538 / 1,060
ep6
ep6『さよなら小泉先生』 焼ける空と聖母被昇天
しおりを挟む
「さて、と」
そう言うと小泉は改まって俺の方に向き直った。
そろそろ時間だ、と小泉が呟き俺はこの時間が終わることを悟った。
そうだよな。
十年後の未来から少しの時間でもこっちに来れるっていうのがそもそも非現実的だよな。
少し話せただけでも奇跡みたいなものじゃないか。
そんな非現実的な奇跡を“残った力”だけで実現してしまう例の黒い石───────────
こいつに秘められた力ってのがもうヤバすぎる。
そんなヤバい代物を、少し先の俺はキチンと見過ごさずに見付けて回収出来るんだろうか。
俺がそう思っているのを見透かしたのか、小泉は俺の頭をまたクシャっと撫でた。
「……心配するな。大丈夫だ。お前なら絶対上手くやれる」
「随分と俺のことを信頼し切ってくれてんだな?」
買い被り過ぎじゃねぇの、と俺はいつものように言ったが実際は不安で一杯だった。
もうこの“未来の小泉”には会うことは出来ない。
何か知りたいことがあれば今のうちに聞くしかない。
聞きたいことはまだまだ山ほどあった。
だけど。
混乱している俺は居なくなる小泉に対し、なんと言えばいいかわからなかった。
「はは。手先が少し透けてきたな」
小泉の手足の先端は少し消え始めていた。
「じゃあな。未来で再会したら酒でも飲もうか」
小泉のその言葉が胸にチクリと刺さったような気がした。
俺が自力で『正しい未来』に辿り着かない限り──────この小泉には二度と会えないかもしれないんだよな。
一人、取り残されるような焦燥感が俺を襲う。
「……センセェ!」
俺は咄嗟に小泉を呼び止めた。
「……なんだ?」
小泉が振り返る。
「センセェ……今って─────幸せか?」
俺は何を言ってんだろう。
自分でもなんでこんな事を聞いたのかよくわからなかった。
けれど、振り返った小泉は───────満面の笑みを浮かべてこう答えたんだ。
「ああ。勿論……今が人生で一番幸せだよ」
それだけ言い残すと小泉はまるで霧のように静かに消えていった。
暗かった筈の周囲は既に日が昇り始めている。
まるでいつか見た絵画の中の人物みたいに───────朝焼けの中に溶けて消えてしまった。
俺が初めて見る笑顔。
満ち足りた表情のその小泉は─────慈愛に満ちた存在そのものに思えたんだ。
そう言うと小泉は改まって俺の方に向き直った。
そろそろ時間だ、と小泉が呟き俺はこの時間が終わることを悟った。
そうだよな。
十年後の未来から少しの時間でもこっちに来れるっていうのがそもそも非現実的だよな。
少し話せただけでも奇跡みたいなものじゃないか。
そんな非現実的な奇跡を“残った力”だけで実現してしまう例の黒い石───────────
こいつに秘められた力ってのがもうヤバすぎる。
そんなヤバい代物を、少し先の俺はキチンと見過ごさずに見付けて回収出来るんだろうか。
俺がそう思っているのを見透かしたのか、小泉は俺の頭をまたクシャっと撫でた。
「……心配するな。大丈夫だ。お前なら絶対上手くやれる」
「随分と俺のことを信頼し切ってくれてんだな?」
買い被り過ぎじゃねぇの、と俺はいつものように言ったが実際は不安で一杯だった。
もうこの“未来の小泉”には会うことは出来ない。
何か知りたいことがあれば今のうちに聞くしかない。
聞きたいことはまだまだ山ほどあった。
だけど。
混乱している俺は居なくなる小泉に対し、なんと言えばいいかわからなかった。
「はは。手先が少し透けてきたな」
小泉の手足の先端は少し消え始めていた。
「じゃあな。未来で再会したら酒でも飲もうか」
小泉のその言葉が胸にチクリと刺さったような気がした。
俺が自力で『正しい未来』に辿り着かない限り──────この小泉には二度と会えないかもしれないんだよな。
一人、取り残されるような焦燥感が俺を襲う。
「……センセェ!」
俺は咄嗟に小泉を呼び止めた。
「……なんだ?」
小泉が振り返る。
「センセェ……今って─────幸せか?」
俺は何を言ってんだろう。
自分でもなんでこんな事を聞いたのかよくわからなかった。
けれど、振り返った小泉は───────満面の笑みを浮かべてこう答えたんだ。
「ああ。勿論……今が人生で一番幸せだよ」
それだけ言い残すと小泉はまるで霧のように静かに消えていった。
暗かった筈の周囲は既に日が昇り始めている。
まるでいつか見た絵画の中の人物みたいに───────朝焼けの中に溶けて消えてしまった。
俺が初めて見る笑顔。
満ち足りた表情のその小泉は─────慈愛に満ちた存在そのものに思えたんだ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる