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ep6『夢千夜』 “壊れた夜” 第一夜

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こんな夢を見た。



バイトを終えた俺は帰宅し、シャワーを浴びて居間の畳の上で転がっていた。

時計の針は零時前を指していた。

明日も放課後はバイトが入ってるしそろそろ寝るか。そう思っていた時だった。

不意にスマホが鳴った。

アプリのメッセージではなく通話の着信。

こんな時間に誰だろう?珍しい事もあるものだ。

そう思いながら出ると震えた声が聞こえてきた。

小泉だった。

「───センセェ?」

こんな時間に何があったんだ?という俺の質問に小泉は答えない。

酷く混乱しているらしく、話にならない。

小泉の居る神社まではそう遠くない。

待ってろ、すぐ行く、とだけ言うと俺は急いで自宅を飛び出した。

自転車でもニ~三分、歩いても五分ほどの距離。

夜空には満月が浮かび、満開になった桜並木からはらはらと花びらが舞い落ちる。

俺は走りながら漠然と考える。

多分、ただ事じゃないんだろう。

部屋に虫が出たとか、そんな事じゃ決してない。

小泉は無事だろうか。

神社の入り口に着いた俺は目を疑った。

五~六メートルは有ろうかという石の鳥居。

根本にはヒビが入り、無惨に割れていた。

ふとした拍子に崩れ落ちるかもしれない。

「何だよこれ!?」

俺が思わず声を上げると物陰から小泉が現れた。

真っ青な顔をしている。

「………は?センセェ、コレって何なん─────」

口を開いた俺を小泉が制止する。

「……静かに……」

ああそうか、と俺は慌てて右手で口を覆った。

こんな時間帯だ。誰かに見つかるのは不味いのだろう。

「……さっき用事があってコンビニに出掛けて─────帰って来たところでハンドル操作を誤ってぶつかってしまって」

いつもの赤ジャージを着た小泉だが……立っているのもやっとの様子だった。

大きな鳥居の横には小泉の車が停められている。

小泉の居る神社って意外に敷地面積が広いんだ。田舎だからな。

その上、最悪なことに─────

この神社は県の重要文化財に指定されてるんだな。

本殿のみならず、この鳥居も例外ではない。

この状況だと、由緒正しい神社であることが裏目に出ているような気もする。

この規模の石造りの鳥居─────重要文化財に指定されているものを修復するとしたら?

「なあ、コレって修理費用ってどれくらいかかるん?」

小泉は首を振った。

「……そもそも値段が付けられるような代物じゃないんだが────」

安くて数百万、或いは一千万を超えるかもしれない、と小泉は震える声で答えた。

今のご時世だ。下手すりゃ二千万って事も有り得るのか。

俺はぼんやりと思考を巡らせた。

砕け散った石の破片が足元に転がっている。

真夜中の零時過ぎ。

こんな時間に────クレーン免許を持ってる訳でも、ましてや宮大工や工事業者でもない俺がここに呼ばれた理由。

そうだよな。

俺は単なる────子どもに過ぎないんだ。

俺に連絡を寄越す理由なんて他に何も無いだろ?

『呪われてる』っていう特性を除けば─────

俺は小泉の顔を見た。

その表情は……それが何を意味してるかって事の答え合わせのようにも感じられた。












俺が自分自身の役割を理解したのを察したのか、小泉は視線を逸らした。

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