと違うけど、品切れだったのか?」
そうね、と佐々木は少し考え込む。
「一応、店員さんにも確認はしたの。欠品中のパーツは無いか」
だけど、発注したのが届いたばかりで売り場には品切れの物は無かったそうなの、と佐々木は続けた。
「この近辺で一番大きな手芸店で大体のパーツは同じものを揃えることが出来たわ。トップの一つを除いては───────」
それは何を意味するのだろう。
俺はもう一度、“本物の偽物”である真ん中の宝石のてっぺんを見た。
キラキラと不思議な光を放つ石。
それはまるで──────────深く暗い森の中の風景のような色にも思えた。
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