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ep6『夢千夜』 “壊れた夜” 第五夜 

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俺は箪笥を開け、なるべく綺麗なバスタオルを選んで小泉に渡した。

「着替えは探しとくからさ。その間に入っとけば?」

小泉は無言で頷いた。

風呂の場所を案内し、電気のスイッチを点ける。

小泉は強張った様子で脱衣所のドアを閉めた。

さて……

とりあえずどうしようか。

俺は再び箪笥を開け、小泉に貸せそうな服を探した。

────しかし。

着古したTシャツやジャージ、佑ニーサンから貰ったトンチキな服、或いは小学生の頃に着ていた小さい服しか無い。

死んだ婆さんの箪笥も開けてみる。

割烹着やエプロン、畑仕事用の服、喪服などとても無理な物ばかりだった。

小泉に着せられそうな服は見つからない。

ふと思い立ち、俺は押し入れの衣装ケースを開けてみた。

買っただけで一度も袖を通していないカッターシャツがある。

中学入学時に『すぐに大きくなって着られなくなるから』と言って爺さんが買ってくれた大きめサイズのシャツ。

当時の俺の身体より2サイズ程大きな物だったが─────

あれから爺さんが死に、俺一人になったし結局着てないんだよな。

校則違反だけど学ランの下は適当なTシャツを着て登校してるし。

一人暮らしだとさ、手洗いの洗濯やアイロン掛けまで手が回らねぇんだ。

多分これ、一生着ないだろうしな。小泉にはこれでも着せとくか。

新品だからさ、この家ではまあマシな部類の服じゃないだろうか。

俺はカッターシャツのタグを切り、脱衣所のカゴの中に入れておいた。

だが。

こっからだよな、問題は。

俺は少し考え、居間の隣の仏壇の部屋に客用布団を敷いた。

あれ?枕って二つ要るんだっけ?

俺は押し入れから枕をもう一つ取り出し、敷いた布団にセットする。

なんかこれ、前回もやったような気がするが───────

枕元にティッシュの箱を設置するととんでもなく生々しいシチュが完成した。

居間に戻り、戸棚の扉を開けて箱入りのウェットティッシュを取り出す。

コレも念のために置いておこう。

俺はウェットティッシュも枕元に置いた。

それから肝心のコレだよな─────

俺は学ランのポケットから例の銀色の缶を取り出した。

まさかコレを小泉に使う日が来るとは思わなかったが─────

けどさ、まだ確定した訳でも無いだろ?

小泉の気が変わるって可能性も大いにあるんだし。

何より、前回同様に俺の方が無理になる場合だってあるだろう。

────そうだ、まだ“実行”するって決まった訳じゃないんだ。

そんなに気負う必要は無ぇよな。

どうせいつもみたいにワーワー騒いで結局やらずに終わるんだろ?

俺は引き出しから爪切りを出し、慎重に爪を切る。

着替えも置いたし布団も敷いた。爪も切ったし、必要な品も枕元に置いた。

もうこれ以上俺がしてやれることって無ぇんだ。

まあ、ローションとか手元に有ったらなお良かったんだろうけど───今からじゃ薬局も開いてないしな。

てか、こういうシチュを見越して買っておくべきだった?

俺は首を振った。

今回だけだ。

小泉には世話になってるから助けなきゃって思っただけで────

それ以外の状況だったら俺は絶対セックスなんてしないし、やりたくもないんだ。

本当の本当に────もしも“実行”するとしてもこれが最後だ。

俺は居間でぼんやりと考えを巡らせる。

後は────小泉の返事待ちだ。

だけど、どうせいつもみたいに逆ギレしてやっぱやらねぇってパターンだろ?

俺もバイトのシフト増やしてさ、ちょっとでも費用の足しになるように協力してやらねぇとな。

普段からアニメグッズばっか買ってる小泉が、これから一切の無駄遣いも出来ないってなったらストレスだろうからなぁ。

そんな事を考えていると襖が開き、小泉が姿を現した。

「……なあ、これ……」

小泉は言いにくそうに口を開いた。

「借りといてこんなこと言うのも何なんだが────」

どうしてよりによってコレを持ってきたんだ?と視線を逸らす小泉を見た俺は一瞬、固まってしまう。





そこには、裸ワイシャツ状態の小泉が佇んでいた。
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