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ep6
ep6『さよなら小泉先生』 Comment te dire adieu
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何を言われたのか理解できずに俺は固まる。
……いない?
まさか。
俺の背中が凍り付いたように冷たくなり、体温が下がっていくのが自分でも自覚できた。
死んでるって事はないよな───────?
バクバクとする心臓を押さえ、俺は言葉を絞り出す。
「……まさかですけど……既に……亡くなっておられると─────」
そういう意味ですか、と聞き返す声は掠れて自分でも聞き取れなかった。
「あ、いえ」
シンジはハッとしたように俺を見た。
「すいません、誤解されるような言い方を─────」
だけど、とシンジは俯きながらこう続けた。
「ある意味だと……その方がいいのかもしれません」
俺は更に耳を疑った。
甥のシンジは少なくとも─────俺の知る限りでは叔母の小泉のことを『姉さん』と呼んで慕っていた筈だ。
小泉は生きている?
なのに、どうしてそんな言い回しを────────?
俺の表情が固まったのを察してか、シンジは慌てて首を振った。
「……あ!すいません、さっきから……なんだか言葉足らずで」
「──────死んだ方がマシっていうレベルの状態という事でしょうか?」
俺の問いに対し、シンジは俯いた。
「……いえ。そうじゃないんです。ただ───────」
あなたのお姉さんにはそう伝えて頂いた方がよろしいかと、と答えたシンジはその後、暫く黙った。
意味がわからない。
どうして、“俺の姉”には『小泉鏡花は死んだ』って伝えた方がいいんだ?
中学の同級生設定だよな?
存命中の人物に関して、死んだって嘘をついた方がいいシチュってどんなだよ?
「……昏睡状態?あるいは植物人間だとか─────」
そういう事ですか?、と俺はシンジに縋るように訊ねた。
どうしてだかわからない。
なんで小泉だけがこんなおかしな事になってるんだ?
混乱し、オーバーヒートしそうになる俺の頭。正気を保つのがやっとな気がした。
「……すいません、姉さん……いや、叔母のことを他所の方にお伝えする事は──────今まで全く無かったものですから」
どこからお伝えしていいのか自分でもわからなくて、とシンジは小さく答える。
慎重に、言葉を選びながら話しているといった印象を受けた。
シンジにとっては話しづらい事柄なんだろうか。
「……あの、俺の姉にそのように伝えた方が良いということでしたら────そうしたいと思うんですが」
ただ、差し支えない範囲でよろしければ……短くても構いませんので小泉さんの現状を教えて頂けませんか、と俺は祈るような気持ちでシンジに言った。
それは俺の本心だった。
小泉は消えてない。
死んでもいない。
ただ生きている。
それだけで俺には充分だったのかもしれない。
例えどんな姿、どんな状態であっても────生きてさえ居てくれたら。
小泉。
どうしてだかわからない、だけど胸がギュッと締め付けられるような感覚だけが俺を支配していた。
もしかしたら俺は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
シンジは何かを察したように─────静かに口を開いた。
「……さっきから遠回しな言い方で……変に濁しててすいません」
叔母は生きていますし……日常生活を問題なく送っていると聞いています、という言葉に俺は心底安堵した。
───────だったら。
何も問題は無いじゃねぇか。
小泉は生きている。
元気に過ごしてる。
それだけでもう充分じゃねぇか。
何を躊躇したり隠したりする必要があるって言うんだ?
俺の言いたい事が表情に出てしまっていたのだろうか。
シンジが二度三度、迷うような素振りを見せながら発した言葉。
「さっきは妙な言い方をしてしまって申し訳無かったんですが……『”小泉鏡花“という人物がもういない』って言うのは──────」
──────それを聞いた瞬間、俺は打ちのめされた。
「ただ単純に……『小泉』姓ではなくなったという事です。結婚して苗字が変わったってだけなんです」
……いない?
まさか。
俺の背中が凍り付いたように冷たくなり、体温が下がっていくのが自分でも自覚できた。
死んでるって事はないよな───────?
バクバクとする心臓を押さえ、俺は言葉を絞り出す。
「……まさかですけど……既に……亡くなっておられると─────」
そういう意味ですか、と聞き返す声は掠れて自分でも聞き取れなかった。
「あ、いえ」
シンジはハッとしたように俺を見た。
「すいません、誤解されるような言い方を─────」
だけど、とシンジは俯きながらこう続けた。
「ある意味だと……その方がいいのかもしれません」
俺は更に耳を疑った。
甥のシンジは少なくとも─────俺の知る限りでは叔母の小泉のことを『姉さん』と呼んで慕っていた筈だ。
小泉は生きている?
なのに、どうしてそんな言い回しを────────?
俺の表情が固まったのを察してか、シンジは慌てて首を振った。
「……あ!すいません、さっきから……なんだか言葉足らずで」
「──────死んだ方がマシっていうレベルの状態という事でしょうか?」
俺の問いに対し、シンジは俯いた。
「……いえ。そうじゃないんです。ただ───────」
あなたのお姉さんにはそう伝えて頂いた方がよろしいかと、と答えたシンジはその後、暫く黙った。
意味がわからない。
どうして、“俺の姉”には『小泉鏡花は死んだ』って伝えた方がいいんだ?
中学の同級生設定だよな?
存命中の人物に関して、死んだって嘘をついた方がいいシチュってどんなだよ?
「……昏睡状態?あるいは植物人間だとか─────」
そういう事ですか?、と俺はシンジに縋るように訊ねた。
どうしてだかわからない。
なんで小泉だけがこんなおかしな事になってるんだ?
混乱し、オーバーヒートしそうになる俺の頭。正気を保つのがやっとな気がした。
「……すいません、姉さん……いや、叔母のことを他所の方にお伝えする事は──────今まで全く無かったものですから」
どこからお伝えしていいのか自分でもわからなくて、とシンジは小さく答える。
慎重に、言葉を選びながら話しているといった印象を受けた。
シンジにとっては話しづらい事柄なんだろうか。
「……あの、俺の姉にそのように伝えた方が良いということでしたら────そうしたいと思うんですが」
ただ、差し支えない範囲でよろしければ……短くても構いませんので小泉さんの現状を教えて頂けませんか、と俺は祈るような気持ちでシンジに言った。
それは俺の本心だった。
小泉は消えてない。
死んでもいない。
ただ生きている。
それだけで俺には充分だったのかもしれない。
例えどんな姿、どんな状態であっても────生きてさえ居てくれたら。
小泉。
どうしてだかわからない、だけど胸がギュッと締め付けられるような感覚だけが俺を支配していた。
もしかしたら俺は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
シンジは何かを察したように─────静かに口を開いた。
「……さっきから遠回しな言い方で……変に濁しててすいません」
叔母は生きていますし……日常生活を問題なく送っていると聞いています、という言葉に俺は心底安堵した。
───────だったら。
何も問題は無いじゃねぇか。
小泉は生きている。
元気に過ごしてる。
それだけでもう充分じゃねぇか。
何を躊躇したり隠したりする必要があるって言うんだ?
俺の言いたい事が表情に出てしまっていたのだろうか。
シンジが二度三度、迷うような素振りを見せながら発した言葉。
「さっきは妙な言い方をしてしまって申し訳無かったんですが……『”小泉鏡花“という人物がもういない』って言うのは──────」
──────それを聞いた瞬間、俺は打ちのめされた。
「ただ単純に……『小泉』姓ではなくなったという事です。結婚して苗字が変わったってだけなんです」
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