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ep6
ep6『さよなら小泉先生』 廃墟の白昼夢
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去り際にシンジが躊躇いがちに差し出して来た紙片をそのままポケットに突っ込む。
今の俺にはそれを見る勇気がなかった。
シンジの最後の言葉は矢のように俺の心臓に食い込んでいた。
最後の最後まで隠されていた恐ろしい現実。
“初対面”の筈の俺にこんな事実まで暴露する必要性っていうのは──────多分、無かったのかもしれない。
だけど。
“姉”が居るという設定。
両親が居ないという事実。
俺たちの二人の間に共通する……それらの要素が引き金となって──────シンジの心中を吐露させたのかもしれない。
家族には言えない。他人であれば尚更、それは口に出来なかっただろう。
盗み聞きしたという“現実”の救い難い現状について────────
シンジ自身も傷付き、ショックを受けて……誰にもそれを言えずに独りで抱え込んでたんだろうな。
だからこそ────────俺に対し、ここまで話してくれたんだろうか。
誰かに話すことで気が軽くなることもあるだろうしな。
話に耳を傾ける。たったそれだけのことが誰かの救いになることもある。
遠い昔だろうか。俺にもそんな事があった気もする。
でも、誰だっただろう。
思い出せない。
現実味のない浮遊感は白昼夢の中のようだった。
九月の初めの空気はまだ夏の中にある。
ジリジリと照りつける午後の太陽の中、闇雲に歩いていた俺がたどり着いたのはボロボロになった駄菓子屋の前だった。
かつて、小学生時代の小泉が店頭の格闘ゲームに夢中になっていたという賑やかな面影は何処にもなかった。
子ども達の姿も見当たらない。
シンと静まり返り、シャッターが降りて人の気配のない古びた軒先の前で俺は立ち止まった。
蜘蛛の巣が張り、埃だらけで中が見えないガラス窓。
周囲の草は伸び放題で、荒れ果てた様子に思えた。
店は閉まっている?
スエカ婆ちゃんは?
恐らく俺は─────────小泉を救う僅かな手掛かりを求めて無意識のうちにここに来てしまったんだろう。
だが。
駄菓子屋の営業どころか、スエカ婆ちゃんの暮らしている形跡すら全く感じられない。
廃墟。
考えたくないのに……そんな言葉が脳裏をよぎる。
俺が呆然と立ち尽くしていると───────何者かに不意打ちで背後から怒号を浴びせられた。
「おみゃあ、こぎゃあなとこでなにをしょうるんか?!」
俺が振り返ると知らない爺さんが俺を睨みつけていた。
「……え、あの」
「また性懲りものう来たんきゃあ?店の中まで入ってぎゃあぎゃあ騒ぐじゃことに」
今度はすぐ警察呼んじゃるけぇの、と爺さんは険しい視線で俺を見る。
「えっと……違います。ここに住んでいたスエカさんという方を訪ねて来たんですが」
俺がスエカ婆ちゃんの名前を出すと爺さんの顔色がサッと変わった。
「アンタ、スエカさんのお孫さんきゃあ?」
いえ、と俺は訂正した。
「スエカさんのお孫さんの知り合いと言いますか……以前にお宅を訪問させて頂いたこともあって」
近くまで来たのでスエカさんはお元気だろうかと立ち寄ってみたんです、と俺は尤もらしい事を言った。
言った後に冷静に考えたら何一つ嘘はついて居ないことに気付く。
何も疾しい事はないし、してないよな。
そうだ。俺は以前に小泉と一緒にスエカ婆ちゃんちに来て─────ご飯をご馳走になって。
だから、小泉のことを何か聞けるんじゃないかって……そう思ったんだ。
爺さんはポカンと口を開けた様子で俺を見た後、少し肩を落とすようにこう言った。
「……ここの婆さんはもう死んどる」
今の俺にはそれを見る勇気がなかった。
シンジの最後の言葉は矢のように俺の心臓に食い込んでいた。
最後の最後まで隠されていた恐ろしい現実。
“初対面”の筈の俺にこんな事実まで暴露する必要性っていうのは──────多分、無かったのかもしれない。
だけど。
“姉”が居るという設定。
両親が居ないという事実。
俺たちの二人の間に共通する……それらの要素が引き金となって──────シンジの心中を吐露させたのかもしれない。
家族には言えない。他人であれば尚更、それは口に出来なかっただろう。
盗み聞きしたという“現実”の救い難い現状について────────
シンジ自身も傷付き、ショックを受けて……誰にもそれを言えずに独りで抱え込んでたんだろうな。
だからこそ────────俺に対し、ここまで話してくれたんだろうか。
誰かに話すことで気が軽くなることもあるだろうしな。
話に耳を傾ける。たったそれだけのことが誰かの救いになることもある。
遠い昔だろうか。俺にもそんな事があった気もする。
でも、誰だっただろう。
思い出せない。
現実味のない浮遊感は白昼夢の中のようだった。
九月の初めの空気はまだ夏の中にある。
ジリジリと照りつける午後の太陽の中、闇雲に歩いていた俺がたどり着いたのはボロボロになった駄菓子屋の前だった。
かつて、小学生時代の小泉が店頭の格闘ゲームに夢中になっていたという賑やかな面影は何処にもなかった。
子ども達の姿も見当たらない。
シンと静まり返り、シャッターが降りて人の気配のない古びた軒先の前で俺は立ち止まった。
蜘蛛の巣が張り、埃だらけで中が見えないガラス窓。
周囲の草は伸び放題で、荒れ果てた様子に思えた。
店は閉まっている?
スエカ婆ちゃんは?
恐らく俺は─────────小泉を救う僅かな手掛かりを求めて無意識のうちにここに来てしまったんだろう。
だが。
駄菓子屋の営業どころか、スエカ婆ちゃんの暮らしている形跡すら全く感じられない。
廃墟。
考えたくないのに……そんな言葉が脳裏をよぎる。
俺が呆然と立ち尽くしていると───────何者かに不意打ちで背後から怒号を浴びせられた。
「おみゃあ、こぎゃあなとこでなにをしょうるんか?!」
俺が振り返ると知らない爺さんが俺を睨みつけていた。
「……え、あの」
「また性懲りものう来たんきゃあ?店の中まで入ってぎゃあぎゃあ騒ぐじゃことに」
今度はすぐ警察呼んじゃるけぇの、と爺さんは険しい視線で俺を見る。
「えっと……違います。ここに住んでいたスエカさんという方を訪ねて来たんですが」
俺がスエカ婆ちゃんの名前を出すと爺さんの顔色がサッと変わった。
「アンタ、スエカさんのお孫さんきゃあ?」
いえ、と俺は訂正した。
「スエカさんのお孫さんの知り合いと言いますか……以前にお宅を訪問させて頂いたこともあって」
近くまで来たのでスエカさんはお元気だろうかと立ち寄ってみたんです、と俺は尤もらしい事を言った。
言った後に冷静に考えたら何一つ嘘はついて居ないことに気付く。
何も疾しい事はないし、してないよな。
そうだ。俺は以前に小泉と一緒にスエカ婆ちゃんちに来て─────ご飯をご馳走になって。
だから、小泉のことを何か聞けるんじゃないかって……そう思ったんだ。
爺さんはポカンと口を開けた様子で俺を見た後、少し肩を落とすようにこう言った。
「……ここの婆さんはもう死んどる」
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