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ep6『さよなら小泉先生』 Hot chocolate

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超至近距離。

俺は両手で小泉の肩を掴んだ。

小泉はビクリとした様子で両目を見開いて俺を見る。

「俺……センセェのこと……」

お互いの体温が伝わるような位置。

視線が不意にぶつかる。

「……俺は──────」

そこまで言いかけて俺は言葉に詰まった。

あれ?

俺、小泉に何を言おうとしてたんだっけ?

すごく大事な事なのに。

言葉が出てこない。

絶対にこれだけは言わなきゃって思ってたのに。

俺はしばらく小泉の顔を見つめたまま黙っていた。

ダメだ。

頭に霧がかかったみたいに───────何を言おうとしたのか自分でも分からなくなってるんだ。

「……ちょっ……!離せ佐藤!!」

小泉の肩を掴んだまま固まっている俺の手を小泉が払いのける。

「な、なんなんだ?いきなり……」

小泉が視線を逸らし、一歩後ずさった。

俺って頭がおかしくなったとか思われてる?

「……あの!そうじゃなくて!」

俺の気持ちは何も変わってない。

それは本当なんだ。

だけど、咄嗟に言葉が出ないし──────どう気持ちを伝えたらいいかもわからないんだ。

まあいい、と小泉は少し呆れたように呟いた。

小泉は美術準備室の隅に置いてある小型冷蔵庫を開け、中のエナドリを取り出すと俺に手渡してくる。

「これでも飲んでちょっと落ち着け」

俺は無言のままそれを受け取った。

「もしかして朝飯を食べてないんじゃないのか?」

小泉の問いかけに対し、俺は小さく頷く。

「コレも食べとけ。食べないとこの後、持たないぞ」

なにせ父兄呼び出しの上で校長室で面談、反省文提出だからな、と言いながら小泉は菓子パンの袋を俺に投げて寄越した。

ジャム&マーガリンのコッペパン。

「コレってセンセェの朝飯じゃねぇの?」

俺が訊くと小泉はどうでもよさげに答えた。

「ああ、私はこっちを食べるからいい。お前はそっち食ってろ」

小泉は缶バッジがジャラジャラ付いた痛バッグからカロリーメイトの箱を取り出して俺に見せた。

エナドリでコッペンを流し込みながら、その甘さがすごく安心できて────────気付けば俺はまた泣いていた。

「ハァ!?なんで泣いてるんだよ?!」

それを見た小泉が心底ヤバいものを見る目付きで俺を見る。

「……自分でもわかんねぇんだけど─────なんかホッとしてさ……」

「お前なあ……」

小泉は意味がわからないと言った表情を浮かべながらもう一度小型冷蔵庫を開け、中にあったブラックサンダーを俺に手渡してきた。

「まあ、疲れた時は甘いものだからな。コレも食ってろ」

そう言うと俺の頭をポンと撫でた。

どうしてだろう。

コッペパンとブラックサンダーを食べながら俺は────────どうしようもなく幸せな気分で満たされていた。


多分、とろけちまったのは俺の頭の方なんだろうな。

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