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ep6
ep6『さよなら小泉先生』 祭り前夜と巫女の舞
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思ってもみなかった言葉に俺は一瞬、固まってしまう。
「クラスで……孤立してんのか?」
初耳だった。
確かに小泉はアニオタで腐女子、陰キャチー牛だってのはわかるんだが─────
「まあ、ちょっとね」
へへ、と小泉(中学生)は困ったような顔で笑った。
「いや、笑い事じゃなくね?なんでそうなったんだよ?」
俺がそう訊ねると小泉(中学生)は俯きながら呟いた。
「なんか、ちょっとした行き違いで変な事になっちゃったみたいで」
いいから話せよ、と俺が促すと小泉(中学生)は躊躇いながらもポツリポツリと話し始めた。
「私ね、巫女のバイトしてるでしょ?小学生の頃からやってたから自分の中では特に深く考えたことなかったんだけど─────」
小泉が巫女のバイトしてんのって小学生の頃からだったのか。
「へぇ、随分と前からやってたんだな」
俺が感心したように言うと小泉(中学生)は少し照れたような表情を浮かべた。
「へへ、まあね。大変な事も多いけどバイト代が貰えるのってやっぱり大きいし」
俺は地面に置かれた何冊かの漫画本を見た。
まあ、趣味の漫画やアニメのグッズとか買うのも金が要るしな。
小泉にとってはこのバイトってのはある種の天職なのかもしれない。
「小学校から一緒だった子はみんな、私が神社でバイトしてんの知ってたけどね。クラスのカースト上位の女子は別の小学校だったから知らなかったらしくて」
ふむふむ、と俺は相槌を打った。
「お祭りの日に巫女の神楽舞があったんだけどね。私も参加してたんだけど……それをたまたま見てたイケメン男子が『巫女って可愛いよなあ』って言ってたらしくて─────」
その男子の事を好きだったみたいでね、クラスのカースト上位の女子が、と小泉(中学生)はそこで言葉を詰まらせた。
なんとなく嫌な予感がするな、と思いながらも俺は黙って話を聞く事にした。
「『あんな子でも可愛く見えるんだったらあたしが巫女やったら優勝じゃない?』って周囲にも言ってたらしくてさ。で、そのカースト上位の女子がうちの神社にバイト志望として来てたみたいで─────」
でも、叔父さんが断っちゃったらしいのね、と小泉(中学生)は苦笑いを浮かべながら続けた。
「え?それってバイト断られた女子に逆恨みされたってことか!?」
思わず俺は声を上げた。
まあ、そうなのかな……と小泉(中学生)は自信なさげに呟いた。
「元々、通年での神社の仕事ってのは身内だけやってるし─────お正月の時だけはバイト募集してるけど、それも高校生と大学生までの女の人が対象だから……叔父さんもそこはちゃんと説明した筈なんだけどね」
そうだよな、と俺も同意した。
「ああいうのって家族や身内でやってるイメージだしさ、一般的なバイト募集ってのも大体は高校生からだろ?小中学生でバイトしてんのってそこの家の子どもって感じじゃん」
そうなんだよね、と小泉もため息をついた。
「神楽舞は小学生の子も一緒にやるんだけど、身内とか親戚とか氏子さんとこの子がやるのが慣例だしね」
そういうローカルルール的な事情や理由があるんだけど、その女子には解ってもらえなかったみたいで、と小泉(中学生)は視線を地面に落とした。
「なるほどなあ。お前んとこの神社が『わざとイジワルした』みたいに思われたってことか」
「華やかで楽しそうに見えても、大変なこともいっぱいあるんだけどね」
巫女の着物って夏は暑いし冬は寒い、重ね着も出来ないから快適じゃないし、お祭りの前には神楽舞の稽古もガッツリある。連日夜遅くまで色んな準備だってあるし、という小泉(中学生)の言葉に俺は驚いた。
「え?練習とかあんの?それってバイト代出る?」
小泉(中学生)は首を振った。
「練習無しじゃあの踊りとか絶対無理だし、お祭りの何ヶ月も前から自主練もするよ。準備や稽古の時はバイト代はないよ」
私って特に運動とか苦手だしね、とまたしても苦笑いを浮かべる小泉(中学生)の横顔を俺は眺めた。
俺が知らなかっただけで、小泉っていろんな苦労してたんだな。
初めて知る小泉の側面に、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。
「クラスで……孤立してんのか?」
初耳だった。
確かに小泉はアニオタで腐女子、陰キャチー牛だってのはわかるんだが─────
「まあ、ちょっとね」
へへ、と小泉(中学生)は困ったような顔で笑った。
「いや、笑い事じゃなくね?なんでそうなったんだよ?」
俺がそう訊ねると小泉(中学生)は俯きながら呟いた。
「なんか、ちょっとした行き違いで変な事になっちゃったみたいで」
いいから話せよ、と俺が促すと小泉(中学生)は躊躇いながらもポツリポツリと話し始めた。
「私ね、巫女のバイトしてるでしょ?小学生の頃からやってたから自分の中では特に深く考えたことなかったんだけど─────」
小泉が巫女のバイトしてんのって小学生の頃からだったのか。
「へぇ、随分と前からやってたんだな」
俺が感心したように言うと小泉(中学生)は少し照れたような表情を浮かべた。
「へへ、まあね。大変な事も多いけどバイト代が貰えるのってやっぱり大きいし」
俺は地面に置かれた何冊かの漫画本を見た。
まあ、趣味の漫画やアニメのグッズとか買うのも金が要るしな。
小泉にとってはこのバイトってのはある種の天職なのかもしれない。
「小学校から一緒だった子はみんな、私が神社でバイトしてんの知ってたけどね。クラスのカースト上位の女子は別の小学校だったから知らなかったらしくて」
ふむふむ、と俺は相槌を打った。
「お祭りの日に巫女の神楽舞があったんだけどね。私も参加してたんだけど……それをたまたま見てたイケメン男子が『巫女って可愛いよなあ』って言ってたらしくて─────」
その男子の事を好きだったみたいでね、クラスのカースト上位の女子が、と小泉(中学生)はそこで言葉を詰まらせた。
なんとなく嫌な予感がするな、と思いながらも俺は黙って話を聞く事にした。
「『あんな子でも可愛く見えるんだったらあたしが巫女やったら優勝じゃない?』って周囲にも言ってたらしくてさ。で、そのカースト上位の女子がうちの神社にバイト志望として来てたみたいで─────」
でも、叔父さんが断っちゃったらしいのね、と小泉(中学生)は苦笑いを浮かべながら続けた。
「え?それってバイト断られた女子に逆恨みされたってことか!?」
思わず俺は声を上げた。
まあ、そうなのかな……と小泉(中学生)は自信なさげに呟いた。
「元々、通年での神社の仕事ってのは身内だけやってるし─────お正月の時だけはバイト募集してるけど、それも高校生と大学生までの女の人が対象だから……叔父さんもそこはちゃんと説明した筈なんだけどね」
そうだよな、と俺も同意した。
「ああいうのって家族や身内でやってるイメージだしさ、一般的なバイト募集ってのも大体は高校生からだろ?小中学生でバイトしてんのってそこの家の子どもって感じじゃん」
そうなんだよね、と小泉もため息をついた。
「神楽舞は小学生の子も一緒にやるんだけど、身内とか親戚とか氏子さんとこの子がやるのが慣例だしね」
そういうローカルルール的な事情や理由があるんだけど、その女子には解ってもらえなかったみたいで、と小泉(中学生)は視線を地面に落とした。
「なるほどなあ。お前んとこの神社が『わざとイジワルした』みたいに思われたってことか」
「華やかで楽しそうに見えても、大変なこともいっぱいあるんだけどね」
巫女の着物って夏は暑いし冬は寒い、重ね着も出来ないから快適じゃないし、お祭りの前には神楽舞の稽古もガッツリある。連日夜遅くまで色んな準備だってあるし、という小泉(中学生)の言葉に俺は驚いた。
「え?練習とかあんの?それってバイト代出る?」
小泉(中学生)は首を振った。
「練習無しじゃあの踊りとか絶対無理だし、お祭りの何ヶ月も前から自主練もするよ。準備や稽古の時はバイト代はないよ」
私って特に運動とか苦手だしね、とまたしても苦笑いを浮かべる小泉(中学生)の横顔を俺は眺めた。
俺が知らなかっただけで、小泉っていろんな苦労してたんだな。
初めて知る小泉の側面に、俺はなんとも言えない気持ちになっていた。
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