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ep5.
ep5. 『死と処女(おとめ)』 さよなら大好きな人
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翌日。
幾度も繰り返した何度目かの9月。
その日は月曜日だった。
毎回同じなのか、戻るたびにシャッフルがあるのか。
曜日の感覚はわからなくなっていた。
朝のHRの前、教室では女子たちが何かを取り囲んでいた。
スマホから動画の音が漏れて伝わってくる。
朝の情報番組を録画したものらしかった。
『今、10代の間で話題のインフルエンサー!』
VTRのナレーションが周囲に響く。てか、音量MAXにしてんのか?
『新ブランドを立ち上げた若干14歳のモデル兼デザイナーに密着!』
おお、というどよめきが教室に起こる。
チラリと見えたスマホの画面には、夢野くるみの姿が映し出されていた。
1年の3学期の後、春休み中に─────弟と共に都会の父親の元に引き取られて行ったらしい。
「すごいわね、夢野さん。すっかり芸能人じゃないの」
いつのまにか教室に紛れ込んでいた佐々木が、ブランドカタログを手に取る。
夢野くるみが微笑んでいる表紙。
俺の知らない顔と表情の夢野がそこには居た。
「この学校から、しかも同級生から芸能人が輩出されるってさ、未だにマジ信じられないっしょ?!」
興奮気味の上野が食い入るように画面を凝視している。
「あーあ。こんな事ならサインとか貰っとくんだったぜー!」
いつの日か俺がブチのめしたキョロ充男子は調子のいい事を言っていた。
「そーいやさ、水森っちは夏休みに会ったとか言ってなかった?」
上野が水森に話を振る。
うん、と嬉しそうに水森が頷いた。
「一日だけだったんだけど─────こっちに帰って来た時に一緒に遊んで……」
はにかみながら水森は生徒手帳をポケットから出した。
二人で撮ったプリクラ。
見せて見せて、とクラス内の女子が覗き込む。
お揃いのフワフワしたワンピースを着た夢野と水森がそこで笑いあっていた。
「えっ!?これ、今度立ち上げたブランドのやつじゃん?」
上野がいち早く反応する。
「うん。くぅちゃんが初めてデザインを手掛けたワンピースで……」
水森が照れたように答える。
「ちょっと早いけどあたしへの誕生日プレゼントだよって─────」
うそ、マジで!という声がクラス内から上がった。
「ここのブランドの服って何十万もすんだろ!?水森すげぇ!」
陽キャ男子が声を上げた。
「くぅちゃんがプロデュースした新しい姉妹ブランドだから、10代にも手にしやすい価格帯でってコンセプトなんだけど……」
はにかみながら説明する水森。
「それにしてもすげぇじゃん。今や超有名人のインフルエンサーと親友でおまけに服までプレゼントされるとかさぁ!」
いいよなあ!とキョロ充男子が羨ましそうに言った。
水森は控えめながらもどこか誇らしげに答えた。
「─────うん。くぅちゃんはあたしの一番の親友なの」
水森の机の横に掛けられていたトートバッグの持ち手部分に“王女の証バッグチャーム”が取り付けてあるのが見えた。
それに、とカタログを胸に抱いた水森は微笑んだ。
「都会に出て、業界の第一線で活躍してるくうちゃんはあたしの誇りよ」
カタログの表紙で微笑む夢野。
水森も、上野も佐々木も、クラスの奴らも─────
興奮気味に画面を食い入るように見ていた。
みんな楽しそうに笑っている。
何が正しくて何が間違ってるかなんて俺にはわからない。
俺がやったことが正解だったかどうか誰にもわからないんだ。
予鈴が鳴り、佐々木はそそくさと教室を出た。保健室に向かうのだろう。
水森と上野がカタログやスマホを鞄に仕舞ったのを見届けたタイミングで小泉が教室に入って来る。
いつもの光景、いつもの日常だ。
自分のやったことに対する結果─────時間を戻り、世界のあり方さえ変えてしまう力。
呪いの効力の範囲の大きさに恐ろしくなった俺は、込み上げる吐き気を抑えられずに教室をそっと出た。
罰を受けるのは俺一人でいい。
もう二度とセックスなんてしない。誰も好きにならない。
俺はこれからも一人で生きていく。それでいいんだ。
幾度も繰り返した何度目かの9月。
その日は月曜日だった。
毎回同じなのか、戻るたびにシャッフルがあるのか。
曜日の感覚はわからなくなっていた。
朝のHRの前、教室では女子たちが何かを取り囲んでいた。
スマホから動画の音が漏れて伝わってくる。
朝の情報番組を録画したものらしかった。
『今、10代の間で話題のインフルエンサー!』
VTRのナレーションが周囲に響く。てか、音量MAXにしてんのか?
『新ブランドを立ち上げた若干14歳のモデル兼デザイナーに密着!』
おお、というどよめきが教室に起こる。
チラリと見えたスマホの画面には、夢野くるみの姿が映し出されていた。
1年の3学期の後、春休み中に─────弟と共に都会の父親の元に引き取られて行ったらしい。
「すごいわね、夢野さん。すっかり芸能人じゃないの」
いつのまにか教室に紛れ込んでいた佐々木が、ブランドカタログを手に取る。
夢野くるみが微笑んでいる表紙。
俺の知らない顔と表情の夢野がそこには居た。
「この学校から、しかも同級生から芸能人が輩出されるってさ、未だにマジ信じられないっしょ?!」
興奮気味の上野が食い入るように画面を凝視している。
「あーあ。こんな事ならサインとか貰っとくんだったぜー!」
いつの日か俺がブチのめしたキョロ充男子は調子のいい事を言っていた。
「そーいやさ、水森っちは夏休みに会ったとか言ってなかった?」
上野が水森に話を振る。
うん、と嬉しそうに水森が頷いた。
「一日だけだったんだけど─────こっちに帰って来た時に一緒に遊んで……」
はにかみながら水森は生徒手帳をポケットから出した。
二人で撮ったプリクラ。
見せて見せて、とクラス内の女子が覗き込む。
お揃いのフワフワしたワンピースを着た夢野と水森がそこで笑いあっていた。
「えっ!?これ、今度立ち上げたブランドのやつじゃん?」
上野がいち早く反応する。
「うん。くぅちゃんが初めてデザインを手掛けたワンピースで……」
水森が照れたように答える。
「ちょっと早いけどあたしへの誕生日プレゼントだよって─────」
うそ、マジで!という声がクラス内から上がった。
「ここのブランドの服って何十万もすんだろ!?水森すげぇ!」
陽キャ男子が声を上げた。
「くぅちゃんがプロデュースした新しい姉妹ブランドだから、10代にも手にしやすい価格帯でってコンセプトなんだけど……」
はにかみながら説明する水森。
「それにしてもすげぇじゃん。今や超有名人のインフルエンサーと親友でおまけに服までプレゼントされるとかさぁ!」
いいよなあ!とキョロ充男子が羨ましそうに言った。
水森は控えめながらもどこか誇らしげに答えた。
「─────うん。くぅちゃんはあたしの一番の親友なの」
水森の机の横に掛けられていたトートバッグの持ち手部分に“王女の証バッグチャーム”が取り付けてあるのが見えた。
それに、とカタログを胸に抱いた水森は微笑んだ。
「都会に出て、業界の第一線で活躍してるくうちゃんはあたしの誇りよ」
カタログの表紙で微笑む夢野。
水森も、上野も佐々木も、クラスの奴らも─────
興奮気味に画面を食い入るように見ていた。
みんな楽しそうに笑っている。
何が正しくて何が間違ってるかなんて俺にはわからない。
俺がやったことが正解だったかどうか誰にもわからないんだ。
予鈴が鳴り、佐々木はそそくさと教室を出た。保健室に向かうのだろう。
水森と上野がカタログやスマホを鞄に仕舞ったのを見届けたタイミングで小泉が教室に入って来る。
いつもの光景、いつもの日常だ。
自分のやったことに対する結果─────時間を戻り、世界のあり方さえ変えてしまう力。
呪いの効力の範囲の大きさに恐ろしくなった俺は、込み上げる吐き気を抑えられずに教室をそっと出た。
罰を受けるのは俺一人でいい。
もう二度とセックスなんてしない。誰も好きにならない。
俺はこれからも一人で生きていく。それでいいんだ。
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